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アコライト・ソフィア15

 ソフィアの後悔に人形達は…

『そして御主が引いた、いや、選んだのは?』

「どんな色の石を選んだ?」

「…黒い…黒い石」

 半魚人はノランの髪を放すと笑いながら言放った。

「そう選んだのは黒い石。つまりお前は黒魔導師か傭兵か風来坊…そういう風に一所に留まる事の無い職業になるか、そいつらの所に嫁ぐしか無い訳だ。俺が…お前が竜の彫刻の口に黒い石を入れるのを見・た・か・ら・なぁ? そして、見られた時の無効の方法を教えて、やっ・た・ん・だ・よ・なぁ?」

 ノランは泣きながら、涙で顔をくしゃくしゃにしながら訴えた。

「それは…それは貴方達が…示し合せて…げふっ」

 半魚人はノランをもう一度、足蹴にして静かに言った。

「自分のした事を棚に上げて、他人様を疑っちゃあ、いけないなぁ。ねぇ旦那」

 半魚人に呼び掛けられて黒マントはゆっくりと頷いた。

『それから竜が居ると嘘をついて剣士やら傭兵やらを呼び寄せたな?』

「そうそう。その人達はどうなったんだ?」

 ノランは二人を指差して叫んだ。

「竜が居ると…竜退治の依頼をしろと言ったのも…その人達を…あの人達の魂を残らず吸い取ったのは貴方達です!」

 ちょっとした沈黙の後、黒マントは静かに言った。

『そうだ…魂を吸い取ったのはワシ達だ』

「だが…呼んだのはお前さんだぜ?」

 半魚人が続けて言った。ノランに躙り寄り、醜悪な息を吹きつけながら。

「それもこれもお前さんが赤い石。料理人や鍛冶屋を示す赤い石を選べば無かった事じゃないのかい?」

 言葉も無く項垂れるノラン。

「まったく、鍛冶屋の女房になるのがそんなにいい事なのかね? 許嫁と言うのも考え物だねぇ? そうだろ?」


 ぱしぃぃぃん


 問い掛ける半魚人を引っぱたいてノランは、ゆっくりと立ち上がり杖を薄汚れた半透明の布で包んで、そしてふらふらと森の中へ歩いて消えて行った。


「いってぇ。何すんだ? あのアマ」

『フフフフ。引っぱたかれただけで済んで良かったじゃないか。もし、あの杖で殴られたのなら例えあの小娘の力でも只では済まんぞ』

「そうですけどね…」

 笑い続ける黒マントとぼやき続ける半魚人はノランの後ろ姿を見ていたが、やがて暖炉の中に消えて行った。


 28.無力と後悔

「それからどうしたの?」

「俺もミクラも動けなかったんだ。でも、ミクラがノラン姉ちゃんを捜そうって。杖をソフィアさんに返すんだって言って…」

「ノランさんを捜したの?」

 小さく頷くギゼル。

「でも、何処に行ったのか判らなくて、…そしたらミクラが竜の彫刻を捜そうって」

「その竜の彫刻は何処に在るの?」

「西の森の中だって。そうおかあさんに教わったって言って…」

「その彫刻の処にノランさんが居ると思ったんだ?」

 ギゼルはこくんと頷いた。

「でも見つからなくて…そのうち暗くなって…一度、ミクラと逸れたんだけど、探し出して…でも、その時には…ミクラが…」

「判った。判ったわ。ちゃんとミクラちゃんを守ったんだよね。偉いわ。うん、偉い」

 ソフィアはギゼルを力一杯抱きしめた。


 暗い森の中で力尽きたミクラを背負って彷徨って、それでも歩き続けたギゼル。ソフィアはギゼルに思いっきりの笑顔で言った。

「お爺様には、明日、わたしから説明しておくわ。だから今夜はもうお休みなさい。ね?」

 ギゼルは含羞みながら、ソフィアを見、そして不安げにミクラを見て、静かに部屋を出ていった。小さく「お休み」と告げて。


 ギゼルがドアを閉めるとソフィアから笑顔が消えた。

(ノランさんが誰かに操られていた…しかもニクシーの誰かも加担している…でも)

 ニクシーの全員、少なくともヌーラ姫やネゼがそういう事をしているとは思えなかった。

(領主の館…そこに何かが在るのよね)

 キーファが魔岩の欠片を投げつけた翌日に、村が焔に覆われた。

(…だとすれば、ノランさんが選礼式をしたのは、キーファが森で魔岩を見た後よね)

 キーファは魔岩の焔を受けて、暫く動けなかったはず…

 ソフィアはその時の事を考えていたが、しかし、考えはまとまらなかった。

(どっちにしても二人が元気にならない事には…領主の館を調べるのは明日にしよう)

 そう決めて、寝込んでいるミクラに近づき、熱を確かめ、布団を直すと小さく欠伸をした。


(今日は色んな事が在ったなぁ)

 森の中で木の精霊と出会い、金竜と出会い、そして苦手だった飛翔術は竜から貰った竜髭靴によってむしろ得意になりかけている。

(私にとってはいい日のようだけど、御老人達にとっては厄日…だった…ね)

 ノランは目覚めず、ミクラも熱を出して寝込んでいる。老人、そしてギゼルも憔悴しきっている。

(ノランさんは落ちた事とか殴られた事とかよりも杖の法力の浴び過ぎのようだから、治癒の術も浄化の術もかえって悪化させるだけだし、ミクラちゃんもここまで疲れていると術をかけること自体が命取りになりかねない…)

 結局、何もできない。時に任せるしか対処方法は無さそうだ。

(これだけ法力が有り余っていても、何にも役に立たない事があるのよね…)


 ソフィアは自分の無力をゆっくりと噛み締めていた。

(もう少し看病の仕方をちゃんとシスターに教わっておくんだった)

 賢者や聖者ですら滅多に習得できないという浄化の術を自分の物としたソフィアはあまり治療の方法を憶えなかった。実際、どんな治療でも癒せない毒や病気、呪いの類を簡単に消し去る浄化の術は便利な術。その特殊性と便利さはソフィアを慢心させるには充分すぎた。けれども旅に出てみると実際に必要なのは、そういう派手な術ではなく地味な知識の方。

(もう一度、ちゃんと憶えないと駄目よね)

 ソフィアは寺院の膨大な図書を思い出していた。

(でも、あの寺院にも、あまりそういう事を書いてある本は無かったなぁ)

 寺院の全ての本を読破したソフィアだったが、やはり看病は体験が物を言うようだ。

(シスター・ルナ・ユイガンはそういう知識が豊富だったな…)

 思い出すのはそのシスターとの喧嘩だけ。

(すみませんシスター。貴方の知識は私に必要な物でした)

 ソフィアは杖を肩に掛けて両手を握り、目を閉じて静かに懺悔した。


 窓の外の月明かりは今のソフィアには明る過ぎる。

(眩しい)

 目を明けると月明かりを眩く反射する杖。杖の表面に浮かぶ紋様を指でなぞりながらソフィアは杖に問い掛けた。


(貴方は私にとって疫病神なのかしら?)

 杖はソフィアの人生を大きく変えた。


(それとも私が貴方の疫病神なのかしら?)

 ソフィアが居なければこの杖は、まだ綺麗に飾られているはずだった。


(…結局、似た者同士よね)

 強大な法力を秘めた杖と膨大な法力を持て余しているソフィア。


(私達は周りを不幸にしているのかも)


『◎…違うよソフィア。それ違う』

 ミクラの枕許からひょいと顔を出したウェンディがソフィアに言った。


 29.仲間

『◎…ソフィアと出会わなかったらワタシは不幸だったもの』

『★そやで。ソフィアがおらんかったらアタイだってつまらん人生やったと思うで』

『☆そうそう、アタシらが逢う事も無かったし』

『○まったくやで。相反する精霊同士がこうやって話でけるのは間違いなくソフィアの御陰やもんな』

 ぞろぞろと枕許から出てくる人形達。

『◎…だからソフィアが周りを不幸にしていることはないんだよ』

『○せやで。今回の事かてソフィアが居たからミクラちゃんとギゼルちゃんが見つかったやんか』

「そうかな」

『★もっとも、それは金竜のおっちゃんの御陰でもあるけどな』

『☆んでも、そのおっちゃんの試練を乗り越えたんはソフィアやで』

『○なんや、結局ソフィアは誰も不幸にしてないやんか』

「ありがとう。みんなありがとう」

 人形達の暖かさが心に染みた。

『☆そや!』

『★なんや? 急に大きい声出して、ミクラちゃんが起きるやないか』

「なに? どうしたの? アェリィ」

『☆あの木の実や。あの木の実が効くんとちゃうか?』

『★あの実て?』

『☆そや。なんやったか…翡翠…』

『○ちゃう。碧玉胡桃や』

『☆なんでもええがな。とにかくあの木の実は一粒食べたら三日食べんでも平気とか言うてなかった?』

「そうだ。そういってたね」

『○そうや。それを料理して食べさせたら二人とも元気になるんとちゃうかな?』

「そっか!」

『◎…でも誰が料理するの?』

「私がするわ! だって、こうなった以上、私が料理するしか無いじゃない!」

『★☆○◎…それは、止めといた方が』

「どうして?」

『★いや、ソフィアが料理が下手と言う訳や無いけど…やっぱりなぁ』

『☆そや。ソフィアが料理したんは不味いという訳や無いけど…お爺さんの方が』

『○そうそう。ソフィアが料理したんを食べたら二日寝込む病人が出ると言う訳や無いけど…お爺さんのシチュー美味かったし』


 読んで下さりありがとうございます。

 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。

 15/30話目です。


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