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暗闇・・・1

 それは全く、突然のことだった。急に目の前が真っ暗になり、小太郎は自分がどこに立っているのかも、一歩前に道があるのかもわからなくなった。前にも後ろにも何もない。みんなの声がする。近いはずだ。しかし、姿はない。


 みんなどこへ行ったの? 隠れてないで出てきてよ。


 小太郎は心の中で必死に助けを求めた。体が震えて止まらなかった。


「小太郎? どうしたん? 何があった?」


姉の声が聞こえた。


「どっか痛いんか?」


母の声も聞こえた。


「何か、おかしいで」


 父の声がした後、小太郎は宙に浮いた。抱き上げたのはその時一番傍にいた、姉だった。


 この匂いはおねーちゃんだ。よかった、傍にいたんだ。


 そう思って、小太郎は少し安心した。そして、小太郎はもう絶対に離れたくないというように、グッと姉の身体に身を寄せた。


「何があったん? 何か怖いことでもあったんか?」


「怖がりやからな、小太郎は」


「ちょっと、抱いといたって」


 小太郎はただ、身を寄せて黙っていた。黙っていたのではなく、声を出すことすら儘ならぬほど怖くて仕方がなかった。みんなの声が小太郎に集まっていたのは知っているが、本当にみんなが小太郎の傍にいるということに自信がなかった。どうしても震えは止まらないし、周りは真っ暗なままである。まだ、何も解決なんてされていない。ただ、今は姉が傍にいて、姉に抱かれていることだけが小太郎の確かな拠り所だった。


小太郎はそのままテレビのある部屋まで抱かれて行った。そして、暇な姉に抱かれたままテレビの音を聞いていた。


 一体どうしたのだろう。いくら考えても小太郎に思い当たる節はない。今日もいつも通りに朝起きて、母に朝ご飯をもらい、ノリちゃんが起きてくるまで、母に散歩をねだっていた。そして、ノリちゃんが起きてきたから、ノリちゃんに散歩へ連れて行ってもらった。ノリちゃんは意地悪だから、小太郎の縄張り外まで散歩に連れて行く。まだ、みんなの顔も見えていた。そして、その後小太郎は母が出て行くまで朝寝をした。


 母は朝の後片付けをした後、ビデオをつけて、内職を始める。パチッ、パチッ。そんな音を立てながら、母は小太郎の傍で手を動かし続ける。母は小太郎の傍で手を動かし続ける。小太郎は母の傍で眠ってみたり、膝の上に乗って仕事の邪魔をしてみたりする。


「ほんまに、邪魔ばっかりするなぁ。小太郎は」


 そう言いながら、母は優しく小太郎のお腹を撫でた。小太郎は「もっと」と手を出して何度も催促し、母に甘えた。


 十時になると、母は用事で家を出て行く。その時もまだ大丈夫だったはずだ。

 小太郎は福ちゃんと一緒に、母に「出て行かないで」と鳴いた。福ちゃんは「出て行くなら、ご飯撒いて行ってよ」と鳴いて、母の足元にまとわりついていた。小太郎は「ご飯なんてどうでもいいから一緒に行く」と付け足した。しかし、母がばら撒くドッグフードを見た途端、体がドッグフードを求めて母から離れてしまい、いつも、母に逃げられてしまう。だから、いつも後悔して母の帰りを待っている。


そして、最近は姉が家にいて、十一時ごろ起きてくる。姉が締め切られたテレビの部屋と、玄関との仕切りを開いてくれる。そして、小太郎は、玄関で母の帰りを待ってみたり、姉と一緒にテレビの部屋で待ってみたりする。


 大きな荷物と共に、母が帰ってくると、みんなでお出迎えをした。姉はその大きな荷物を担ぎ、なぜか小太郎に話しかける。


「小太郎も持っていってや」


 興奮状態の小太郎にそんな姉の言葉なんて通じるはずもなく、小太郎はいつも無視する。小太郎は喜びのあまりくるくる回りながら、嬉しさを表現し続けた。その時、福ちゃんを蹴っ飛ばしたような気もするが、まぁ、大丈夫だろうと、小太郎は思った。そして、お留守番のご褒美をもらった。チーズの美味しそうな匂いがして、小太郎の口の中は唾でいっぱいになった。興奮が止められない小太郎は、これでもか、というほどくるくる回った。


 そして、しばらくすると、母と姉がお昼ご飯を食べ始める。人間は何回もご飯を食べるので、小太郎はいつも不思議に思うが、このときは一応、大人しくしているのだ。それに、たまにご飯が落ちてくるので、それを見張っておかなければならないというのもあり、ご飯時は、いつも神経を張るのに忙しいのだ。

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