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アコライト・ソフィア14

 選礼式とは…

 そして慣習を悪用されて…

「なぁ、選礼式ってそんなに大事なのか?」

「選礼式? そうね、人によっては大事な事ね」

「人によっては?」

「なりたい職業が在る時、それ以外の職業に就くのは嫌でしょ?」

「…うん」

「だけど七回チャンスが在るから、大抵は自分のなりたい職業を示す石が出るまでやり直すのよ。そして好きな職業を示す石だったらそれで終りにするんだけど…」

「七回やり直せる?」

「ええ、大抵の場合はそうよ。一二歳から初めて一八歳まで年に一回、大抵はその人の誕生日に行うの。だから全部で七回よ。もっとも場所によって違うし、特にやり直しの場合のキャンセルする方法なんかはかなり地域の特色が出て、変った方法をする所も在るわ。それがどうしたの?」

「今年、俺は十二歳になるんだ。それでミクラが選礼式をやろうって。俺、選礼式ってそんなに知らなかったから…」

「そう。ミクラちゃんは知ってたの?」

「細かくは知らなかったみたいだけど。とにかく、その儀式に必要な石が領主様の家に在るはずだからって」

「それで領主様の家に行ったの?」

 小さく頷くギゼル。

「それで見つかったの?」

「見つかったけど、七つ在るはずの石が六つしか無いってミクラが言って…」

「六つ? どんな色の石が在ったの?」

「白と黒と青と黄色と緑と…硝子玉が在った」

 選礼式に使う石は全部で七つ。そして無くなっている色は…

「ミクラちゃんはどうしてもう一つの色を知ってたのかな?」

「おかあさんに教わったって言ってた。ミクラのおかあさんは教会で巫女をしていたんだ」

「そう。巫女をなさっていたの」

「それで小さい時に真似事をして遊んでたって言ってた」

「ふぅん。それじゃ詳しいわね」

「ミクラは巫女になりたいんだって。だから必ず白い石を選ぶって…」

「それで領主様の家で残りの石を捜したの?」

「うぅん。ミクラは無くなった石は西の森にあるはずだって言い出して」

「それで西の森に?」

「うん。その時ミクラが言い出したんだ。ソフィア姉ちゃんの杖もそこに在るかもって」

「どうして私の杖がそこに在ると思ったの?あっ、それは知らないんだったよね。ごめんね同じことを聞いて…」

 ギゼルは黙り込んだ。ソフィアはギゼルの頭を撫でて、もう一度謝った。

「ごめんね。疲れているのにいろいろ聞いて。もう遅いから休みましょ? ミクラちゃんは私が看てるから。ね?」

 ギゼルは黙り込んだまま立ち上がり部屋の外に出ようとしたが、ドアの所で立ち止まり、肩を震わせた。

「どうしたの?」

 ソフィアが声を掛けると泣きながら振り返った。

「ごめん。ごめんなさい。お、俺、嘘ついてた。本当は知ってるんだ。でも、俺信じられなくて。だってノラン姉ちゃんはギーゼ兄ちゃんの恋人だし、優しいし、俺好きだったし、でもそんなノラン姉ちゃんがあんな事…」

 ギゼルは泣きじゃくりながら独白し始めた。

「どういう事?よく判らないけど、怒らないから、ね。ちゃんとゆっくり話して。ね?」

 ソフィアは歩み寄りギゼルをあやすように抱きしめた。そして、椅子に座らせると頭を撫でながら、続きを聞いた。

「領主様の館跡に行ったんだよね」

「…うん。それで残りの石を捜していると暖炉の中から人が出てきたんだ」

「暖炉の中から? どんな人?」

「黒いマントを頭から被った人と、この前の半魚人の誰かと…」

 ギゼルは肩を震わせて唇を噛み締めた。その様子からソフィアは察して言葉を繋げた

「…ノランさんだったの?」

 言葉無く頷くギゼル。ソフィアはもう一度、ギゼルを抱きしめた。

「そうか。そうだったの」

 ソフィアに抱きしめられてギゼルは無表情のまま、その時の事を語り始めた。


 27.館の出来事

「へんだなぁ、なんで無いんだろ?」

 ミクラは燃え残っていた選礼式に使う石の入った箱を見つけたが、中には七つ在るはずの石のうち一個が欠けていた。

「どっかに落ちているのかな?」

「だから何が無いんだよ。ミクラ」

 ギゼルは既に飽きていた。ギゼルにとって興味がない式典に使う石の事など如何でも良かった。

「だめよ。ちゃんと七色無いと選礼式をしちゃ駄目なんだもの」

「だから、何色が無いんだよ?」

 ミクラは振り返るとにこっと笑って応えた。

「ひ・み・つ」

「…じゃあ、捜してやんね」

「あ。うそ。ウソ。嘘よ。ね、一緒に捜して」

「…捜してやるから、どんな色なんだよ。残りの一個は?」

「え〜とね。色はともかく、この石と同じ大きさで同じ重さの同じ形の石なのよ」

「…つまり片手で持てるぐらいの丸い石だな?」

「うん」

 無邪気に笑うミクラに呆れながらギゼルは焼け落ちた館の床に積もっている灰の中なんかを棒で突きながら捜し始めた。

「あ、盃。見っけ」 「こっちには燭台…でも壊れてるわ」

 結局、たんなる宝探し遊びになってしまい、倒れたかけた壁の下を探っていた時。暖炉の方で変な音がした。

「なんだろ?」

「やだ。幽霊?」

 二人が暖炉の方を振り返ると…暖炉の床が持ち上がり、中に人影が見えた。

「ミクラ! ここに隠れろ」

 ギゼルは倒れかけた壁の下にミクラを押し込むと自分も潜り込んだ。

「なによ。もう」

「しーっ。静かに」

 ひそひそ声でミクラに注意しながら、ギゼルはさっきまで灰の中を探っていた棒切れを両手で握り締めて、暖炉の方を睨んだ。やがて、暖炉の中から黒いマントの人…そいつは頭を黒い頭巾を被っていたので判らなかったが、それに続く人影には見覚えが在った。

「あいつ…この前の半魚人」

「ネゼとか言った…あの爺やさんかな?」

「わかんね。わかんないけど、半魚人の誰かだ…それは判る」

「それって、判ってないって事じゃない?」

「…うるさいなぁ」

 二人が小声で遣り合っている時、三人目が中から出てきた。そして、その人は…

「! …え?」

「何故? ねぇ、なんでノラン姉さんが?」

「知るかよ。なんでか知るかよ!」

 そしてノランが半透明の布で包んで手に持っているのは…銀色に輝くソフィアの杖だった。

「ソフィアさんの杖だ!」

「なんで…なんでノラン姉ちゃんが?」

 二人が疑問の嵐の中に居る時、ノランは半魚人に突き飛ばされた。

「ふん。何の役にも立たん物を持ってきおって」

「これを…この杖を持ってこいって行ったのは貴方でしょう?」

 ノランは灰に塗れて涙ながらに訴えたが、二人の失笑を買うだけだった。

『ふん。御主が法力が在る杖だと言ったから見せてみろと言っただけ』

 黒マントの声が辺りに冷たく響き渡る。とても人間とは思えない声が。

「そんな…そんな言い方…」

「事実、その杖はワシ等には何の役にも立たん。どれだけ法力が在ろうとも、役に立たんのならば、そこらの棒切れと同じ事」

 半魚人は忌々しげに言い放つとノランを足蹴にした。思わず飛び出そうとするギゼルをミクラは渾身の力で引止めた。

「そんな、貴方だってこの杖を触って火傷して…だから私に此処に持ってこいって…」

「うるさいぞ。小娘ぇっ!」

 半魚人は足でノランの頭を灰の中に押さえつけた。その半魚人の右手には確かに火傷の跡。

「…だから、我が一族の宝、水衣を貸し与えたではないか。それを…このような灰だらけにしおって」

 半魚人はノランの手から杖を包んでいた半透明の布を奪い取ると手で灰を払っていたが、布についた灰と消し炭は綺麗には落ちなかった。

「えぇい! 先々代の形見をこんなにしおって! こんな布を持ってかえる訳には行かんわ」

 腹立たしげに布を投げつけて言放った。

「その杖と水衣をもって消え失せろ!」

「そんな…こんな仕打ちを受けるなんて」

 二人は顔を見合わせて笑った。

『村を焼き払った娘にはまだ優しい仕打ちだと思うが?』

「まったく。自分が選んだ職業が気に入らんと村を焼き払った娘とは想えん言葉だな?」

 薄気味悪い声で笑う二人の前でノランは声も無く項垂れていた。

(ノラン姉ちゃんが? 村を焼き払った?)

 壁の下でギゼルとミクラは呆然とノランを見ていた。

「…それは…それは貴方がそうしろと…私が選んだのは赤い石だと…その証として…村中の家の前に赤い石を置けと…そう言ったではないですか! まさか、その石が…その石から火が吹出すなんて…」

 灰の中から黒マントを睨みつけるノランだったが、半魚人に再び足蹴にされた。

「それはおまえがドジだからだろう?」

 半魚人は灰の中にうずくまるノランを覗き込みながら言った。

『選んだ石が気に入らない場合は…どうするのかな?』

「おら。応えろよ」

 半魚人はノランの髪を掴み、無理矢理に顔を黒マントに向けた。

「…誰にも見られずに…西の…西の森の何処かに在る…竜の…彫刻の口に入れる事…」

「そう。それを見られたら…見られたらどうなるんだ?」

「…その職業につく事。さもなくば…その職業の人に…嫁ぐこと」


 読んで下さりありがとうございます。

 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。

 14/30話目です。


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