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その91「大型スーパーに行った・下」


 俺たちはスーパーに足を踏み入れた。店内はクーラーが効いていて、涼しかった。


 「ふぅー、生き返るー」


 深月姉が両手を広げ深く息を吸い込んでいる。


 「おお……!!人がいっぱいだ……!!」


 汐里は広い店内を見渡している。平日の昼だったが、店は主婦やおじいちゃんおばあちゃんで賑わっていた。


 「俺は食料品コーナーに行くけど、深月姉はどうする?おもちゃ屋とか本屋とか、雑貨屋もあるけど」


 「しお、おもちゃを見たい」


 「最初は一緒に汐里ちゃんの行きたいところをまわった方がいいんじゃない?アイスを買ってからだと溶けちゃうし」


 「それじゃ、そうしようか」


 俺たちは店内の地図を見る。おもちゃコーナーは二階の隅にあるようなので、エスカレーターで二階へ行った。


 「あ、これかわいい」


 深月姉が指さしたのは、マネキンが着ているくまのプーさんのTシャツだった。


 「いいなぁ。夕一、これ買ってもいい?」


 「まぁ、別に高くもないしいいかな。服は必要だしね」


 深月姉は嬉々としてサイズを確認し、ハンガーにかけられたTシャツをレジに持っていく。俺はそれについていって、代金を支払った。深月姉は、基本的にキャラクターもののグッズに弱い。


 「私、何故かプーさんには特別な思い入れがあるんだよねぇ」


 「まぁ、そうだろうねぇ」


 その自由気ままな生き方といい他人任せな生活といい、深月姉に通じる部分が多々ある。


 「たしかに深月姉にプーさんは合うなぁ」


 「……まさか、私がプー太郎だからそう言ってるんじゃないの?」


 「違うよ。考えすぎだってば」


 わりとコンプレックスの強い深月姉だった。


 その後、汐里の行きたがっていたおもちゃコーナーに行き、一通りまわった後、食料品コーナーに向かうことになった。


 「……あ!ガチャガチャだ!」


 おもちゃコーナーの横、トイレまでの通路の脇に、ずらりとたくさんのガチャガチャの台が並べられていた。汐里ははしゃいでそこに駆け寄る。


 「うわぁ、懐かしいねぇ」

 

 深月姉も興味ありげにガチャガチャを見ていく。

 

 多くは有名なアニメやマスコットキャラクターのストラップやフィギュア、カードダスだったが、そのなかで、ひと際異彩を放っている台があった。そこの表紙には「大当たり付き!」という文字とともに、様々な景品の画像が乱雑に組み込まれていた。


 「うわ、まだ現代に残ってたんだ。このよくわかんないおもちゃを寄せ集めたガチャガチャ」


 深月姉は横から見る。


 「スーパーボールがあるよ!あとは……なんか、ちっちゃいコマとかプラモデルみたいなやつがある!」


 「そんなの作ってる会社がまだあるんだなぁ……。そういえば昔、大当たりが出て、15秒だけ録音できるちっちゃい録音機が入ってたことがあったよねぇ」


 「ああ、あったねぇ。晩ごはんのときに刺身の醤油の中に落としちゃって使えなくなったやつ」


 「今だったらタダでも要らないよなぁ」


 「今はゲーム機で動画も撮れる時代だからねぇ」


 昔の思い出に浸っていると、突如深月姉がこう言い出した。


 「ねぇ、ちょっとやってみようよ」


 「えぇー、でも、200円もするんだけど?それだけあったら今日の夕飯に一品増やせるのに」


 「いいでしょー?一品我慢するからぁー」


 俺は考える。カツカツの生活のなかであまり出費はしたくなかったが、正直ちょっとこちらも久しぶりにガチャガチャをしてみたくもあったりした。


 「……わかった。いいよ。その代り、アイスはナシだからね」


 「えぇーー!……まぁ、仕方がないか……」


 渋々同意する深月姉に、俺は100円玉を二枚渡す。深月姉は受け取るなり、ガチャガチャの台にそれを入れた。


 「こいっ……!!」


 深月姉はひねりを回す。そして二回転で、ガタンと景品が落ちた。


 「なにが出たの?」


 出てきたカプセルを、緊張の面持ちで深月姉は開ける。


 「………なにこれ?」


 出てきたのは、袋詰めされた砂と粉だった。


 「なんなのこれ?ただの砂にしか見えないんだけど」


 「そうだねぇ……」


 そのカプセルの中に、小さく折りたたまれた紙が入っているのを発見する。俺はそれを開いた。


 「もしかして、悪質な嫌がらせだったりするの!?いじわるな子どもが、ガチャガチャの入り口から無理やり押し込んだとか!」


 「……いや、違う。これ、泥だんごキットだよ」


 「え……泥だんごキット?」


 深月姉は俺の持っていた説明書を奪い取って読み進める。


 「この粗目の砂に水を加えて丸めて、そこに細かな方の砂をまぶして数十分寝かして……。なるほど、そうすることで光る泥だんごができるんだね」


 「光る泥だんごかぁ。昔は憧れてたよねぇ」


 「そうだねぇ……。でも、今はまるで興味がないよっ!!」


 深月姉は泥だんごカプセルごと俺に押し付ける。


 「さすがに200円出して砂はぼったくりもいいところだよっ!!軽い詐欺だよっ!!」


 「どうせだし作ればいいじゃないか、泥だんご」


 「わざわざ泥を丸めるために大嫌いな外に出るなんて苦行でしかないよっ!!」


 深月姉は横から台を覗いて、次に出てくるカプセルを見つけようとする。


 「たぶん次は当たりのやつだよ!夕一、もう一度チャレンジさせて!」


 「無理だよ。これ以上出したら夕飯が食べれなくなっちゃうよ」


 「むむむ……。それじゃ汐里ちゃん、私の敵を討って!」


 「しお、この犬のやつにする」


 かわいらしくデフォルメされた犬のフィギュアストラップを指さした。値段は同じ200円。俺は100円玉を2枚、汐里に差し出した。


 「おお……ダルメシアンだ!」


 カプセルの中に入っていた黒ブチのダルメシアンのフィギュアを高々とあげてはしゃぐ汐里。


 「このダルメシアンは、茂道しげみちという名前にする」


 「相変わらずネーミングは渋いなぁ」


 これでまた人形遊びの登場人物が増えたようだった。


 「そろそろ食料品コーナーで夕飯の食材を買って帰ろうか」


 俺と汐里は並んでエスカレーターのところまで歩いていく。その数歩後ろで、深月姉はトボトボとついてきていた。


 「砂……。200円で、砂……」


 「ゆーいち。おねーちゃんが、なんか呪文をつぶやいてる」


 「ほっといてやってくれ。深月姉は今、現実と戦っているんだ」


 そんな深月姉の憂鬱は、買い物を終えて家に帰った後もしばらく続いたのだった。

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