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アコライト・ソフィア 3

 人形達の正体とは…

 そして、老人の依頼は…

「ギゼルの兄じゃ。クラフの町に鍛冶屋の修行にいっとる。後1年で年季が明けるんじゃ。それまでの辛抱じゃよ」

「修行なさってるんですか。帰ってくるのが楽しみですね」

「そうじゃ」

 老人の声の調子で笑っているのが手に取るように判る。

「自慢の孫じゃ。頑固者での、火事の事を便りにしてもぜんぜん帰ってこん。ま、そのかわり9年の修行を7年で済ますと書いてきよった。まったく誰に似たのやら…」

「来年がその7年目なんですか? 楽しみですね」

「そうじゃ。それまではこの温泉の霊気をたんと吸い込んで瘴気にやられんようにせんとのう」

「大丈夫ですよ。ところで…もう1つの泉は?」

「森の中にある。その泉の名は迷いの泉、別名には帰らずの泉ともいってな、辿り着いたものは森から出てこれんようになるそうじゃ」

「怖い泉ですね」

「ふぁふぁふぁ、正直言ってこのワシも見た事は無い。まぁ単なる言い伝えだけなのかも知れん」

「戒めというわけですか?」

「そうそう。森を大事にしろとな」

 そのような言い伝えや伝説の類は多い。だが、何かソフィアには引っ掛かった。

(見た事もない…怪物などをも伴わない伝説…? 変ね)

「ところで教会の泉とはどんな霊泉なのですか?」

「さぁな。なにせワシが若い頃に涸れてしまったからのぉ」

「涸れた?」

「そうじゃ。司祭が消えた直後に涸れてしまったんじゃ」

「司祭が消えた? 行方不明に?」

「さぁな…。噂じゃ森の中の迷いの泉に身を投げたと言われとったな。教会の方は後任が来んので村の領主が司祭をしてたよ」

「領主の方が? 司祭の資格はあったのですか?」

「そんなものはないさ。だが、後任が来んのじゃ。仕方無かろう?」

「…そうですね」

 (しかし、そういうことがあるのだろうか?)

 ソフィアも専職宣誓をしていないとはいえ、僧侶である。規則では…如何なる宗派であろうと間を置かずに後任が決まるはず。しかも司祭が務めるレベルの教会ならば間違いなく後任がすぐさま赴任するはずである。

 (誰かが邪魔した?)

 宗教の中に身を置く者としては当然の疑問がソフィアの心の中に浮かぶ。

「ところで…」 「はい? なんでしょう?」

「そろそろ上がらんか? ギゼルがのぼせてしまった。」

「えっ? あ、きゃあ、ミクラちゃん!」

 ソフィアの腕の中でミクラものぼせていた。


 6.泉の宿

 家に戻り、すっかり遅くなった夕食を食べ終わった時に老人が話し始めた。

「そうそう。依頼のことじゃがな…」

「はい。ノランさん、御馳走様でした。あれ? ちょっとすみません」

 ソフィアはノランに一声かけた時、ふと、ノランの手に目がとまった。

「どうしました? その手…」 ノランの両手には白い包帯が巻かれていた。

「いえ。ちょっと料理を暖めなおしている時に火傷しちゃって」

 ノランは振り向かずに応えた。

「慌て者じゃのう。ちゃんと冷やしたのか?」

「えぇ。このぐらい直ぐに癒るでしょ?」 何故かそっけない態度でノランは応えた。

「いけませんわ。直ぐに癒さないと。痕になりますわ」

「いえ。火傷の痕なら、もう…」

 ソフィアは席を立ちノランの手を取ると、静かに呪文を唱え始めた。

「聖なる力よ、この者に力を与え賜え…エル・エラ・ライ・リィ・カヴァ」

 ソフィアの両手から穏やかな光がノランの両手に移り包み、弾け跳んだ。

「きゃっ!」

「吃驚させてごめんなさい。でも、もう癒りましたよ」

「え?」

 ノランは包帯を取ってみると火傷は痕形もなく消えていた。

「…古傷も消えている」

 ギゼルも呆然としてノランの手を見つめている。

「これでも白魔法使いですからね。治癒はお任せあれ」

「ねぇちゃんって凄いんだ…」 ギゼルは吃驚した顔で呟いた。

「やっとわかったの?」 ミクラがしたり顔で威張った。

「お前は関係無いだろ?」

「ふ〜〜んだ」

「こらこら。喧嘩しないの」

 ソフィアは二人の間に入って、喧嘩をとめるとノランに振り向き、術法を説明した。

「ちょっと過剰ぎみだから、暫くチクチクするかもしれないけど、許してね」

「…いえ、ありがとう」 ノランはソフィアを見ずに自分の手を見つめながら応えた。

「あ、そうそう。依頼の内容の事でしたね、すみません。勝手な事をしてお話を中断してしまいました」

「いやいや、ノランの火傷を癒して下さったんじゃ。ありがたいことじゃで。しかも、その腕前ならば、瘴気祓いなどすぐじゃろ」

 ソフィアは席に戻ると、ちょっとだけ考えてから尋ね直した。

「依頼の内容は…瘴気祓いなのですね?」

 強く確認するソフィアに老人は少しだけ、たじろいで応えた。

「そうじゃ。この煩わしい瘴気を綺麗さっぱりと消して欲しいのじゃ」

「…そうですか。では、瘴気の源に心当たりはありませんか?」

「さて? 沼か、共同墓地か…その程度しか思いつかん。なにせ、司祭をかねていた領主も居なくなってしもうたからな。火事の時のも含めてちゃんと弔ってはおらん」

「なるほど。共同墓地ですね。それで沼というのは?」

「ここの沼にはニクシーという精霊、いや亜人類が居っての。霊泉が涸れてから人間に悪さをするようになったきたんじゃ。瘴気もその悪さのうちかも知れん。困ったものじゃ」

「ニクシーが? 見た事は有るんですか?」

「ワシは無いが、ノランが見たそうじゃ。のう? ノラン」

 話しかけられたノランは振り向かずに、小さく頷いた。

「でも暗かったし。熊と間違えたのかも…」

「そんなこと無いよ」 テーブルの傍らで人形達と遊んでいたミクラが声をあげた。

「だって、あたしも見たもん。河童みたいなの」

『◎…河童。ひぃ』

「ウェンディ泣かないの」

「何でウェンディちゃんが泣くの? あたし悪い事言った?」

「この子たちはね…」 ソフィアは人形達の頭を撫でながら、説明した。

「それぞれ精霊の意思が繋がっているの。アェリィは風の精霊。サーラは火の精霊。ノーラは土の精霊。そしてウェンディは水の精霊。ニクシーも水の精霊の仲間なの。で、仲間の事を言われたから吃驚しただけ。そだよね? ウェンディ」

 蒼い帽子の人形は黙って小さく頷いた。

「そなの。ごめんね、ウェンディちゃん」

『○ええって、ウェンディはおセンチさんやから泣くんが早いねん』

『☆そやそや。気にせんでええから。アタシらの実体は人間離れしとるから容姿を気にするんが間違いやねん』

『★もともと精霊やんか。「人間離れ」は変やで』

『○そか。人間やあらへんもんな』

 きゃははははと人形達は笑いだした。

「さっきから気になっとるんだが…アンタが人形遣いではないとしてもだ…この人形達はなんで動いてるのかね?」

 老人は不可思議な面持ちでソフィアに聞いた。

「この子たちは…」

『☆はい、はぁい。説明しまぁす』 ソフィアが説明するより早く人形達が話し始めた。

『☆アタシ達はそれぞれ別々の場所で存在している精霊が本体でぇっす。んで、ソフィアの有り余っとる法力を借りて意思を勝手に繋げてまぁす』

『★勝手に来とるから火と水、風と土と相反する精霊なんやけど、喧嘩しませぇん』

『☆召還されて相反する精霊がいたら、大暴れモノやけどね』

『○それに繋げとるといってもウチ等の本体の無意識に繋がっとるから、こっちの事は本体が意識せんで済んでるんやけどね』

『☆ほんで実際に声を出して喋っとる訳やないしね』

『★アタイ達の意識をソフィアの法力借りて直接、爺さん達の意識に繋げとるんよ』

『○せやからウチ等の声は誰が喋っとるんかすぐ判るやろ? 目ぇを瞑って耳を塞いでも判るはずやで』

 老人は試しに目を瞑り耳を塞いでみる。

『☆判るやろ?』

「おお。なんかへんな記号が浮かんでから聞こえとるぞ」

『☆それは意識を繋げた時の信号みたいなもんやね』

『◎…んとね、そゆ事』

『☆★○それだけかい!』

「じゃ、ここの沼に棲んでるニクシーがウェンディちゃんの本体なの?」

「それは違うわ。ウェンディも他の子達もこの近くには棲んでいないわ」

『☆★○そうそう』

「でも同じ水の精霊の仲間だから気になったんだよね? ウェンディ」

『◎…うん』

「ごめんね」

『★ええて。気にしすぎやねん。ウェンディは』

「さて仲直りも済んだようじゃ。ソフィアさん。瘴気祓いをよろしく頼みましたぞ」

「はい。確かに承りました」

 ソフィアは立ち上がると深々と頭を下げた。その姿をノランは醒めた目で見ていた。


 7.宿の夜

『★変やないか?』

 ソフィア達は離れの部屋で寝具の中に潜り込んで何日かぶりの布団の暖かさを感じているところだった。

「何が?」 ソフィアは横になれる喜びに浸りきっていた。布団の中でにこにこしながら何度も寝返りしている。

『☆そないに横になるんが楽なんやったら、野宿ん時も横んなったらええのに』

「寺院の規則で禁止だからねぇ〜」

『○普段は規則なんか嫌いだ〜って言ってるくせに…』

「いいからぁ〜で、何が変なの?」


 読んで下さりありがとうございます。

 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。

 3/30話目です。


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