雨の日の奇跡
その後、敦は仕事終わりに必ずその木がある場所に訪れ花などを手向けることが日課になっていた。敦は家に帰っても職場にいても孤独だったからだ。「今日またあの上司が切れてさ、マジありえねえわ。俺の責任かよ。」敦は酒とつまみを買ってその木の前でよく愚痴を言っていた。そんな日々が続いたある日、いつものように花を手向けに行こうとその木に向かう途中で大雨が降ってきた。「マジかよ、最悪じゃねえか。花買っちまったしな・・・手向けて帰るか。」そういって敦は急いでその木に向かったのであった。そして敦が花を手向けようとした時突然大きな光が敦を包んだのであった。敦は暫く意識を失っていたようであった。「なにがあったんだ・・・」そして敦はこう考えたのであった。雷が大きな木に落ちて感電したのだと。「俺、雷に打たれたんだよな・・・何で生きてるんだ?奇跡か?」敦は自分の体が何ともなっていない事を確認し周りを見渡したのであった。すると大きな木も被雷した形跡がないし、雨も止んでいた。そして敦はおかしいなと感じて時計を見るとその時計は敦が花を手向けに行った時間で止まっていたのであった。「やっぱり、感電したんだよな。時計が止まっているし。」敦が不思議に思っていると後ろから誰かがつついてきた。「えっなんだ!」敦は驚いてこけてしまった。「ごめんなさい・・・驚かすつもりじゃなかったんだけど・・・大丈夫?」そこには一人の少年が立っていたのであった。「だ・・・誰ですか?いきなりなんですか・・・?」「僕は・・・僕はソラっていうんだよ・・・また君に会えてよかったよ。」敦は彼が言っている意味が全く理解できなかった。敦は過去の記憶を辿って思い出そうとしたがソラという人物は全く出てこなかった。「すみません、たぶん人違いだと思います。私はあなたのこと知りません。すみません。」そういうとソラと名乗るその少年はこう言ったのである。「あの日、僕を助けようとしてくれたでしょ・・・?覚えていないの・・・?」それを聞いた敦は鳥肌がたって震えながらこう言ったのであった。「お・・・おまえ・・・あの時の猫か?」そう発言したあと自分がおかしい奴だと思い顔が真っ赤になった。「ごめん。変なこといったな。忘れてくれ・・・。」そう付け足して敦はその場を去ろうとした。その時、その少年は微笑んでこう言ったのであった。「そうだよ・・・あの時の猫だよ・・・毎日、花を手向けてくれてありがとう・・・すごく嬉しかったよ・・・。」敦はそれを聞いた時、暫く硬直していた。「嘘だろ・・・ありえねえよ・・・冗談だろ?からかっているだけだろ?」「違うよ!あの時僕を自転車のかごに乗せて病院まで運んでくれたじゃん・・・僕・・・すごく嬉しかったんだよ?」その少年は目に涙を浮かばせながらそう言っていた。敦は夢だと思い自分の手を抓ったり足を踏んだりしていた。「そんなことしたら痛いでしょ?夢じゃないよ・・・」そういうと少年は敦の手を握り優しい顔で見つめてきた。「ありえないって・・・ってか何で人間になっているんだよ!!」敦は震えながらそう言うと少年は「神様がね・・・僕のお願い事聞いてくれたんだよ!人間になってきみに恩返しがしたいって。」「恩返しって言っても俺はお前を救えなかったんだぞ?恨まれても仕方がないと思ってる。」敦はそう言ってまた泣きそうになっていた。その時、少年は微笑んで「君が僕を助けようとしてくれたその気持ちが嬉しかったんだよ?だから、僕もちゃんと恩返ししなくちゃ。僕は毎日、君の話をここで聞いていたんだよ?」敦は今まで話していたことが全部聞かれていたのかと思うとまた恥ずかしくなったのである。「とりあえず、俺んちで話そう。雨で服が濡れているし着替えないと・・・ってか、何でお前裸なんだ?」敦は冷静さを取り戻し始めて気付いたがその少年は裸だったのである。「ごめんなさい・・・僕も気づいたらここに寝ていたから・・・気付かなかった。」「と、とりあえずこれを着て。風邪引くぞ。」そういうと敦は会社の作業着を取り出しその少年に着せたのであった。「温かい、ありがとう・・・また助けられたね。」そう言って敦と少年は家へと向かったのであった。