その82「サンタさんに手紙を書いた」
「ああ、今月は財政難だなぁ」
冬に入り、汐里の冬服やら電気ストーブやらなにかと色々買ったため、あまり生活に余裕はなかった。
かなりの部分を夏夜姉に助けてもらっているとはいえ、フリーター一人で3人を養うというのは現実問題厳しかった。
「ゆーいち、白い紙がほしい」
「ん、いいけど、なにに使うんだ?」
「おてがみ書く」
俺はプリンタ用の真っ白なA4用紙を一枚汐里に渡す。
「わぁ、お手紙かぁ懐かしいなぁ。私もよくしたよ。どうして女の子って、あんなに手紙交換するのが好きなのかなぁ」
深月姉はちゃぶ台にはさみやクレヨンを広げる汐里を微笑ましく眺める。
「汐里、その手紙は誰に宛てて書くんだ?」
「サンタさん」
「………え?」
「サンタさん」
俺と深月姉は顔を見合わせた。
汐里は色とりどりのクレヨンで手紙のふちに色を塗り始めた。俺と深月姉は、こそこそと部屋を出て、キッチンの隅でかたまった。
「ねぇ夕一、サンタさんだって!」
ひそひそ声で叫びを上げる深月姉。
「すっかり頭から存在が消えてたよ……」
歳をとってプレゼントをもらえなくなったあたりから、サンタさんの価値が急激に落ち始め、今やクリスマスと言えどもその存在がだいぶ薄くなっていたのだった。
「困ったね……。どうしよっか」
「今月とんでもなくピンチなんだよな」
「貯金はあるの?」
「ほとんどないよ。正直プレゼントどころか食費すら危ういくらいだ」
それくらいまでに切羽詰っている経済状況。俺たちは深くため息をついた。
「でも、ともかくなにを買うかが問題だ。汐里の好きなシルバニアファミリーのお人形さん一つくらいだったら、なんとか買ってやれるかもしれない」
「そ、そうだね。なにを買うかだよね」
私が聞いてくるね、と深月姉は忍び足でリビングに戻っていく。なぜ戻るときまでこそこそしているのかはよくわからなかった。
「ねぇ汐里ちゃん」
「なに?」
「汐里ちゃんは、サンタさんになにをお願いするの?」
汐里は思案するように天井を見上げた。
「国」
「………え?」
「しおの国」
「どこのあたりに建国予定なの?」
質問の意図がまるでわからなかったが、汐里はまた考えるように上を向いた。
「栃木」
慌ててキッチンに戻ってくる深月姉。
「栃木だって!」
「セレクトが渋いな……」
「栃木って、土地の坪単価いくらなんだろうね」
「いや、いくらでも買えないから」
さすがに幼稚園児のクリスマスプレゼントに土地はあげられなかった。
今度は俺が汐里の元まで行った。
「汐里」
「なに、ゆーいち」
「サンタさんに国をもらうと聞いたんだけど」
「うん。国をもらって、おっきな温泉をつくる」
「目的も渋いな……」
汐里がそこまで温泉が好きだという話は聞いたことがなかったが、汐里は夢見心地でうっとりした目をしていた。
「それがな、言いにくいんだけどな汐里。サンタさんは国をくれないと思うんだ」
「………どうして?」
「サンタさんは栃木に土地を持っていないからだよ。持っていないものはあげられないだろ?」
「……なるほど」
納得したようで、汐里はうんうんと頷いている。
「それじゃ、りすたちのもりのごうていにする」
「……森の豪邸?」
「うん。お人形さんのおうち」
「……ちょっと待っていてくれ」
俺は慌てて深月姉の待つキッチンまで戻ってくる。
「森の豪邸だってさ!」
「うわぁ、現実的なラインでこられたね……」
俺は携帯を開き、検索をかける。おもちゃ会社のホームページにその商品は紹介されていた。
「高っ…!1万2800円だって!」
「そんなにするの!?」
俺たちは携帯の小さな画面を食い入るように見る。西洋建築の影響を受け、それでいてところどころにログハウス要素もあるおしゃれなミニチュアハウスの画像がそこにはあった。3階建てで、広さもおそらく今うちにあるミニチュアハウスよりずっと大きい。
「リスの分際で、森に豪邸なんか作るなよ……」
「このリスたち、きっと私たちよりもずっと高給取りだよね……」
他のページを見ると、うさぎもあらいぐまもそれぞれ豪邸や別荘を持っているらしい。お人形遊びの世界はエリート揃いのようだった。。
「さすがにこれは買えないし、私たちみたいに、サンタさんへのお願いは5000円までっていうことにしておこうよ」
「いや、汐里の両親ならまだしも、さすがに俺たちが汐里の中のサンタに制限をつけちゃうのはどうなんだろう」
「でも、1万2000円はさすがに……」
俺は考える。今の経済状況で、この森の豪邸を買うのは到底無理だ。かといって、これ以上夏夜姉に頼むことも心苦しくてできない。となると、出てくる方法は一つだった。
「………働こうか、深月姉」
「ははは、まっさかー」
「……………」
「……………」
「………え、本気なの?」
急に深月姉の身体がガタガタと震えだす。俺は見てみぬふりをするしかない。
「むむむ、無理だよ!働くなんて怖すぎるよっ!」
「汐里のためだ。一肌脱いでくれ」
「そんなこと言ったって無理だよう~!!」
ついには泣きじゃくってしまう深月姉。俺の膝元で泣く深月姉を、汐里はリビングから不思議そうに眺めている。
どうしたものか。俺は頭を痛めるばかりだった。




