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いつか貴方に花束を  作者: レフ・エルザ
8/11

その他大勢のひとり(7)

さすがに砕け散った後でもう一度ということもなく、残った骨のかけらも崩れ落ち、ほころび始めた麻のように崩壊は止まらず灰のようになって空気中に分散していく。

こうして表現すると、なんとなくきれいなもののように感じるだろうが、実際は非常に速やかに無感動に処理されていき、悲しむものどころか、目に留めるものも私以外にはいないので実に合理的に始末されていくというのが正しい気がする。


そうして同僚の最期を看取っていると、トロッコには瓦礫が山積みになっていた。自分の仕事であるトロッコ押しが回ってきたわけだが、私は動かなかった。

こっそりと身を潜めてトロッコから離れてツルハシを握り、掘削班に紛れ込む。

そうしている間に別のスケルトンがトロッコを押して外へと運び出していった。

私は心の中で「すまない」と謝罪して、同じく心の中で手を合わせた。実際にそんな行動をすると周囲になじめず目立つからである。今のところ周囲に溶け込み、その他大勢のひとりとしてやっているぶんには何の問題も無いが、なんとなくだが目立つとろくな事が無いという思いが生前の体験のなかのどこかで身にしみているらしく、目立ちたくないのである。

さて、私の代わりにトロッコを押していったスケルトンだが、おそらく今頃朝日に照らされて、さきほどの落盤事故でお亡くなりになった同僚同様、空気中に霧散している頃であろう。

所詮アンデット故、お天道様のしたは歩けないのが宿命なようで、歩いたが最期で体が崩壊してしまうのである。


これはここ数日で身につけた知識である。

掘削班に自然に紛れ込めるようにこっそりと目立ちにくい岩のくぼみに隠してあるつるはしの柄にここに来た日数を刻んでいるので、改めて何日経ったかカウントしてみた。

どうやら本日で十日目のようだ。


ここでうまく生き残っていくのには頭を使わなければない。

実は・・・というか、わかりきったことだが、ここの労働条件は非常に厳しく、見返りはゼロである。

過酷というか、おそらく悲しいことに我々は使い捨ての備品といったところか。

それはそうなのである。

所詮アンデットなので死者がいる限り、いくらでも補充がきくし、みるかぎり不平不満やストライキなど反抗を起こすこともない。

理想的な労働者である。

んー・・・なんと言っただろうか。

生前の記憶が「ブラック企業に遣える敬虔な社畜」というキーワードがよぎる。

人としての記憶は中途半端なのでよくわからないが、おそらくろくでもないことを示している。


特に設計にそってやっているわけでもなく、大きな計画性もなく掘削をしているものだから、落盤事故はしょっちゅう起こっている。

くわえて、先ほどの日光消毒事件は毎日必ず一度は起きる。というのも、一人が犠牲になったらその日のトロッコ押し終了の指令が発せられるからである。

なので心苦しいが、自分が犠牲にならないようにあえて人身御供を誰かにさせねばならないわけである。

さいわい、青ランタンの上司もさほど個体識別ができているわけでもなく、どうやら簡単な指令をどこからか受けているだけの存在のようで、一定の動きで一定の仕事しかし無い。

その証拠がさきほどの人身御供発生で、トロッコライン停止という行動である。

青ランタンの上司が中間管理職だとすればきっとさらに上の上司がいるはずだが今のところはみたことがない。

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