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誰が為に  作者: 亮之介
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契約の大公

「んで?俺になにしようってんだ?」


朝食のピザトーストを頬張りながら、悪態をつく雷太、その矛先は依然7番に向かっている。


「なんだよ、つれないなぁ」


と言いながら7番もまたピザトーストを齧る。

否、その表現は不適切であり、実際のところは仮面にピザトーストを擦りつけている。

しかし、仮面から放すピザトーストにはしっかりと歯型がなくなっており、四角だったトーストは歪な五角形になっている。


「神話やら伝記やら昔話や漫画やアニメで語られる悪魔様が一体全体平凡な高校生である俺に何の用だ?って聞いてんの、俺ぁそんな叶えたい願いやら野望は持ち合わせてねぇぜ?」


「そんなたいそうなモンはいらねぇよ 欲しいのはおまえの魂だ」


その言葉は、これまで聞いてきたどんな言葉よりも冷たく、冷酷に、残酷に聞こえた。

彼は言った、欲しいのはおまえの魂だと、つまりそれは…

「…つまり…お前は俺を殺しに来たと…?」


「ああーあぁ!」

ふいの大声に警戒心むき出しの雷太は思わず飛び跳ねる、その様子を横目に見つつ続ける7番。

「悪い悪い、いまのは語弊があったな」

とヘラヘラしながら平謝り。


「どういうことだよ…?」


「つまり、俺はお前の魂と、いや、お前と契約しに来たんだ」


契約の対価は魂、ということになるということだろうかと思案する雷太。


「そんな警戒するこたぁねぇぜ、別にするかしないかはお前に任せるし、断ったところでお前に危害を加えるつもりもない」


「契約って、あんまし良い印象持たないんだが…?」


「だからそんな警戒するなって」


どこから取り出したのか、タバコを咥えると7番は語り出した。


「お前は悪魔って聞いてもさほど驚かなかっただろ?それもそのはず、お前は俺たちのことをよーく知ってるはずだ。

日常的に"見ている"ものに警戒する必要もない」


そこに疑問を抱いた雷太はとっさに水を差す。

「待て待てー」


「いや、お前が待て」

その言に言を重ねる7番


「そう、お前は見ているんだ、俺ではないが、他の悪魔やら天使を、日常的に」


「俺らには特殊な術式が組み込まれててな、人間の目に触れても、見た人間は俺らのことを無意識に意識から外してるんだよ、外しすぎるほどに外してるんだよ」


「なぜ2度言ったかはさておき、つまり、普通の人間がお前らを見ても認識できねぇってことで良いのか?」


「その通り」そう言いながら7番はテレビの電源をつけた。

その光景に雷太は驚く。

いつもの朝のニュース番組、その内容、近所の廃工場で謎の血痕が残っていた、というニュースに

ではない。

アナウンサーの背後、今超話題のアナウンサーの背後に、7番のような仮面の女性が立っていたのだ、さも当然のように。

7番が、チャンネルを変える、朝の子供番組なのだが、それに混じって背の低い子供のような、否、子供が1人、仮面をつけて走っているのが見えた。

また7番がチャンネルを変える、また別のニュース番組のようだが、昨日行われた国会の様子が映っているのだが、俺もよく知る人物、稲瀬首相の背後に、筋骨隆々とした仮面をつけた男が確認できた。

そこまでくると7番は無言でテレビの電源を落とした。


「見てもらった通りだ」


「ーーーーー」


驚愕で言葉も出ないとはこのことを言うのだろう。


「…かなり半信半疑だったが、これもデマカセ…というには出来すぎてるよな」


「信じる気になったか?」


信じぜざるを得ない、これがもし事実だったとして


「事実だったとしてだ、それでも疑問は拭いきれてないよな」


「と言うと?」

そう言いながら7番は首をかしげる仕草を見せた。

そして、雷太が口を開けるより早く、その疑問を自ら口にした。

「お前がここにいる理由が余計わからなくなった…か?」


「悔しいが、その通りだ」


雷太の額には汗が浮かぶ。

気持ち悪い、心底気持ち悪い変な気分だ。

他人に自分の心を見透かされるのは。


「俺みたいなただの高校生にお前が言い寄ってくる理由なんてないよな?」


「あるんだな、それが」


言うと仮面の目の位置にある黒い穴から煙を吐き出し、続ける。


「泥門雷太、話をしよう」


7番の雰囲気が変わった。

さっきのようなちゃらけた雰囲気ではなく、真剣な…。


「お前と俺の、契約の話だ」


「ああ、続けろ」


生唾を飲み込む音が大きく聞こえる。


「俺はお前に力を授けよう。

俺たち悪魔は、単独での行動を禁止されている、なればこその契約だ、つまり、この契約はお前の願いを叶えることの代償に、俺の能力の制限を解除することにある」


「つまり、お互いにメリットがあるってことだな」


頷く7番、「しかし」と続ける。


「デメリットもある」


やはりか、それは当然だろう。


「他の悪魔憑きにも、素性を知られるとまずい連中がいる、まあ、そうそうないことだが、契約を秘匿したがる連中や、同族潰し…つまり悪魔憑きを狙う連中のいざこざに巻き込まれる可能性もある」


「で?お前の能力ってのは?」


雷太はそのデメリットを補う程度であれば、契約しないでもない、と考えたのだ。


「俺の権能は、【過去、現在、未来を見る】だ」


驚きで言葉をまたしても失う雷太。


つまりそれは、自分の行く先さえも見通すことのできるのだ。

仮にその同族潰しとやらが現れたところで、未来を見通すことができるなら、衝突を防ぐことすらできる。

もちろん私欲にも利用できる。


「その契約…」


焦らすように言葉を区切る雷太、7番は仮面の奥の目を細くし、様子を伺う。


「…保留ってことにできないか?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


雷太は学校へ向かう裏道を歩いていた。

普段は人通りの多い商店街を通るのだが、この日は悪魔の出現というイレギュラーが入ったため、近道である裏道を利用したのだ。


背後から、誰かに見られている。

その感覚に足はこびも自然と早足になる。

三叉路を左に曲がる、ここまでくれば自宅より最寄りの駅まで5分とかからない。

電車に乗れば…安全…。

そこに【それ】は現れた。


「よぉ…待ってたぜ」



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