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第104話 ライバルの存在

沢良木君は空気!










「な、なんで菅野さんはこんなところに?」


「あなたねぇ……」


 菅野さんの手を借りて立ち上がったわたしに呆れた様な声と視線が向けられました。


「あたしの事は別に良いのよ! そんなことよりあなたの事でしょ!?」


「え、えーと……」


 かなりの剣幕で言い募る菅野さんにたじろいでしまいます。

 しかし、なんと答えたものでしょうか……。


 前から学校でいじめられていて、その主犯格に偶然鉢合わせてしまい捕まっていました? ……なんて恥ずかし過ぎるんですが。

 ましてや、相手は宗君をめぐる恋のライバルである菅野さんです。情けなさ過ぎて知られるのは嫌です……。

 何とか誤魔化せは……。


「誤魔化そうなんて考えて無いわよね?」


「あ、あは、は……」


 しないようです……。


 笑顔で腕を組み逃げ道を断つ菅野さんに、わたしは愛想笑いを浮かべるのが精一杯でした。


 とほほ……。






 わたしと菅野さんは公園を少し戻り、街灯が煌々と辺りを照らす中央付近までやって来ました。


「ちょっと待ってて」


 そう言い残すと菅野さんは駆けて行ってしまいました。


 この辺りは空の面積が大きく、そこまで薄暗くはありません。夕陽が染めるあげる空はとてもキレイで思わず見上げてしまいます。


 わぁ、夕焼けキレイだなぁ……。


「……何黄昏てるの?」


「そ、そんなことないよ?」


 どうやら現実逃避も許されないようでした。


 早々に戻って来た菅野さんの突っ込みに少し恥ずかしくなってしまいました。


 遊んでいた子供達も帰り、もう殆ど人の居ない公園。街灯の下にあるベンチへ二人で腰掛けます。


「……ほら」


「ふぇ?」


 腰掛けると同時に菅野さんから手渡されたのは、ミネラルウォーターのペットボトル。

 反射的に受け取ったそのペットボトルはとても冷たく気持ちいいです。

 さっき離れたのはこれを買いに行っていたのでしょう。


 でも、なんで?


「……頬、赤くなってる。それで冷やしなさいよ」


「あ」


 菅野さんに言われたことで、松井さんに打たれた頬の痛みを思い出しました。


「跡残ると大変でしょ。早く冷やしておきなさい」


「……あ、ありがとう」


 遠慮しようかとも思いましたが、せっかく買って来てくれた物ですし、好意を無下にするのも申し訳ないので、貰うことにしました。

 そっと頬に当てると、ひんやりとしていてとても気持ち良かったです。


「えへへ、気持ちいい……」


「そう……」


 そっぽを向いたままの菅野さんにわたしは一つ笑みを溢しました。




 わたしは菅野さんに断りを入れ、家族に一報入れることにしました。

 RINEでグループトークへ友達と少しお喋りしていく旨を書き込みます。

 すぐにママからオッケーの絵文字が返ってきました。


「菅野さんは時間大丈夫なの?」


「あたしは学校で遅くなった時点で連絡はいれてるから」


 菅野さんは学校の用事で遅くなっていたようですね。


「……さて、話して貰おうかしら?」


「……何のことかなぁ?」


 改めてわたしの方へ向き直った菅野さん。わたしは最後の足掻きとばかりに惚けてみせますが。


「あなた、意外と往生際悪いのね……」


 そんな言葉と共にため息を吐かれてしまいました。


 だって恥ずかしいんですもん!

 自分がいじめられていた、なんて恥ずかしいこと普通は言いたくありませんから!


 でも、なんで菅野さんはそんなに聞きたいのでしょうか。大して仲が良い訳でも、出会って間もないわたしを……。

 ましてや、菅野さんとわたしはライバルなのです。


「あんな現場見せられたら気になってしょうがないじゃない。 それに、あなたも宗君を好きで、その……ライバルだし? ら、ライバルとは言え、そんな子が変なトラブルで離脱したって後味悪いでしょ!?」


「……」


 そう一気に捲し立てる菅野さんは、言い終わると再びそっぽを向いてしまいました。


「……ありがとう菅野さん」


 気付くとわたしはそんなお礼の言葉を菅野さんへ向け、口にしていました。

 少し乱暴な言い方でしたが、彼女の気遣いが、優しさが胸に染みていき、思わず頬も緩みます。


 沢良木宗君と言う、同じ男の子を好きになった人です。

彼に惹かれる子が悪い人な訳ありませんよね! 当然です!


 出会ってからすぐにお互いにいがみ合い、反発してすれ違っていましたが、本当は仲良く出来るのかも。なんて訪れるかもしれない未来にわたしは笑みを深くしました。


 菅野さんはわたしの言葉に目を丸くすると、咳払いを一つしました。


「なんでお礼なんて言うのかなぁ……もぅ。……はいっ、それじゃ今度こそ聞かせて貰うわよ!!!」


「うん」


 わたしは語ります。


「さっきの事を説明するためには、少し長くなるけれど……」


 昔から続く柵を。

 抜け出せなかった鬱々としたわたしの学校生活を。


 すべての元凶である自分の不甲斐なさを。


「聞いて欲しい、かな」


 そして、一人の男の子と出会い。


「わたしね…………いじめられっ子だったの」


 新しい自分に変わっていくお話を。
























「それでね、わたしの頭を撫でてくれる宗君がすごく優しかったんだー。えへへー」


「…………」


「あれ? 菅野さん? どうかした?」


 夢中になってお喋りを続けていると、菅野さんから反応が無くなっていることに気付きました。

 どうしたのか、とそちらを窺うと菅野さんは俯き、なにやらぷるぷると震えていました。


「……………………」


「?」


 返事をしない菅野さんにわたしは首を捻ります。

が、次の瞬間バッと勢いよく菅野さんは面を上げました。


「なんであなたのいじめにあっていた過去話を聞いていたのに気付いたら宗君との惚気自慢になってんじゃー!!! 羨ましい! あたしもされたいー! ふーざーけーるーな―!! 爆発しろこんにゃろぅ!!!」


「わーっ、わーっ、わーっ!?」


 突然菅野さんに肩を掴まれガクガクと身体を前後に振られてしまいました。

 それにしても凄い早口です。

 よく噛みませんね。

 さすがアイドルです!


「いや頭撫でられた事くらいあるわよっ!? でも、他人からその事実を聞くのはモヤモヤするー!!!」


 聞いてもいない意見を菅野さんは暴露していきます。


 ん? ……って、菅野さんも撫でられたことあるんですか!?


「菅野さんも撫でてもらったの!? 何がどうなって!?」


 わたしは菅野さんの腕を振りほどき、逆にその肩を掴みました。今度はわたしが肩を揺さぶります。


「わっ、わわっ。……こ、こう、抱き締められて……こんな感じで?」


 身振り手振りでそのシーンを再現する菅野さん。

 わたしは開いた口が閉じられません。


「な、ななな、なんですかっ、抱き締められてって!? どういう状況ですかっ!? どういう状況ですかっ!?」


「な、なぜ敬語? なぜ二回も言うの?」


 わたしの剣幕に引き気味の菅野さん。

 でもそんなこと関係ありません。

 何としても聞き出さなくては!


「おーしーえーてーくーだーさーいー!」


「わ、わかった、わかったからっ! 落ち着いて斉藤さん!」


 落ち着きを無くしていた菅野さんに必死に鎮められ、わたしはなんとか落ち着きます。

 立場があっという間に逆転です。


「……と言ってもね、あたしも慰められて……て言うのが大きいんだよね。宗君に助けられて、甘えて、慰めてくれて」


 そう語る菅野さんは少し恥ずかしそうに頬を染め、笑っていました。

 思い出し微笑む彼女はとても嬉しそうで。


「あたしが宗君に出会えたのも、その件の延長だったりするんだよ……」


「そう、なんですか」


 その表情を見て、チクリと胸に痛みが走ります。

 ああやっぱり、と菅野さんも本当に宗君が好きなのだと、再認識してしまいます。


 菅野さんと宗君が出会った経緯は詳しくは知りません。

けど、夏休み中に宗君と会ったあの時、RINEの相手は仕事関係だと言っていました。わたしが盗み見してしまった名前も彼女の名前で。

 そうなると、菅野さんとは仕事で知り合ったと考えられますよね。

 その先は分からないのですが……。


「まあ、そんな訳で特別な意味の抱擁では無いんだよねー」


 残念残念、と菅野さんは言うと、あっけらかんと笑いました。

 しかし菅野さんは、でも、と続けます。


「斉藤さんの話しを聞くに、あなたが宗君に撫でられた状況だって、あたしに近いものがあると思うの! て言うことは、だよ?」


「……ことは?」


「まだあたしにもチャンスがある!」


「ええっ!?」


「まあ、確かに出会ったのはあたしが後であることは間違い無いし、過ごした時間も少ないかも知れない。でも、夏休みの間あたしと宗君は毎日の様に会っていたし、一緒に居ることも多かったもの! 濃密な時間を過ごしたと思えばイーブンじゃないかな?」


 ふふふ、と不敵に笑う菅野さんに気圧されそうになります。確かに彼女の言い分も一理あると思います。


 でも、それでも、わたしと宗君の過ごした時間だって決して負けている気はしません!

 そうです、絶対に勝ってます!


 そんな意気でいないとこの強力なライバルには勝てないだろうから。


「わたしだって負けてないよ!」


 わたしも笑いながら自信を持ってライバルに返すのでした。















ますみんイケメン。

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