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アコライト・ソフィア 2

 ソフィアが自分のことを語ろうとした時…

「ううん、白魔法使いの修行僧なの。こら、ウェンディ。出てきちゃ駄目でしょ」

『☆そや、出たらあかんやん』

『★そういうアェリィかて出とるやん』

『○この際、全員出たらええねん』

 わらわらとフードの中から人形達が出てきた。

「こらぁ! 勝手に出てきちゃ駄目でしょっ!」

『◎…でも、ソフィア』

「おじいさん。旅の方なら夕食を…」

 にこやかに話しかけたノランだったが、自由に動きまわる人形を見て、表情が停止した。

「きゃあぁぁ! 人形が喋ってるぅぅぅ…」

 ふぅぅと、息を吐いてノランは倒れかけた。老人が慌てて支える。

「誰だ? 貴様。ノラン姉ちゃんに何をした? その人形は何だ?」

 ノランを庇うかのように前に出てきた少年はソフィアに凄む。

「私の名はソフィア・フレイア。職業は白魔法使いで、この子達は…」

「僧侶? 司祭なのか? いや司祭や僧侶が人形使いな訳は無い!」

 ギゼルは言葉を遮り、鉈を握りなおして凄む。まるで、親の敵を見るような眼で。

「うぅん。僧侶の資格は取ってないし、まだ修行中なの。さっき山向こうの……やだ違うわ。さっきじゃなくて、今朝ね。今朝、峠向こうのギザーの都、あ、また間違えた。ジエルの町のギルドで…あっ、そうそう。この人形達は私が操っている訳じゃなくて…」

 慌てたソフィアは大袈裟な身振り手振りで説明するのだが、かえってギゼルの疑いを深くしていく。

「人形を操っていない?」

「そうそう。この子たちは、自分の意志を持って…」

『◎…ねぇ、ソフィア』

「な・あ・にっ? ウェンディっ!」

 話の腰を折られたソフィアはちょっと額をヒクつかせながらも、笑いながらウェンディに尋ねた。

『◎○★☆ひゃあっ! ソフィア、怖い』

「…あ・の・ね・ぇ・っ」

 額のヒクつきが大きくなったソフィアに恐怖した人形達は肩から降りて人形達は逃げ回った。が、ふと思い出したようにウェンディが近づいて、ゆっくりと言った。

『◎…結界、壊れるよ』

「え?」

 ソフィアが頭上の水玉を思い出して、見上げた瞬間…

 ざっぱぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん

…限界に達し、破裂した巨大な水玉は5人と人形達に滝のように降りかかった。

「…失礼しました」

 びしゃびゃに濡れてぼうっと立ちつくす4人に、これまた濡れ鼠になってしまったソフィアは深々と頭を下げるしかなかった。

 雨音は何事も無かったように静かに村を包んでいる。

 そして、その様子を軒下の蝙蝠が不思議そうに見ていた。


 5.村の泉

「あぁぁぁぁ! 生き返るっ!」

 湯気の中、温泉につかりながらソフィアは背伸びした。濡れて体が冷えてしまった5人は家の外、少しだけ歩いた所にある温泉に来ていた。

「…おねぇちゃん」

「なぁに? ミクラちゃん」

「僧侶の人って服着たまま入るの?」

 ソフィアは白く薄いガウンのような服を着たまま入っていた。

「この服を着ていないとね…ほら、判る?」

 ソフィアは腕まくりをし、すらりと伸びた白い腕を夜の闇の中に伸ばす。と、ぼうっと光を帯びているのが判った。

「あっ! 光ってるぅ!」

「おねぇちゃんはね、法力が強すぎるからこの服で抑えていないと駄目なのよ。この服は聖魔絹というの。聖なる紋章を宿した葉を、聖なる紋を持つ蚕が食べて創ってもらった絹糸で紡いだ物なの。この布で作った手袋をすると白魔導師も刃物が持てるという聖なる布よ」

「…ふぅぅん」

「これを着ていないとね、知らないうちに周りの人に影響出たりするの」 「どんな?」

 ノランとミクラは少し後ろに引きながら聞いた。

「やぁねぇ。変な事は起きないわよ。嘘がつけなくなるとか、人に物をあげたくなるとか…まぁ、聖人のような性格になっていくのよ。つまり浄化の魔法がかかってたのと同じようになっていくのよね。お金持ちなら未だ、いいんだけど、それなりの人が影響受けたりすると全財産を人にあげたりしてね。まぁ、それぐらいの事しか起きないわよ。大抵は…」

「…それだけでも十分、悲惨だと思う」

 しれっと突っ込むミクラの指摘は正しい。いきなり全財産を失ったら…少なくとも『それぐらい』程度では無いだろう。

「…う。でもね、気をつけている時は、そういう事は無いんだけどね。お風呂なんかで気が緩んだ時はちょっとね」

「わかるぅ! お風呂って気持ちいいものね」

「だから着ているの。判った?」

「わかった」

 ミクラはノランから離れソフィアに近づいてきた。

「おねぇちゃん…」

「なぁに?」

「胸、おっきいね」

「ひゃあぃぃっ!」

 ミクラにつんと突かれてソフィアは奇妙な声を上げて、ささっと後退りした。

「む、胸って、乳房はね、年頃になったら、それなりにおっきくなってくるものなのよ」

「でも、ノランねぇちゃんより、背も高いし、おなか細いし、腕とか足も細くてすらっとしてるし…」

「…でも、ポーズ取る必要は無いと思うわ」

 離れていたノランはミクラの言葉に煽てられて思わずポーズを取っているソフィアに冷静に指摘した。

「…失礼しましたぁ」

 ソフィアは赤面しながら、ざぶんとお湯の中にしゃがみ込んだ。

「さ、じゃ私は御飯、暖めているわ。お先に…」

 ノランは微笑み、ソフィアに冷たい視線を投げて湯船から出ていった。

「妬いてるのよ」 ミクラは小声でソフィアに呟いた。

「そかな? 優しそうなお姉さんじゃない?」

「あたし嫌い。だって、あたしやおじいちゃんには普通に話すのに、ギゼルには猫撫で声で話すんだよ」

 ミクラの声には棘が在る。それは…?

「けど、みんな姉弟でしょ? 仲良くしなきゃ…」

「姉弟じゃないもん。あたしとギゼルとノラン姉ちゃんは、他人だもの」

 淡々と話す言葉に悲しみの色が宿る。

「どういう事?」 ソフィアは悲しみの色を気づかぬフリをして尋ねる。

「5年前にね大火事があったの。あの時…長風邪が流行ってて、お母さんも罹っちゃって…あたしとギゼルとおじいちゃんは山に薬茸取りに行ってたから…大丈夫だったんだけど。村のみんなは…みんなは…」

 涙声になって話が途切れる。

「いまはもう…村にはあたし達しかいないんだもの」

「いいのよ。ごめんね、変な事聞いて」

 ソフィアはミクラをぎゅっと抱きよせると背中を撫でた。

「ここは静かね。町にも近いし、温泉も出るんじゃ、別荘地とか保養所としては最高じゃない。直ぐに賑やかになるわよ」

「無理じゃ」 不意に竹囲いの向こうから声がした。

「えっ? あ、御老人、聞いてらしたんですか?」

「隣の温泉に居るんだ。『聞いてらした』も無いだろう?」

「これ! ギゼル。そんなに毒づいてどうしたのじゃ?」

 人形遣いではないことだけは説明し納得してもらってはいたのだが、ギゼルだけは未だ完全には信じてはいないようだった。

「…別に。どうせ、あのねぇちゃんも今までの人と同じ…何もできずに逃げ出すさ」

「ギゼル! どうしてそういう事を…」

 囲いの向こうで喧嘩が始まりそうになったので慌ててソフィアは声を出した。

「すみません。どうか御気になさらずに…」

「いやいや。さっきは盗み聞きしたようですまんの」

 あっさりと老人が非を認めたせいか、ギゼルの声は不貞腐れたように小さな呟きに変わって聞こえなくなった。

「いいえ。すみません、5年前の火事というのは?」

 ソフィアに聞かれるままに竹囲いの向こうから老人が話し始めた。

「あの5年前の大火事か。なにが原因かは判らんがの。その火事の後から瘴気が村を覆い始めたのじゃ。なんの因果かのう」

「瘴気が? でも私は此処に来るまで何も感じませんでしたけど?」

「空を御覧なされ」 言われるままにソフィアは星空を見上げた。

 真上の方は先程までの雨が嘘のように晴れ上がって星が瞬いている。が、その周りには無気味に揺れ動く紫緑色の瘴気が…

「さっきまでは無かったのに…」

「いつもの事じゃよ。なぜか瘴気は雨が降る時は薄まっているのじゃ。霧の時も同じ。たぶん、此処の泉のせいじゃろ」

「泉の?」

「そうさね、此処の泉は3つ在るんじゃ。一つはこの温泉。もう一つはこの坂上に在る教会の庭の霊泉。この温泉も昔は霊験があると人気じゃったんじゃ。まぁ、この泉の霊気が湯気と共に雨や霧に溶け込んでるんじゃろ。雨や霧の日は瘴気は消えてしまう。無論、普段もこの家の周りだけは瘴気も近づかん」

「瘴気が消えるほどの霊気がこの温泉に?」

 ソフィアにはそれ程の霊気を感じることはできなかった。

「たぶんの。現に瘴気は消えとるからの。この村も以前はこの温泉の湯治客で、それなりに賑わっとんたんじゃ」

「そうなんですか」

「いまは瘴気のおかげで寂れるばかり。大火事の後は移り住むのもおらん。今、残っているのワシとギゼルとノランとミクラの4人だけ。まぁ、ギーゼが帰ってくるまでの辛抱さ」

「ギーゼさん?」


 読んで下さりありがとうございます。

 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。

 2/30話目です。


 感想などいただけると有り難いです

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