その他大勢のひとり(10)
とりあえずの危機は乗り切ったが、次もうまく行くとは限らない。
なんとか自力での解決策を探さなければならない。
このような騒動が起きた後だが、この集団は動揺することはない。
なので何事もなかったかのように皆、そのまま作業を続けていく。
私も不自然に見えないようにそっとまた集団に溶け込んでいった。
握りしめるツルハシの柄には1ヶ月経過したことを示すキズができていた。
スライム騒動から20日ぐらい経過したのだが、その間も色んなハプニングがあった。
今日もトラブルが発生したようだ。
すぐ近くでワームが発生したようだ。
このワームというのは、巨大なミミズに凶悪なまでに歯がびっしりと生えた丸い口のついた虫系モンスターである。普段は土を食べているようだが、カルシウム豊富なスケルトンもおいしくいただけるようだ。
ミミズと同じくある種、生き物を分解して土を肥やすような類いの生き物ではある。
我々スケルトンにとっては所詮害虫だが。
スライムよりは危険度が低く、そしてなにより発生頻度が多いため、このワーム対処はよくなれたもんだ。
ワームは目が退化しているので、音に反応する。
そして、非常に都合のいい習性があるのでそれを応用すると対処できるのである。
本日も同僚の皆様には多少尊い犠牲になってもらって、その間に私は少し距離を取る。
青ランタンの上司がいれば、スライムの時同様に焼き払ってもらえるのだが、今日は少しばかり離れているので、そこまで移動するよりは自分で対応する方が早そうなのである。
距離をとって、ひたすらに掘って、掘って、ほりまくる。
ほかの壁よりもややくぼみが大きめに出来上がる。
私一人の作業なので、穴というほどの大きなものはできない。
しかし、これで大丈夫なのである。
くぼみがある程度できたのを確認して、私はそこから離れる。
あくまで不自然にならないように気をつけながらであるが。
するとワームは周囲のスケルトンを砕きながらゆっくりと私のいる方に向かってずるずると体を引きずりながらやってきた。
ちょうどくぼみのあるところにさしかかったのをみて、私はその辺の石をくぼみに向かって投げつけた。
がきん、と音が鳴り、洞窟内に反響する。
ワームはそれと同時に停止する。
そしてくぼみに向かって突進して、自らの口でそのくぼみを掘り進めてちょうど自分が通れるだけの穴を空けながら去って行った。
ワームは穴っぽいところがあったらはいりたくなるようなのである。
それが中途半端なくぼみ程度であってもいいようで、出現時にはこれでいつも切り抜けている。
多少犠牲は出たものの、その後できた穴は、掘りやすくなるからありがたいもんだ。
ほかにも様々な生物が出現するが、今のところ物理攻撃が効くものばかりなのでなんとかなっている。
強敵であったスライムも、実はあれから地下水脈が発見されて、地底湖ができたことによって、スライムたちはこぞって湿気の多い地底湖周辺に集まり、被害の発生が収まった。
棚ぼたではあるが、驚異が減ったことはうれしいことである。
しかしながら、目に見えて同僚たちの消耗率は高く、一時期の半分を切った個体数となっている。
そろそろ、人手不足である。
そう思っていたら、青ランタンの上司が新人をつれてやってきた。
わずか1ヶ月で消耗されたための補充要員たち。
まさに使い捨て上等のブラック企業である。
さて、私にもついに後輩ができたわけだが。
何があるかと言えば、特に何も無い。
ここに来て先輩風を吹かすようなやつもいなかったが、後輩だからといって慕ってくれるのもいない。
当然、新人のあの女の子がかわいい、タイプだ!・・・ということもない。
むしろ、骨格だけみてそれを言ってしまうようになったら、たぶん私の自我は崩壊しているのだろう。
未だに私の自我が破綻していないことを喜びと感じよう。
ちょっぴりとさみしい気もしないでもないが。