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アコライト・ソフィア20

 ソフィアは敵の中へと1人で…

「そっか…そうだったのね…」

 ソフィアは少し涙ぐむギゼルの頭を撫でた。ギゼルは昼の出来事を思い出し、悔しがっている。身体を、いや、心を震わせて。

『◎…ところで』

「どしたの? ウェンディ」

『◎…なんで、さっき襲ってきたの?』

「やぁね。いいじゃない、そんな事…」

 疑惑の目でギゼルを見る人形達。ソフィアは明るく場を繕うとした。が、ギゼルは人形達の疑惑の視線を全く感じずに事実だけを口にした。

「俺、見たんだ…」

『○なにを?』

「半魚人達がこの洞窟を彷徨ってたんだ」

『☆ニクシー達が?』

 あの黒法衣はここで儀式を行うと言っていた。そして今、その場所を彷徨いているという事は…

(やはり、ニクシー達の誰かは…少なくとも何人、いえ、かなりの数のニクシー達があの黒法衣に協力しているのは確実なようね…)

 実際、沼で逢った途端に生贄にしようとした事。姫達がそれを暴挙と考えた事。それらからも推し量れる。

「それで、俺、そいつらの後をつけてたんだけど…見失って…それで…」

『★それでアタイ達を半魚人と間違えたと』

「…ごめんなさい」

「いいわよ。それじゃ…」

 ソフィアはギゼルを帰そうかと思ったが、敵が彷徨いているのでは却って危険と思えた。

「…それじゃ、一緒にノランさんとミクラちゃんを取り戻しに行きましょう」

「おぅ!」

 ギゼルと手を叩きあって握り締め、決意を確かめあった。

「それじゃ、先に進みましょうか」

「待てっ! 俺が先に行く」

 ギゼルの決心は…いや、男の見栄は固いようだった。

「はいはい…どうぞ」

 ソフィアはくすりと笑って先を譲った。


 38.祭壇の上

 洞窟の奥…かなり入組んだ洞窟の終端が祭壇の在るホールになっていた。天井も高く横も広かったが、奥行きはもっと広い。ホールの中央、一際高く大きい岩の上に置かれた祭壇。祭壇に続く石段は洞窟内の霊気を吸い込んでいるのか怪しい光を放っている。祭壇の背後には地下の湖。湖に流れ込む川は左側の洞穴から滝のように音を立てて、冷たい水を流し込んでいた。

 その中で黒い焔が灯された篝火が祭壇の黒法衣を照らし出している。

 黒法衣の動きに合わせて祈る半魚人達。

 その中に猿轡をされ十字架に縛り付けられた生贄…ノランとミクラ、そしてヌーラ姫とニクシーの女性達。十字架の下に縛られ転がされているのはネゼだろう。

 何語かで黒法衣が叫ぶと半魚人達はその中のニクシーの女性を一人、祭壇に持ち上げた。祭壇上の台に無理矢理に固定されながらも抵抗するニクシーの女性。しかし、黒法衣は何かを呟きながら手にした曲刀を持ち高く振り上げた。

「待ちなさい!」

 黒法衣は刀を振り上げたまま声の方を見やるとホールの入口、岩棚が階段上になっている所に裸足で一人立っているソフィアが居た。

(ほぅ…焔蛇とキメラ達を退けたか…そうでなくてはな…くくっ)

 密かに含み笑う黒法衣。

「御招待して頂いたのに勝手に始めるなんてマナーに反すると思いません?」

 ソフィアは階段を数段降りて、左手に握る杖で黒法衣を指した。

「それに、ヌーラ姫様達もここに居るとは思いませんでしたわ」

 黒法衣はヌーラ姫と目の前のニクシーの女性を見てからソフィアを見上げた。

『…ほほう。ヌーラ姫と知合いなのかね? 彼女は私達に協力的でね。侍女達共々、我等の神に命を捧げて下さるそうだ』

「…あまり、協力的な格好には見えませんけど?」

『それは命が変換した時にそう思うのだよ』

「勝手な事を…」

 ソフィアの瞳に怒りの光が宿っていく。

『何をそう怒っているのかね? ああ儀式を始めた事かね? あまりにも遅いものでな。勝手に始めてしまったのだよ。しかし、確かにマナーに反するな。謝罪しよう』

 黒法衣は刀を降ろし、そのまま胸にあて、軽く会釈した。

 そして、骸骨に干からびた皮だけを貼り付けたような顔を上げ、ソフィアに提案した。

『どうかね。君も参加しないかね?』

 眼窩の赤黒い光がソフィアを睨む。

「謹んで御断り致しますわ」

 ソフィアは左足を一段降ろし、左手に握る杖を水平にして半身に構えた。

『それは残念だ。君が参加して頂けるのならば代わりに彼女達を家に帰そうかと思ったのに…』

 くっくくっと笑う黒法衣をソフィアは眉を顰めて見ていたがふっと笑い応えた。

「その言葉は信じられませんわ。だって貴方は嘘つきですもの」

『ふぁははははぁ…どうしてこの私が嘘つきなのかね?』

「…先程、私を『平伏させる』と言いましたけど、まだ私はしていませんもの?」

『ん? ふっ…ならば、今すぐ平伏せさせよう。捕まえろ!』

 黒法衣に指示されて半魚人達は手に三叉槍を持ち、ソフィアににじり寄っていく。

『あふぁはぁははは。どうする事もできまい? 「攻撃は最大の防御」と言うとおり、こちらには手も出せまいが? 白魔術には攻撃呪文はないのだからな?』

 勝ち誇るように笑う黒法衣にソフィアはくすくすと笑い出した。

『気でも狂ったのかね?』

「ふふん。『防御は最良の攻撃』とも申しますわ。それに白魔法師でも黒魔法の攻撃呪文は使えますのよ…初級レベルの物ならね」

『ふっ…初級レベルならば問題にもならん。精々、片手ぐらいを痺れさせるだけだろう?』

「どうかしら? 御験しになります?」

 ソフィアは呪文を唱えて右手を振り下ろす。指先から術によって生じる風の鞭。鞭は風を巻き、雷を発し、半魚人達に凄まじい電撃を与えた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁあぁ…ぁ…ぁ…ぁ」

 叫び、痺れ、崩れ落ちる半魚人達。

『なにぃ?』

「どうです? 私のボォルテ・ウィップは?」

 ソフィアの初級黒魔法の電撃鞭は半魚人の一塊を痺れさせ戦闘不能にしてしまった。

(☆凄いわ…今のこの姿でのアタシの天雷撃並みやわ)

(★天雷撃? テスラって、電撃系の最高級魔法やろ?)

(○静かなようで法力全開…かなり来てるで、ソフィアは)

(◎…さあ、ソフィアが敵の気を惹きつけてる間に早く)

(ちょっと待て。歩きづらいんだよ。この靴)

 ソフィアが黒法衣達の相手をしている時、ギゼルは竜髭靴の力を借りて洞窟の天井を歩いていた。鍾乳石の影に背中の竜の盾で隠れながら敵に気付かれる前に祭壇まで行きノラン達を助け出す。それがソフィアとギゼルの戦略。

(しかし、あんな力があるんだったら、正面から行っても良かったんじゃ…)

(★あかんて。いくらソフィアでも人質を取られたら、身動きでけんし)

(☆そうそう。アタシらはノランさん達のロープを切って一緒に逃げるだけでええんやから)

(○そしたら、後はソフィアが敵をシバキ倒すから)

(…なんか、卑怯っぽいなぁ)

(◎…卑怯なんはアイツらだよ。ワタシ達は御姫様を救い出す忍者だよ)

(…そか。忍者か…格好いいな)

(★そうそう。正義の味方はどんな格好でも格好ええんやから…)

(そうか…よしっ行くぞ)

 しかし、背に楯を付け鍾乳石に捉まりながら天井を這いつくばって進む姿は良く言って兜虫。悪く言うと…ゴキブリのようだった。

(★☆○◎…男の子って単純やわ)


 39.基本魔法

『くっ! ならばコイツらはどうだ?』

 黒法衣がさっと手を挙げると脇の洞穴から不気味な音が響き出した。

 ギ…ギシッ…ギ…

 やがて、姿を顕したのは骸骨の戦士達。

 骸骨達は痺れ転げ回る半魚人達の間をゆっくりとソフィアに向かって歩いて行く。中には骸骨になりきれていないゾンビのような死体の戦士も居る。恐らく、竜退治の依頼に集まり魂を吸い取られ朽ち果てた剣士達を操っているのだろう。不死の戦士達は動きは緩慢だが不死故の防御の高さに大抵の者は打ち破られてしまう…

『ふあはははは…コイツらには電撃は効かんぞ? ふぁははははは…』

 笑う黒法衣にソフィアは醒めた目で呆れたように言った。

「…あんた、馬鹿ぁ?」

『なにぃ?』

「私の職業は?」

 いきり立つ黒法衣にソフィアは問い返した。

『…白魔導師』

 何故か素直に応える黒法衣。

「その職業の普段の仕事は? 使う術は?」

『治癒…治療と除霊や鎮魂…悪霊祓い』

「この骸骨の戦士は何故、動いてるの?」

『そりゃ、骸骨に霊を取り憑かせて…あ』


 …ぎ

 一瞬、動きが止まる骸骨達。


「つまり、除霊したら…ただの骨になる訳よね」

『…そういう…事…だな』

「わざわざ、私の得意な術を使わせて貰えるなんて…なんて親切なんでしょ。見直しましたわ」

 ソフィアは黒法衣にウィンクしてから杖を両手でくるくると回し始めた。

『…えぇい。術を唱える前に倒してしまえ!』

「やぁよ。だって、術なんて唱えないもの」

『? …なにぃ?』

 ソフィアは杖を片手で回したまま骸骨達の中に飛び込んだ。

「スケルトン・ソルジャーは打ち砕くに限るわよっ」

 まるでダンスを踊るようなステップで骸骨達の刃を躱しながら、敵の間を縦横に動き、杖で砕き壊していくソフィア。戦うというよりも逃げ惑う骸骨戦士達。だが、それでも戦闘自体は本来が戦士や剣士だっただけに長けている。やがてソフィアは骸骨達に取り囲まれ、身構えるだけになっていた。

 ソフィアの足元には砕け散った骸骨の成れの果ての骨片。

『…ふふふふ。調子に乗り過ぎたようだな…』

「何の事かしら?」

『足元を見るがいい。その骸骨達には再生能力を与えてあるのだよ…』

 骨片達はふわりと宙に舞い出し、渦を巻きながらソフィアの周りを飛び始めた。


 読んで下さりありがとうございます。

 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。

 20/30話目です。


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