その他大勢のひとり(9)
自分に何ができるかというと、情けないことに逃げることぐらいである。
どこかの物語であれば、蘇りにより何かしらの能力や強靱な力などを手に入れて最強のように振る舞うものだが、現実はそうはいかない。
食べ物の摂取が必要ない、疲労を感じないという優位点以外は、皮膚もなければ筋肉もないという紙のような防御力で、筋力が無いのにつるはしを使うことができるという不思議な体であるが、普通の筋力に毛が生えた程度であろうか、驚くべき怪力は無いようである。
ましてや足は遅い。
恥をこらえてこっそり魔法でも出ないか練習したが、見事にからぶった。
何かないかと考えるものの、自力突破口は見当たらない。
自分で堀った瓦礫をトロッコに積む動作のまま逃げるように横に横にと距離をとれるように、不自然にならないように逃げた。
しかし、スライムの速度の方が圧倒的に早いために次第に距離は縮んでゆく。
さきほど遠目で見えたスライムはすでに400メートルほどまで迫ってきている。
気持ちだけあせるがいい案が思い浮かばない。
何かないか、何かないかっ!
スライム到達まで残り200メートル。
頭によぎったのは以前同様の出来事を解決した時のこと。
逃げる方向さえ間違いなければ・・・
運が悪くなければ・・・
きっとそこまで逃げればなんとかなるはず。
とにかく、瓦礫を乗せたトロッコをひたすら入口付近に押しながら進む。
スライム到達まで残り100メートル。
外からの光が見えるぐらい入口付近まで近づいた。
頼むから、そこにいてくれ!
そして気づいてくれ!
粉塵はもはや私を包み込むまで広がり、迫っていた。
周囲は白く、外からの光だけがぼんやりと見えるだけで、一面霧に包まれたような状態だ。
スライムの末端が私のすぐ後ろのスケルトンを溶かす。
もはや、ここまでか・・・
諦めかけたそのとき、青い光が横切った。
とたん、スライムが青い光が包み込み身をよじり、苦しげにその場でもだえ始めた。
どうやら、運は私に味方してくれたようだ。
入口付近ではトロッコ開始の合図を出すべく青ランタンの上司が待機していたのだ。
以前もスライム騒動の時、青ランタンの上司はそのランタンにくべられている青い炎をスライムにぶつけて、スライムを燃やして沈静化させていた。
物理攻撃の効かないスライム相手には青ランタンの上司が持つこの炎が非常に効果的で、可燃物のように一気に燃えて、次第にスライムは小さくなってゆき、それとともに青い炎も沈静化する。
青ランタンの上司はその様子をじっと見つめて、スライムが完全に消え去ったのを確認すると再び持ち場へと静かに戻っていった。