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アコライト・ソフィア16

 静かな時が流れる…

「アンタ達…」

 ギロリと睨むソフィアと視線を逸らし、知らん振りするサーラとアェリィとノーラにウェンディが言った。

『◎…みんな、それ違うよ』

「あらっ。やっぱりウェンディは私の味方よね〜」

『◎…ソフィアの料理で強靱な兵士さんが寝込んだのは、五日間だよ』

「…あら」


 30.碧玉胡桃

 ソフィアが料理をしようと聖魔絹の手袋を着けながら下に降りたのは東の空が白み始めた頃。ノランを観ていた老人も疲れたらしく居眠りしていたので起こさずに台所に入った。

『★…なんや、爺さんだったらコイツの料理法、知ってると思ぉたんに…』

「いいじゃない。それよりもお疲れなんでしょうから寝てて貰いましょ」

『☆まぁ、生で食べても問題無さそな事、言ってたから』

『○誰が?』

『☆アィヒェ…の婆さんの方』

『○んでも、木の精霊と人間とは…』

「まぁ…煮たら、アクがとれるからたぶん大丈夫でしょ」

『○そやな。出来上がったもんの毒を調べたらええことやし』

 昨夜の残りのシチューに碧玉胡桃に砕き入れ、他の野菜を刻み入れる。水を足して煮込んでいると、老人が起きて来た。

「どうなされた? おや? 何やら変わった香り…これは?」

「碧玉胡桃という木の実です。ご存知ですか?」

「知っているも何も…ものすごく美味いと聞いている。じゃからして、取り過ぎて無くなってしまったと…」

「三個だけ森の精霊達に頂きました。若木も育ってましたから、ギゼルくんとミクラちゃんが大きくなった頃にはまた実を採りにいけると思いますよ」

「そうか。あの森の中になぁ…」

『☆爺さん。なんか思い出でもあるん?』

「あの森の奥の方は行った事がないが手前の方はワシの爺さんとかが植えた森なのじゃよ」

『○…そういや、そう言ってたな』

「誰がじゃ?」

『○アィヒェ婆さん…て精霊やけど』

『★精霊の事、言っても爺さんにはわからんやん』

「ふぁふぁふぁ、お前さん方は精霊が見えて便利じゃのう」

 老人の言葉に人形達は顔を見合わせて言った。

『★☆○◎…そうでもないよな』

「どうしてじゃ?」

『○なんか向こうにもこっちが人間やないから目立つらしいし』

『★それで、よく勘違いされて攻撃されるし…』

『☆…まぁ、馴れたけどなぁ』

「ふぁふぁふぁ。まぁ、禍福は昼夜の如しじゃ。いい事も在れば悪い事も在る、じゃが明けない夜は無いし暮れない昼も無い。その時その時を一生懸命に生きていくんじゃよ。これは、ワシの爺さんの口癖じゃけどな。いい言葉じゃろ?」

『◎…うん?』

『★…? どっかで聞いたような?』

「そうか、お前さん方の世界にもそういう言葉が在るんじゃろうなぁ」

「さて、できたわよ」

 話している間に煮込んでいたソフィアが小皿に一口、装ってノーラに預けた。

『○…うん。毒はないで…味はイマイチやけど。不味くもないで』

『★☆◎え! …不味くない?』

「どれ。ワシにも下さらんか…ふむ。普通の味じゃな。まぁ、人の話は尾鰭がつくからのう。この味で無くなるほど取りつくされるとは思えんから、無くなったのを味の所為にしたんじゃろなぁ」

(★…ちゃうな。元々はやっぱり、ものすごく美味いんやな)

(☆元がじぃさんが作ったシューなのにな)

(○それをソフィアの腕と相殺して…)

(◎…それでもイマイチなん…凄い)

(★☆○…なにが?)

(◎…ソフィアの腕前)

 人形達は小声で確認し、頷きあっているのをソフィアは横目で睨んだ。

「…聞こえてるわよ」

 人形達はソフィアのギロ目を振り返らずに台所の外へ逃げた。

『★ノランさぁん。スープでけたで〜』

『☆ミクラちゃんもそろそろ起きよ〜』

『○ギゼルくんも起きようで〜』

『◎…お爺さんも食べよ』

「ふぁふぁふぁ、いい仲間達じゃな」

「ええ。まぁ…何を誤魔化しているんだか」

「心配無い。そう腕は悪くは無いと思うぞ。その証拠にワシも元気が出てきたからのう」

 笑いながらシチュー皿を取り出して老人は出て行った。後に人形達の会話から自分の料理の腕前が判ってしまい赤面しているソフィアを残して。


 ノランの口にシチューのスープを含ませると、青白かった顔色に薄くピンク色が戻り意識が戻ってきた。そして薄く目を開けてソフィアの姿を確認するとノランは涙をポロポロこぼした。

「あぁ、ソフィアさん。…ごめんなさい。ごめんなさい…私。私、どうしようも無くて…貴方の事…ごめんなさい…」

 ノランが何を言おうとしているのかは既に痛いほどに判っている。騙されて人を傷つけ、そしてそれを理由にまた騙され利用されていた。その事を自分で判っていながらも続けていた事…

「いいのよ。わかってる。今は元気になる事が貴方の仕事よ。ね?」

 ソフィアはノランの髪を整えなが笑った。

 ミクラもシューのスープを少し含ませるように飲ませると顔色が戻ってきた。やがて目を開けてソフィアとギゼルの姿を見、そして壁に立てかけてある杖を見て安心したように笑った。

「ギゼル…見つけてくれたんだ…逸れた時、寂しかったぁ…ソフィアおねぇちゃん…杖、見つかったんだ…よかった…」

 力無くも笑いかけるミクラの手を握り締めてソフィアはミクラに笑いかけた。

「うん。ノランさんがね見つけてくれたんだ。布団の間に挟まってたんだって。おねぇちゃんドジだから忘れてたみたい」

 ソフィアの言葉にちょっと吃驚していたミクラだったが、ソフィアが目配せすると、やがて判ったようだった。

「そうかぁ。おねぇちゃんてドジなのね」

 きゃはははと笑い合う二人を見てギゼルと人形達は首を傾げていた。


 31.静かな時

 昼頃になるとノランもミクラもかなり元気になって来たがまだ寝床から立てずに暖炉の部屋で休んでいた。老人とギゼルは一緒に昨夜の疲れが取れないようで眠っている。

 ソフィアはノランの代りになって家の掃除をし、洗濯をすませて洗濯物を干していた。

「よしっ。これで全部ね」

 物干場で風にはためく洗濯物は珍しく晴れきった空に映えて心地好かった。

「う〜ん。今日はいい天気ね」

『★なぁソフィア』

「なぁに〜?」

『☆洗濯した時、浄化の術を使ったやろ?』

「バレてた? でもちょっとだけよ。それに、その方が綺麗になるし、瘴気避けにもなるし、変な病気にも罹り難くなるじゃない」

『○掃除の時は時元修復の術を使ってたし』

「だって、かなり傷んでたし…廊下」

『★そういうのって確か寺院では禁じられてたんやなかったか?』

「ここは、寺院じゃないからいいのよ」

『☆そういう問題か?』

「そういう問題よ。この物干場にだって浄化の結界張ってるし…」

『○それは瘴気から守る為やないん?』

「違うわよ。洗濯物が埃で汚れないように…」

 ばきっ!

「痛ったぁ〜。いいじゃない。干している間に汚れるのってショックが大きいのよ」

『◎…ソフィアって、そんなに主婦っぽかったんだ』

「いいじゃない。それが洗濯物の基本原理よ」

『★☆○◎…聞いたことないなぁ』

「…ほっときなさい」

 ソフィアは人形達とのやり取りの間もずぅっと空と洗濯物を見ていた。

『★☆○◎……』

 人形達はソフィアの横顔に安らいでいる事を感じ、何故か不安になった。

(★☆○◎…旅に疲れたんやろか?)

『☆ソフィアって洗濯好きだったっけ?』

「そうでもないけどね…まぁ料理よりは楽かなと」

『○掃除は?』

「寺院に居た時は好きじゃなかったけどね。まぁ、料理みたいに難しくないし、綺麗になるのは…まぁ浄化の魔法と同じようなもんだから、私の基本なんでしょ」

 ソフィアは椅子に腰掛けて目を閉じた。

「………」

 そのまま黙り込むソフィア。

『◎…ソフィア。旅に疲れたん?』

 ウェンディが恐る恐る聞く。サーラやアェリィ、ノーラもじいっとソフィアを見ていた。

『◎…ソフィア?』

 ウェンディが顔を覗き込むと、ソフィアは目を閉じたまま黙っている。

 ウェンディはサーラ、アェリィ、ノーラと見合わせ、そして、決意を固めてから言った。

『◎…そだね。暫く、ここで過ごすのもいいと思うよ。今までずっと旅してたし、お爺さんとか優しいし…』

「………」

『★…ソフィア?』

 人形達が黙り込んでいるソフィアの顔を覗き込むと…

「うぅぅん…すぅぅぅぅ…ふぅぅん」

 軽い寝息。

 ソフィアは転た寝していた。

 一斉にこける人形達。

 こけた音でソフィアは微睡みから醒めた。

「ふぁぁいっ。うん。ちょっと寝ちゃったわ。あら、どしたの? みんなでお昼寝?」

 背伸びをして人形達を見やると皆、倒れていた。

『★…あのね。なんか決意して聞いたんがバカらしいわ』

 ソフィアはきょとんとしている。

「なにか聞きたかったの?」


 読んで下さりありがとうございます。

 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。

 16/30話目です。


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