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アコライト・ソフィア13

 ソフィアが戻ると、ギゼルとミクラが…

 ソフィアがオロチから貰った物は竜の鱗と竜の髭で編み上げられたブーツと二つの細長い竜の鱗の盾。そして、そのブーツは飛翔界を唱えずとも念を込めるだけで空を飛ぶことができる品だった。

「戦闘天女ってヴァルキューレの事?」

 竜の鱗や髭で作られたブーツを穿き、盾を両肩に装備して背丈よりも長い杖を持ち、ノランを背負って夕日を背景に森の上を飛ぶソフィアの姿は確かにヴァルキューレに似ていなくも無かった。

『☆そうそう。その竜髭靴はいい靴やね』

「りゅうしか? なるほど。竜の髭の靴ね」

『★…結構、空を飛ぶって気持ちええんやな』

『○空を飛べる神様とか神獣とか多いけど、こんな心地ええんやったら納得やわ』

『☆うんうん。金竜のおっちゃんも空に飛んでく時は嬉しそうやったもんなぁ』

『★先に失礼するとか、再び逢う時には何とかんとか言ってたけど、ほんまは直ぐに飛びたかったんとちゃうか?』

『○ウチもそう思うわ。こんなに心地ええもんなぁ』

『◎…けど、落ちたら大変…きゃあ』

 風圧に耐えかねてウェンディが落ちてしまった。

「あぁっと。また落ちたの?」

 ひゅんと方向を変えてソフィアは落ちていくウェンディを掴まえた。

『◎…助かった。ソフィア、ありがとね』

「いいわよ。そろそろ家の近くだから下に降りましょ」

 ソフィア達がちょうど家の前に降りた時、老人が飛び出てきた。

「どうも遅くなりました」

「御前さん。空を飛べるのかの?」

「ええ。まぁ、こんなに飛んだのは久し振りですけど」

『★今までは頭打ってすぐ終わってたし』

「こら、サーラ。あっ、御爺様。ノランさんが見つかりました」

「おお。ノラン。ああ、御前さんの杖も見つかったのかね」

 ソフィアの背中のノランを見て老人は少し落ち着いたが、また辺りをきょろきょろと探っていた。

「御老人。どうされました?」

「なに、何でも無い。何でも無いが…」

『☆何でも無いようには見えんけど?』

「アェリィ! でも御老人、何かあったのですか?」

「ギゼルとミクラがな…居なくなったんじゃ。昼飯の時までは居たんじゃが、それから姿が見えんのじゃ」

 狼狽する老人にかける言葉は直ぐには見つからなかった。


 ぱちぱちと燃えている暖炉の側のソファに寝ているノランをソフィアは看ていた。そして暖炉の脇に老人。幾度となく外に出ては近くを捜し、落胆して帰ってきた。

「何処に行ったのかのう。今までは遅くても夕食までには帰ってきてたんじゃが」

 夕食に作ったシチューは暖炉の中で煮詰まっている。

「私、捜して来ますわ。ノランさんは暫くは目を醒まさないと思いますけど、怪我とかはありませんから…明日には元気になると思います」

「すまんの。ノランはわしが看るからギゼルとミクラを…よろしく頼む」


 ソフィア達は家を出ると道を森の方へ暫く歩き、立ち止まった。

『○何処に行ったんかな。ギゼルとミクラちゃん』

「さて、これを使って捜しましょ」

『☆何なん? それは?』

「ギゼルちゃんとミクラちゃんの髪の毛。さっき部屋を覗いて拾ってきたの。これでトレーサーを作って…」

『★そか。そいつを追いかけると…』

『○見つかると言う訳やな?』

「でも生者の体の一部を使うから動きも早いし、居る場所に行くとも限らないわよ」

『◎…どして?』

「その人の想いの強い場所。例えばあの家で止まる事もありえるわ」

『★そかぁ。難しいんやな』

「でも何もしないよりは、少しは…」

『☆せや。何もせんよりはええで』

「じゃ始めるわよ。みんな落ちないでつかまっててね」

 ソフィアの手から離れたトレーサーは凄い勢いで辺りを回り始めたが、やがて森に向かって素早く動きだした。

『★ソフィア、あっちや』

「判ってる。行くわよ」

 ソフィアは竜髭靴に気を送って飛び出した。


 森の中をあちこち飛び回り、トレーサーが飛び着いたのは西の尾根の森だった。

「ふぃぃ。まだ…辿り…着か…ないの…かしら?」

 まだまだ動きが早いトレーサーの後を飛び続けているソフィアにも疲れが見え始めた。

『☆あぉぅっ…とにかく…ぐぇっ…後を…げへっ…ついていかんと』

 小枝や葉っぱに強かに打ち続けられながらも人形達はソフィアにしがみついていた。

『○しかし…も少し…ぎゃあっ…高く…ひゃぉ…飛んで…ぐへぇっ…くれへんかな?』

「無理よ…きゃ…ひぇっ…子供の…きゃいっ…高さで…飛んでるん…ぎゃっ…だから」

『★しかし…おおっと…なんや…げへっ…いたたた…瘴気が…が、ぎゃっ…強く…ぐふっ…痛ぁ…なって…ひゃっ…来てるで』

『◎…ぎゃっん』

『☆あ、…ウェンディが落ちてしもうた』

「えっ? 止まるわよ!」

 ソフィア達は飛ぶのを止め、地面に降りてウェンディを拾うと辺りを見回した。

「ここはどの辺りかな?」

 ソフィア達が辿り着いたのは森の西の外れの尾根近く。辺りには何もなく空に二つの月が空高く輝いている所だった。

『○トレーサー…見失ってしもうた』

『◎…ごめんなさい』

「いいわよ。そろそろ限界だったし」

『★ええ事あるかい! 手掛りが無くなってしもうたんやで』

『◎…ひぃ』

『☆…いや無くなってへんで。あそこで光ってるのトレーサーやろ?』

「あっ! 本当だ」

 アェリィが指差した場所は大人の背丈ほどの崖の下からひょろりと生えている茶色に枯れかけた木の枝だった。そこにぼんやりと光るのは間違いなくトレーサー。

 ソフィア達が駆け寄るのとほぼ同時にトレーサーは光を失った。

「ギゼルくぅん。ミクラちゃぁん。そこに居るのぉ?」

 小さな崖の上からソフィアが呼び掛けると下から小さな子供の声。

「ソフィア姉ちゃんかぁ。ここだぁ」

 声の主はミクラを背負って歩き疲れたギゼルだった。


 26.ギゼルとミクラ

 二人が消えたのはミクラが在る事を言い出したのが始まりだった。

「ミクラが…その…腐泥の沼に行こうと言いだしたんだ」

「腐泥の沼に?」

 ソフィアがギゼルとミクラを背負い家に帰りついたのは夜遅く、紅き月が天頂にかかり、蒼き月が西の尾根に沈み始めた頃だった。

「どうしてそんな所に行こうとしたのじゃ?」

 厳しく問い質しながらもギゼルに煮詰まったシチューを勧める老人の目は優しかった。

「ミクラがソフィア姉ちゃんの杖がそこにあるかもしれないって」

「私の杖が?」

 こくんと頷くギゼルには最初に会った時の刺々しい感情は無かった。

「どうして私の杖がそこに在ると思ったの?」

「知らない。ミクラが言い出したんだ」

「ミクラちゃんが?」

 そのミクラは疲労が激しいらしく熱を出したまま二階の部屋で寝ている。

「どうしてミクラちゃんはそう思ったのかしら?」

「知らない」

「ギゼル!」

 老人は厳しく少年を見据えた。

「知らない。知らないんだ。どうしてミクラがそんなことを言い出したのか」

「ギゼル! 隠し立てすると…」

「御老人! ギゼルくんは本当に知らないみたいですから」

 ソフィアはギゼルに殴りかかりそうな老人を制してギゼルに声を掛けた。

「ギゼルくん。もう遅いから御休みなさい」

「…うん」

 力なく頷き、ギゼルは自分の部屋に上がっていった。

「御老人、そう怒られては言える物も言い出せなくなります」

 ギゼルの部屋の戸が閉まる音を確認してソフィアは老人を諌めた。

「すまん。すまんの。大事な杖をノランは持ちだすわ、ギゼルとミクラは御前さんに迷惑を掛けても謝らんは…」

「御老人、ノランさんが持ち出したとは決まった事では在りませんし、ギゼルちゃんとミクラちゃんはまだまだ子供ですから。それにあの二人は私の杖を捜しに行ったようですし咎める事は在りませんわ」

「…すまんの。ノランはわしが看とるから御前さんも休むがええ」

「ええ。では御言葉に甘えて。ミクラちゃんの様子を見てから休ませて頂きます」

「ああ。ありがとう」

 老人は力なく応えるとノランの額にのせた湿布を取り替えた。


 ソフィアがミクラの部屋に入るとそこに居たのはギゼルだった。

「あら。心配無いわよ。明日になったら元気になるから」

「…そうかな。そうだったらいいけど」

 ギゼルは振り返らずにソフィアに応えた。ギゼルはミクラの手を握りながらその寝顔をじっと見ている。その様子を見てソフィアは微笑んだ。

「ね、ミクラちゃんとずっと一緒だったの?」

 ギゼルは少し沈黙した後、頭を横に振った。

「出る時は一緒だったんでしょ?」

 ゆっくりと頷くギゼル。

「何処で逸れたのかな? 西の森?」

 沈黙するギゼル。唇を噛み締めていたが、やがてソフィアに尋ねた。


 読んで下さりありがとうございます。

 これは光と闇の挿話集 長編の1作目になります。

 13/30話目です。


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