若葉荘へようこそ!
恋愛物を書き始めました!
基本こちらはサブ扱いなので、月1更新とさせて頂きます。
どちらもよろしくお願いします。
一目見た時に、周りの時が止まったのかと思った。
ドキドキと高鳴る心臓と、荒い俺の息遣いだけがこの空間で唯一聞こえる音。
だけど、俺はそんな事よりも、目の前で微笑んでいる彼女だけを見つめていた。
大きな桜の樹の下に1人佇んでいる彼女。
とても美しく儚い微笑みを浮かべ、彼女も俺の方を見ている。
誰が言っていた事だっけ?
桜の樹の下には死体が埋まっているのだと。
そう、彼女は普通の人では無かった。
何故なら、彼女には影が無かったから。
何故なら、彼女は透けていたから。
何故なら、彼女は幽霊だったから。
「おう、やっと今着いたとこだぜ。んっ?あぁ、そうそう。荷物は今日の昼過ぎに来る様にしたから大丈夫だって。なんか足りなくなったらコンビニもあるし…だから、大丈夫だって!部屋も見たけど、綺麗だったじゃん」
大学生へと進学するついでに、初めての一人暮らしとして、ここ「若葉荘」へとやって来た。
木造建築の二階建てで全8部屋。
築40年と、やや年季が入り過ぎている気もするが、部屋へ入ってみると小綺麗にされており、そこまで古臭くは感じない。
それに、大学へも交通の便も良く、最寄駅まで徒歩10分。
コンビニは徒歩5分圏内に2箇所あり、さらに駅からの通りには商店街もあったので、そこで買って来たホカホカコロッケと唐揚げ。
あと、コンビニで買ったキャベツの千切りとレンチンの米、それにインスタントの味噌汁が今日の昼飯だ。
今日は荷物がまだ届いていないのでレンチンの米を買ったが、確か母さんが最初の仕送りだって5キロの米を段ボールに入れていた気がする。
母さん曰く、「日本人。米さえあればなんとなかる」だそうだ。
「はいはい。分かった!分かった!何か問題があったら電話するから!もう着いたから切るぞ!」
何かと文句を言ってくる母親との通話を切って、ずっしりと重い肩がけのバックを背負い直し、大家さんであるお婆ちゃんから貰った鍵を取り出して、104と書かれている玄関に鍵を差した。
ここ若葉荘の大家さんは、今年80歳になると言う「若葉うめ」さんで、101号室に住んでいて、いつも、にこにこ明るく優しいお婆ちゃんだ。
最初に挨拶に行った時も、初めての一人暮らしに緊張している俺に優しくしてくれていたし、帰りにはミカンも貰った。
田舎のおばあちゃんとかって、知らない人でもミカンとかやたらとあげるよな。
あんな感じで、「ミカンあるよ?持って行きなさい」と手渡されたのだ。
この若葉荘に今住んでいるのは、俺を含めて9人とペットが全5匹。
101がさっきも言ったが大家の梅婆ちゃん。
102がシングルマザーで赤ちゃんがいる。
103がフリーターのちょっとヤンキーっぽい人。
104が俺。
201がOLのお姉さんと猫が2匹。
202がサラリーマンと犬が1匹。
203が部屋にこもりっ放しだが、ちゃんと仕事はしているらしいちょっとオタクっぽいおっさん。
204が俺と同じで大学の女の子と兎が1匹。
以上がここに住んでいる全員だ。
ん?ペットが1匹少ない?
あぁ、それは、半野良の猫がいるからだそうだ。
俺が来た時には会わなかったが、梅婆ちゃん曰く、真っ黒な猫でここの皆からは黒ちゃんって呼ばれているらしい。
「さて!引越し屋が来るまでに飯食っとくか
な。来たら来たでバタバタしそうだし」
部屋へと上がり、何もないガランとした部屋で独り言を言いつつ、買って来た物を床に置く。
「あっ…いっけね。レンジ無いから梅婆ちゃん所で借りねぇと」
ご飯と、引越しの挨拶にって母さんに持たされた菓子折りを持って梅婆ちゃんの部屋へと向かう。
「梅婆ちゃんー!いるー?」
「はいはい。良樹君かい?」
「ハッハッハッハッ」
ガチャと玄関が開き、梅婆ちゃんとその足元に豆柴が出て来た。
「そう!レンジ借りてもいい?あと、これ!つまらないものですが。よう!久しぶりだなーももー!」
そう言って、菓子折りを梅婆ちゃんに手渡して、足元にいる豆柴のももちゃんをワシャワシャと撫でる。
ももちゃんは上に住んでいるサラリーマンのわんこで、今年で2歳。
サラリーマンさんが仕事で居ない時には、梅婆ちゃんが預かっているのだとか。
俺が挨拶に行った時にそう説明された。
梅婆ちゃんも1人だと寂しいので、ちょうど良いわぁなんて言って笑っていた。
「あらあら、ここの羊羹好きなのよー。ありがとうねぇ。良樹君、お昼これからなの?」
「そう。この後引越し屋が来る予定だから、今の内に食べとかないと部屋が片付かねぇ」
今が13時50分で、引越し屋が来るのが15時だから、今の内に昼飯を食べて、空いてる時間に引越しの挨拶をしようと思っていたのだ。
「まぁまぁ、なら、ここで食べちゃえば良いわよ。お昼の残りで悪いんだけど、ほうれん草の胡麻和えと鯖の味噌煮があるわよ?」
「マジで!じゃあちょっと待ってて!」
そう言ってダッシュで自分の部屋に戻り、ガササッと食べ物を持って再び梅婆ちゃんの部屋へと向かった。
「梅婆ちゃん!この味噌煮美味いよ!ご飯が進む進む!」
「あらあら、お代わりするかい?」
「えっ!いいの?」
「うふふ。やっぱり男の子ねぇー。みるみるご飯が無くなっちゃうんだもの。見ていて気持ちいいわぁー」
そう言いながら、スッと新しいお茶碗にご飯を山盛りに装って目の前に置いてくれる。
「ハッハッハッ」
「まぁまぁ、ももちゃん。これはももちゃん食べれないのよぉ」
さっきからちゃぶ台の上に顔を乗せて「いい匂いね!それって食べ物なんでしょ?そうなんでしょ?」ってヨダレを出しながらそんな顔でこっちを見ていたが、梅婆ちゃんが駄目よって態度を取ったので、「えー!なら、いいわよ!」って拗ねたのか、部屋の隅っこに行き丸くなった。
「そうそう、ここの桜見たかしら?綺麗に咲いているでしょう?だから、毎年お庭でお花見をしているのだけど、今年は良樹君とあなたの上の階の小春ちゃんが越して来たから、歓迎会も兼ねて今日のお夕飯頃に歓迎会をしようと思っているのだけど、どうかしら?もちろん、お夕飯も付けるわよ」
「えっ!マジで!行く行くやるやる!引越しの片付けパパッと終わらせるから!」
「まぁまぁ!よかったわぁー。なら、7時頃にお庭でゴザを敷いているから、片付けが終わったら来て頂戴な。その時に他の住人と挨拶すれば良いわよ」
「そっか!今居ない人いるもんな。折角だからそうするよ!それじゃあ、早く飯食って引越しの準備しないと!」
そう言って目の前に並んでいる昼飯を平らげて、梅婆ちゃんとももちゃんに一旦別れを告げて、引越しの人早く来ないかなーと思いながら、自室で準備を進めて行った。
出来たら、今後は書けた分を月末に投稿させて貰います。