お散歩・・・1
二匹の犬は散歩が好きである。福ちゃんの方は最近でこそ、風にあたるだけで満足してしまうのだが、彼女が来た当初は二匹でよく一緒に歩いていた。
二匹で散歩していると、小太郎は何とも思っていないのだが、小太郎に負けないために短い足で一生懸命小太郎の先に出て、歩こうとしていた。小太郎が少しでも前に出ると、まだ二本残っていた牙をむき出して、「ふぅわっ」と吠えるのだ。これは散歩の行きの話である。
しかし、小太郎とおおよそ七つの年齢差には勝つことができず、帰りには往路の勢いなど全くなくなり、小太郎の後ろを必死についてくるようになる。そして、人間の歩くペースが遅くなった理由が福ちゃんにあるということを知っているかのように、小太郎は福ちゃんを眺めるのだ。そして、私を眺める。
「福ちゃん遅いねん」
その顔はそう言っているように見える。
初めの二年くらいはそういう感じの散歩だった。しかし、三年目くらいから、帰りは福ちゃんを抱く散歩に変わり、歩く距離とペースの差が開いてきたため別々の散歩に変わった。そして、小太郎だけが散歩に出てしまうと、やきもちを焼いていた福ちゃんだったが、最近は散歩自体にあまり魅力を感じなくなってしまったらしい。
しかし、小太郎が一匹で散歩をするようになると、ほかの散歩中の犬との交流が全くなくなった。福ちゃんは友好的な犬だったので、いろんな犬とも友達になれたのだが、小太郎は「イヌ」が怖いのだ。要するに、「あの四本足の変な格好の化け物は何だ?」という感じだ。彼の中の生き物は、二本足。そういうものだと思い込んでいるのだ。だから、杖を持っている人も小太郎は嫌いだった。
そして、私はときどき、普段からの彼の横柄な態度に仕返しするため、小太郎をいじめてやる。小太郎をいじめてやろうと思えば、わざと縄張り外の犬のいる道を通ればいいのである。そんな時小太郎はシッポを丸めて、腰を道に擦り付けるような歩き方で何度も私を見上げるのである。何度も見上げては、一秒たりともここに長居はしたくないというようにリードを一生懸命引っ張り始める。私は意地悪なので、心の中で笑いながら、わざと知らない顔をして歩く。裏を返せばこれほど簡単に懲らしめられる犬はいないのだ。それに、家の中では天狗である彼のシッポがどんどん垂れていくのを見ているのは、結構面白い。
一度本当に面白かったのは、台車が追いかけてきた時だった。もちろん、偶然の出来事で、行く方向が同じだっただけなのだが、その時の小太郎といったら、世にも恐ろしい化け物に追いかけられているような顔をして、私を見上げるのだ。「おねーちゃん! どうしよ!」そんな顔だった。しかも、追い抜かれるのも怖いらしく、必死になって前へ進んでいくので、台車が道を違えるまで、その台車に追いかけられていた。
しかし、いじめている時はいいのだが、ただ散歩をしている時は、困ったもの、恥ずかしいものにしかならない。縄張り内では、弱いくせに、出会う犬、出会う犬に吠えかかり、私はその度に相手が本気で攻めてこないかと心配させられる。そして、縄張り外でのその怖がりようといったら、飼い主が恥ずかしくなるものでしかないのだ。