獣人救出とサンドリッヒ王国
「連れていかれた・・・」
「誰に!?」
「奴隷商人だ!」
奴隷商人、実在するとは・・・でも、他国で奴隷狩りなんてしたら国際問題になるんじゃないだろうか。
まぁこんな事は後で御偉いさんが考えるとして
「騎士団とかには報告したのですか」
「騎士が二人王都に向かったがいつ戻ってくるか」
「襲われたのはいつなのですか」
「つい3日ほど前だ」
「だ、そうですよ竜次さん」
3日前、つまりまだ砂漠を出た可能性は低い。今からならまだ追い付けるだろう。
「よし、追いかけよう」
「追いかけるって、むりだ!」
「無理じゃない。方法はある」
「本当か!?」
「本当だ!」
「・・・なら俺も連れてってくれ」
「わかった」
竜次はその場でAHN-MARKⅠを出すと口をポカンと開けているケイルを助手席に放り込むと急いで出発した。
「な、なんだこりゃー!!」
「AHN-MARKⅠだ!いわゆる水陸両用車ってやつだ」
「その水陸両用なんとかは解らないが、とにかくすげぇ」
「そうですわ、私の旦那様はとてもお強いうえにカッコいいのですわ」
「まぁた始まった。サクラのノロケトーク」
「だから旦那じゃない!」
なんだろう、この会話いつまで続ければいいのか。毎回毎回こんな事を言うのは疲れる。いっそのこともう結婚するか・・・
AHN-MARKⅠを走らせること数時間前方に商隊らしきものが見えてきた。竜次はAHN-MARKⅠを商隊を遮るように停める。
「すみません。少しお聞きしたい事があるのですが」
「なんですか」
「皆さんは商人の方ですよね、少し探し物をしていて荷台を見せてもらってもいいですか」
「すみません。それはできませんね」
「はて、何か秘密にしなければならないものでもあるのですか?」
相手の表情を見る限り完全に黒だ。俺は更に探りをいれようと話しかけると荷台の中から数人の武器を持った男達が出てきた。
「お前ら男は殺せ、女は生け捕りにしろ!」
武器を持った男達が一斉に斬りかかってくる。しかし、ここは砂漠だ。相手も俺達も足がとられて思うように動けない。
俺は自分の足場を硬化魔法で一瞬だけ固めると次々と男達の意識を奪っていく。彼らには奴隷の証しと思われる首輪がついていたのだ。
「さて、お前を守る者はいなくなった。荷台を見せて貰う」
竜次が荷台へ向かって歩き始めたそのとき。周りを不協和音が包み込んだ。
「うぁぁぁやめて、やめてくれ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「やめなさい」
不協和音を聞いた皆が半狂乱状態になる。原因は恐らくこの聞こえて来る声だ。
『殺せ死ね呪う助けて死にたくないお兄ちゃん助けてお母さん死ねお前のせいだ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を死を』
「どうだ、苦しいだろ、怖いだろ、諦めるんだ。これを聞いたら最後たっぷり苦しんで死んでゆくのだ」
奴をみると手になにやら藁人形のようなものを持っていた。
俺は押し潰されそうな意識のなかなんとか魔法を発動する。
「・・・再生」
瞬間あたりが時間を巻き戻すように動きだす。そして藁人形が使われる前に戻ると俺は商人の意識を奪って藁人形を回収した。
「竜次さんありがとうございます」
「助かったぜ」
「しかしあれは危険だ」
「ああ、帰ったらノイルとラグナに報告しないとな」
俺達は案の定荷台に乗せられていた獣人を保護すると転移魔法で町へ戻った。
「ありがとうございました」
町へ戻ると解放された喜びと安堵から竜次達にお礼を言い泣き出すが人もいた。
そこへ騎士がやって来た。
「どうやら既に解決したようだな」
「はい、この冒険者の方々が助けてくれましたので」
「ほぅ、それはどうも我が国民を助けていただきありがとう。陛下に代わり心よりお礼申し上げる」
髭面の中年位のおじさんが馬から降りてやって来た。見た目は年だが服の上からでもわかるほど鍛え上げられている。そうとうなものだ。
「いえいえ、それよりも皆さん無事でよかった」
「まさか、あなたはタムロス騎士団長!」
「タムロス騎士団長!?」
サクラが驚いたように声をあげる。それを聞いたタムロスも驚いたように目を見開いていた。
「まさか、あなた様は・・・」
「はい、お久しぶりですわ」
「お久しぶりですサクラ様。まさかこのような場合におられるとは」
「私もこのような場所でお会いするとは思いませんでしたわ」
「ハハハ、それにしてもお美しくなられた。では彼が竜次様で?」
そう訪ねて来るタムロス。まさか騎士団長に名前を知られているのとは。
「はい、そうですが。なぜ?」
「噂で聞いたのです。カリウドリア公国の皇女と婚約した凄腕の冒険者と」
「そうだったんですか・・・ですが様はやめてください」
「しかし」
「タムロスさん竜次さんはそういうのは苦手なので友人のように接してあげてください」
「そうですか、わかりました」
うん、なんかランベルトと同じ感じがするしすごくいい人そうだ。
「タムロスさんよろしくお願いします」
「おおっ!よろしく!」
「あっ!そうそうタムロスさん。竜次さんは、凄腕の冒険者ではなくて、世界最強の冒険者です。更に今カリウドリアで話題の道具屋、マギア工房の店主なんですから」
まただ。サクラのノロケトーク。嫌ではないのだがその、面と向かってこう褒められるとすごく気恥ずかしいのだ。
わかるだろう?皆も経験したことがあると思う。学校で一人表彰されるとか、あのむずむずしたような恥ずかしさだ。
「ではそろそろ私はこいつらを連れて王都にもどるかな。サクラ様、竜次殿もし王都によるようでしたら是非一度」
「あの、このまま王都に戻るんですか」
「ちょうど郊外演習を終えたところだったからな」
「じゃあ一緒に行きましょ」
「わかった。じゃあ一緒に行くか」
決まりだ。AHN-MARKⅠを出すと皆次々と乗り込んでゆく。最後に奴隷商人を乗せるために荷車を作り後ろに繋げる。
「さ、早くタムロスさんものってください。いきますよ」
「あ、ああ・・・」
竜次は全員が乗ると直ぐに出発した。道中タムロスが子供のようにはしゃいでいるのがとても面白かった。
そして暫くして、そこは直ぐに見えてきた。門に着くと案の定騎士に止められたがタムロスが出ていくと直ぐに開けてくれた。
「本当に助かった。しかし凄いなこれは、是非我が国にも欲しい。どうだ?売ってくれないか」
「すみませんね、まだこれは売ってないんですよ」
「まだ・・・か、」
「はい、まだです」
竜次達はそんな、意味ありげな事を話しながら応接室へ向かった。国王陛下に会うため急ぎ取り次いでくれるそうだ。
暫くして、一人の騎士が部屋の戸をノックして入ってくる。
「国王陛下がお待ちです。どうぞこちらへ」
読んでいただきありがとうございます。
これでこのお話は年内最後の投稿となりますので、皆様良いお年を。
次回は三が日の投稿となりますがぜひ読んでください。