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いつか貴方に花束を  作者: レフ・エルザ
9/11

その他大勢のひとり(8)

この通り、夢も希望もない場所だが、実はトロッコ班に回されたことだけは運がよかった。

というのも、トロッコで危ないのは朝日を浴びる可能性があることと、稀に積んだ瓦礫が崩れてその下敷きになるということぐらいである。

本番はこの日中から夕暮れの総員で掘削作業である。

ちまちまと掘り進める分にはさほど大きなトラブルは起きない。

しかし、総員で行えば、下手な鉄砲もなんとやらでトラブルを引き当てる可能性が跳ね上がる。

適当に掘っているふりをしてやり過ごすようにしていかに不自然にならないか考えながら行動せねばならない。

もっとも、生前からの特技だったのだろうか、目立たないようになじむように・・・空気であるようにと行動するのはどうやら得意なようである。

人間であれば平均値を滑るようにそって低空飛行を続けるような、そんな実に面白みのない人間であったろうが、現在の生き残るすべとしてはなんとも情けない話だが役に立つ。


どうやら早速向かって右手側の方でトラブルが起きたようだ。

スケルトンたちは仲間が死んでも悲鳴も上げなければ、逃げもしないのでわかりにくいが、死亡時に灰のようになり、霧散する。

先ほどのような一体だけであれば、流れるように消えてゆくのだが、現在は総員掘削作業中のために密集度が高い。

そのため、大きなトラブルがおきると、そこに大量の白い煙が上がる。

それが右手側に見えたので、右の方で何かが起きたことは間違いなさそうだ。

やっかいなことに白い煙が近づいてくる。

私はゆっくり、着実に左へ左へと掘るふりをしてずれていった。

危ないことには近寄らないが吉である。

しかしながら、白い煙は次第に近づいてくる。

その速度はおよそ人が早足で歩くぐらいの速度である。

この足の遅い体でも普通に歩いて逃げれば逃げられなくはない速度であるが、目立たないように偽装しながら逃げるのにはすこし速度が足りないようだ。

白い粉塵はほぼ目と鼻の先まできた。

そしてその原因がはっきりとわかった。


丈が2mほどある巨大なスライムである。


ここで大抵が想像するスライムとは丸っこいかわいらしいぷるっとした餅みたいな存在ではないだろうか。

否、現実はそんなかわいらしい存在ではない。

今、目の前に迫ってきているのは、悪臭を放ちながら周囲の岩や同僚たちを溶かしながら突き進むその姿は、津波に口のような穴を空けたねっとりとした粘り気のある化け物である。

スケルトンも魔物なんだから仲良くやれるのではと思ったら、それも大間違いである。

ある種、このスライムは『天災』に近い。

特に意思がある様子もなく、周囲ものをひたすら飲み込みながら突き進み、そのうち地面に吸い込まれるように潜っていく。

そもそも同じスケルトン同士でもコミュニケーションとれないわけなので、同種でもないスライムと仲良くすること自体無理な話なのである。

岩の間の僅かな水分をすすりながら住んでいるのを、この掘削作業でたたき起こしてしまうことがしばしばおこり、こうして多くのスケルトンが犠牲になっている。

問題は、物理攻撃が一切効かないこと。

なので、今・・・私は非常に厳しい状態に立たされている。

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