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第99話 初めての笑顔

本日もよろしくお願いいたします。








わたしと菅野さんは二人で昼休みの廊下を歩いていました。

保健室へ向かった宗君を迎えに行く、と言う目的です。

教室を出た際、休みに行ったのにそれを迎えに行くの? とは思いましたが、具合悪そうにしている宗君が心配で近くに居たい、と思うのはいけない事でしょうか。


それに、今日まで、の事もあります。

宗君にごめんなさいをして、許して貰いたい。そして、もっと仲良くなりたい。

その思いを胸に保健室へ向かいます。


三階建てのこの御崎高校の校舎は三階に1年生の教室を置き、下階に降りる毎に学年が上がる配置となっています。目的地である保健室は一階に位置しています。


わたしと菅野さんの間に今のところ会話らしい会話は有りませんでした。

教室では唯ちゃんに諭され、焚き付けられて一緒に教室を出たけれど、いざとなったらなったで話すことが見つからなかったのです。

チラリ、と隣に視線を向けて、菅野さんもわたしと同じように考えているのかな、なんて思ったりするけれど、菅野さんはわたしを見るでもなく廊下を進んで行きます。


どうしたらいいの?

わたしから何か話した方が良いのかな?

でも、何を喋ったら良いの?


沈黙が落ちた二人の間。

わたしの頭の中はぐるぐると考えが巡ります。


「……ん」


結局会話らしい会話もなく階段を降りた辺りで、わたしは気付きました。


かなりの視線がこちらに向いていたのです。

ここは他学年の階です。

わたしや菅野さんを見慣れない人も多いでしょう。


うぅ……、前程じゃないけれど、やっぱり苦手だな……。


「……」


菅野さんはそんな視線の中でも気にするでも無く進んで行きます。

凄いな、と思いながらわたしは意を決して話しかけてみました。


多分、これがわたしから振る初めての会話。


「さ、さすがだね、菅野さん。皆、見てるね」


「ん、確かに見られてるわね」


菅野さんは前を見たままに答えたあと、少し考えるような素振りを見せるとわたしを見ました。


「……でも、あなただって大概だと思うけど?」


「……え?」


くすり、と微かな笑みを浮かべた菅野さんに、わたしは驚きました。

初めて、わたしに笑顔が向けられたのです。

テレビで見たことのある、キラキラとした笑顔。

今向けられたものは、なんて事無い微笑みではあったけれどテレビで見るそれとは違った、本物の笑みです。

画面越しではない笑みはとてもキレイで、女の子のわたしでもドキリとする輝きがありました。


「……いや、何でもないわ」


「そ、そう?」


だけど、その笑みは直ぐに消えてしまいました。

結局、その後は会話も無く保健室まで辿り着くのでした。








入学後初めて入る保健室。少し緊張しながら入ると、この学校の養護教諭に迎えられました。目付きは少しきつめだけれど、凄く美人な先生でした。20代後半でしょうか。


「いらっしゃい、どうかしたのかなぁ?」


「……」


切れ長の鋭い印象を与える瞳だけれど、その声色は正反対に間延びした優しげな色で、わたしの緊張も解れだします。


しかし、思わずわたしの視線はある一点に向かってしまったのです。



うわぁ……どうやったら、こんな風になれるの?


無意識にちらりと、自分のなだらかで自己主張を殆ど見せない僅かな起伏に視線を走らせてしまいました。

そこから隣にも。


……そう、何を隠そう、お二人の大きなお胸であります。


わたしは今大きなお胸の持ち主達に挟まれているのです。

二人の比べ、わたしは貧にゅ…………………いや、ちゃんとあるからね!?

Aだって、脱いだらあるんだからねっ!!!


「……ぅぅぅ」


……自分の胸中の言い訳に、何ともいたたまれない気持ちになってしまいました。


「ふふ」


わたしの心情を察してかそうでないのか、先生はわたしを見て笑います。その笑みは微笑ましい物を見るようで、落ち着かなくなるわたしでした。


「あの、こちらに私達のクラスメイトの沢良木宗君と言う生徒が来ていると思うのですが……」


菅野さんの言葉で先生の視線もわたしから外れます。

そして、ああ、と頷くと視線をベッドのスペースへ向けました。カーテンが閉められている所に宗君は寝ているのでしょうか。


「彼は今、ベッドで寝てたわよー? よっぽど具合悪かったのね。直ぐに寝てしまったわ」


「「ぅぐ……」」


よっぽど具合悪かった、と言う先生の言葉にわたしと菅野さんは揃って言葉を詰まらせてしまいます。


「それで、どうかしたのかな?」


「あ、いえ、宗君の様子を知りたくてお邪魔したんです」


「そうだったのぉ。でも、あなた達の声を聞いても出てこない所を見ると、ぐっすりかなぁ? ふふふ、ベッドに連れて行ってあげたら直ぐに横になったしねぇ」


先生はそう言うと宗君が寝ていると思われるスペースを今一度見ました。

口元を緩め、流し目を送るその姿はどこか色っぽく見えて、ドキッとしてしまいます。


な、なんの目なのそれっ!?

それに言い回しもっ!!!


隣の菅野さんも同じだったんじゃ無いでしょうか。

その横顔には朱が見え、どぎまぎしているようです。

堪らず、と言った様子で菅野さんは口を開きました。


「そ、それ、どういう意味ですかっ」


「ん? そのままだけどぉ?」


「ぐ……」


にこやかな表情を崩さずに先生は言います。


確かになんて事無い会話だけれど、菅野さんとわたしが聞きたいのはそんなことじゃないの!

その意味有りげな笑みと視線と言葉に含まれた意味!


「それにしても彼、凄くイケメンよねぇ」


「そ、それが……?」


「……?」


突然話の方向が逸れ出す先生にわたし達は揃って身構えます。

そんなわたし達を気にするでも無く、先生は続けました。


「凄く私の好みなのー」


淫靡な印象をうける舌舐めずりを一つして。


「……食べちゃいたいぐらい」


爆弾を投下しました。


「「ダメっ!!!」」


気付けばわたし達は身を乗り出し、反射的に声を張り上げていました。


「ふふふ、冗談よ冗談! あなた達が可愛くてつい、ね?うふふ、若いって良いわぁ! それよりも、しー、だよ?」


なんて質の悪い冗談でしょうか。

寿命が随分と縮んだ気分です。


ここは保健室なんだから、なんて人差し指を立てて笑いながら言う先生をわたし達は睨むしか出来ませんでした。

余計な事言ったのは誰だよ、と。


可笑しそうに笑う先生にわたし達は揃って。

性格悪いよ、とため息を吐いたのでした。









…………でも、宗君も男の子です。


やっぱり先生や菅野さんみたいなスタイルの良い女性の方が、良いの、かな……。


「……はぁ」


視線を再び自身の胸に落とすと、先程とは違うため息が出てしまうのでした。










ご覧頂き、ありがとうございます。


保健室の先生はこうでなくっちゃ( ´∀`)


次回もよろしくお願いいたします。

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