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福ちゃん・・・2

 実は、我が家に来てから彼女はダイエットをして、体重を二キロ、落としていた。来た当時の体重は5キロ。これは体長が二倍近くある小太郎と同じ体重で、見るからに肥満で、お座りができないくらいにお肉がついていたのだ。ドックフード十五粒、これが彼女のご飯になった。もちろん、少なすぎる量ではない。本来、極小犬であるポメラニアンやチワワが食べる量ということで、十五粒に決定されたのだ。食いしん坊の福ちゃんにとって、これは苦悩の毎日だっただろう。


しかし、この努力のお陰で、福ちゃんは見事お座りができるようになった。いや、後から考えてみれば、こんなことは福ちゃんにとって、苦悩ではなかったかもしれない。彼女にはやめることができない、もっと大変な癖があったのだ。


 来た当時の福ちゃんは、ひたすら臭かった。彼女が近寄ってくると、何とも言えない、くさぁーい、臭いが漂ってくるのだ。しかし、福ちゃんが臭いのは放浪の旅に出ていたからで臭いが染みついたのだろうと、みんな思っていた。だから、何回かお風呂に入ればいつか臭いは取れるはずだろうと思っていた。


 しかし、その臭いは、いつまでも取れることはなかった。原因はなんと彼女の糞尿食にあったのだ。


 迷子になったり、さみしい思いをしたりすると、自分の排泄物を食べるということを聞いたことがあるが、彼女の場合は、一種の生きがいを感じさせる情熱があった。それ故に、彼女は一度どこかの家に引き取られたにもかかわらず、また警察に戻るという道を辿ったのだ。


 初めてその現場を抑えた時は目を疑った。小太郎にそんなことが全くなかったので、まさか、そんなものを食べているなんて思いもしなかった。


「……」


 何があるのかは知らないが、彼女は必死になってそこにある何かを食べていた。その頃、おしっこを舐めることは知っていたので、ぬれているところはないかと探したがそんな場所もなかった。


 トイレにそんなに美味しいものが落ちているのだろうか……。周りはぬれていないから、おしっこじゃないだろうし……。


 だから、現行犯でその行動を見た時も、しばらくは何も言えず、観察してしまった。そして、彼女は、満足そうに舌なめずりをして、ペロッと黒い鼻を舐めた。何もないと思っていたところが、茶色く汚れている。


「お母さーん!」


 この家の犬を取り締まる母に即報告だった。この行動に驚いたのは私を含め、家族全員。


 福ちゃんは綺麗さっぱり、自分の糞を食べ終わっていた。


「ほんまにびっくりしてん。だってさ、なんか一生懸命食べてるなって思ったら。自分のウンコやねんもん」


「放浪生活もしてたしなぁ。それが関係してるんかもしれへんな」


「生きる力って奴?」


「もしかしたら、前のところでほっとかれてたんと違うか? さみしいと自分の糞を食べるっていうしな」


 いろいろなことを独断と偏見で推察しつつ、その日は福ちゃんの過去についての話がなされた。そして、食べないようにしつけないといけないことに話が収まった。


 それから、今までも忙しかった、トイレ番がひたすら忙しくなった。尿ならまだしも、糞を食べるのはきっと体にも悪いはずだ。それに、食べた後の福ちゃんは、恐ろしく臭い。


 そして、母の仕事がまた一つ増えた。


 彼女が糞食を行うたび、母は彼女の口の中を綺麗にティッシュで拭き、お風呂のたびに、口も洗うことになった。そのかいあってか、体から染み出してくる臭いは大分ましになってきた。


 しかし、そんなことで懲りる福ちゃんではない。懲りるどころか、小太郎の糞にまでも目を付け始めたのだ。それはもう、中毒としか言いようのないくらいの情熱ぶりだった。


 第一発見者は、散歩中の母。


「今日はほんまに、びっくりしたわ。何か知らんけど、福ちゃんが小太郎のお尻の臭いかぎに行くなぁって思ってたら、出てくる、ウンコ食べてやるねんで」


 聞いている方もびっくりした。彼女は地面に落ちて、拾われる前に糞を食べてしまったそうなのだ。


 頑張ってきばっている小太郎と、それを必死になってのぞく福。そして、何が何だかわからずに、情けない顔をする小太郎。できたてほやほやの大好物を満足そうに食べる福。


 まぁ、安い缶詰の匂いにも似てなくもないけど……。


 想像して笑い事ではないのに、笑ってしまった。しかし、これは人間だけの問題ではなくなった。小太郎にとっても大きな損害になるのだ。

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