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お散歩・・・2

 気候もいい秋。ちょうど暇だった私は、何日か続けて小太郎の夕方の散歩をしていた。小太郎も私が行くということを勝手に習慣付けてしまい、どこで時間を計っているのかはわからないが、毎日ほぼ定刻に、散歩をせがむようになった。私にとっては仕方なくする、散歩だった。


しかし、普段あまり散歩に行かない私は、行くとなれば張り切って遠出するのだ。元気な小太郎は、それがいいのかもしれない。そして、その日は小太郎が小さい時によく行った公園へ着いた。


公園内では少しリードを緩めて、一緒に走ったり歩いたりして過ごしていた。その時、小太郎は気付いていなかったのだが、私は向こうの方で犬が遊んでいることに気が付いていた。だから、だいぶ遊んだし、小太郎が気付く前に帰ろうと思っていた矢先の出来事だった。


 私が行動に出る前に向こうの犬が小太郎の存在に気が付いてしまったのだ。小太郎にとっては、、不運極まりない出来事だった。向こうから、その犬が小太郎めがけて走ってきた。驚いたのは小太郎だった。シッポをお腹の下に隠して、くるくると私の周りを回り始める。彼はまるで、自分の何倍もの大きさの犬から逃げているかのように、必死だった。


 その小太郎の様子を見ている私はというと、情けないやら、おかしいやらで、恐怖のため暴走している小太郎をやっとの思いで抱き上げた。


 小太郎の怖がっている相手は、チワワと思われるほんの小さな子だったのだ。大きさは小太郎の四分の一くらい、正確にはもっと小さいかもしれない。しかも、その様子からまだ子犬から抜けきれていない感じの年齢にしか見えないのだ。


「何が怖いの? どう考えてもあんたの方が有利やん」


そんな小太郎を尻目にそのチワワ君は積極的に小太郎と遊ぼうと、私の足につかまり立ち上がる。小太郎の情けなくなったシッポの先に彼の鼻先が少し触れた。それだけで、小太郎は縮みあがって、抱き上げた私の体をさらに上へ駆け上がろうとした。


 やっと、そのチワワ君の飼い主が現れた。


「ほら、ちゅーすけ。こっちおいで」


「すみません……」


 私はちゅーすけ君の飼い主に、なぜか謝った。何に謝っていたのだろう? しかし、こういう時、飼い主は謝ることしかできないのだ。これは飼い主の飼い方の責任である。


「おかしいな、昨日は友達やったのに……」


「はぁ」


 私は「いや、小太郎ではありえないでしょう……?」とは思ったが口には出さず、事務的な笑顔でもう一度謝って、相手の飼い主も私に謝っていた。ちゅーすけ君は飼い主に抱かれて、とりあえず離れて行った。


 ちゅーすけ君がかなり離れたのを確認して、私は小太郎を降ろした。


「行こっか?」


小太郎は私の顔を見て、それを承知した。きっと、小太郎もあんなに怖い目に逢って、早く家に帰りたかったのだろう。しかし、それはそんなに簡単なものではなかったらしい。公園を出ようとした時、何とまたあのちゅーすけ君が走ってきたのだ。


このまま走って逃げようか、でもあの飼い主は、ちゅーすけ君の何メートルか後ろを走っている。もし、あの飼い主が追い付かず彼が小太郎に付いてきてしまったら、それはそれで大変なことになるような気がした。小太郎には悪い気がしたが、私は小太郎を抱き上げた。


そして、「ごめんよ、小太郎」と呟いた。


小太郎は怖くて仕方がないようだが、ちゅーすけ君はどうも小太郎が気に入っているらしい。また私の足元から小太郎を見上げては、「あそぼー」と垂れ下がる小太郎のシッポと遊んでいる。私はちゅーすけ君がそれ以上逃げて行かないように、その場で待機し、少し相手をしていた。

 

 しかし、全くどうして、こんなにかわいい、明らかに穏やかなこの子が怖いのだろう。そして、相手をしながら、小太郎がこのちゅーすけ君のように人を噛まない、人懐っこい、人見知りの少ない犬だったら、どんなにいいだろうと思った。本当にどんなにいいだろう……。


 どう見ても小太郎、お前の方が悪い犬だ。


 飼い主がちゅーすけ君のそばまでやってきて今度は向うから謝っていた。そして、私の方も本当にすまない思いがして、やっぱり謝った。


「いいえ、こちらこそすいません」


 こんな犬で……。その言葉は一応、言わずに省いておいた。

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