↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/106

その41「さきちゃんの家に遊びに行った・中」

 リムジンの中はテーブルが真ん中にあり、それをぐるりと囲うようにして席があった。


 「柏木さん、なにか飲まれますか?」


 「い、いえ、お気遣いなく……」


 車内で飲み物を出そうかと言われるのも、初めての経験だった。


 「おかあさま、わたしは、オレンジジュースがよいですわ」


 「わかったわ」


 桜井さんの手で、グラスにオレンジジュースが注がれる。


 「汐里ちゃんは、なにがいい?」


 「ん、りんごジュース」


 「わかったわ」


 華奢なグラスが置かれ、アップルジュースが注がれた。


 「よかったらおやつもなにか食べる?」


 「わたしはポテチがよいですわ」


 「はい」


 「しお、チョコパイがいい」


 「はい、どうぞ」


 桜井さんは二人におやつを渡す。 


 「あと、しるこサンドも」


 「はい、どうぞ」


 「あるのかよしるこサンド」


 車内だというのに、お菓子のレパートリーが尋常じゃなかった。


 おやつも食べ終わらないうちに車は止まり、運転手がリムジンのドアを開けた。車を出たとき、外観を見て、俺は言葉を失った。


 さきちゃんの家は、想像以上の豪邸だった。高級住宅街の一角にあるため、庭はそれほど広くはないが、そのぶん建物の面積が広く、また3階建てで屋上にはなにか植物も植えられているようだった。


 「一番うえはプールになっているのですわ」


 さきちゃんは俺に説明してくれた。


 桜井さんに誘導されて、俺たちは中へと入っていく。そして2階の、さきちゃんの部屋に案内された。


 「す、すごいな……」


 そこは、まるで小さなメルヘンの町だった。十畳以上ある部屋には、ミニチュアの家が立ち並び、その間にはきちんと道路が通っている。ある場所では、人形が信号待ちをしていた。美容室やレストラン、コンビニなどの店もあり、ごっこ遊びもできるようだった。人形遊びは財力のゲームであると、知った瞬間だった。


 「しお、かんどーしている」


 汐里は目を大きくして、その小さな町を見回していた。


 「ゆーいち、しおもこの町ほしい」


 「こんな町置いたら、俺たちが暮らすスペースがなくなるよ」


 それどころか6畳一間にこれだけのセットを詰め込めば、町というよりただの物置のようになるに違いない。


 汐里は道路に走るオープンカーを掴んで、車輪を転がす。これも人形の関連商品のようで、猫の夫妻が運転席に並んで座っていた。


 そのとき、部屋のドアが開かれる。桜井さんが飲み物でも持ってきてくれたのかと思ったが、違っていた。入ってきたのは、俺と同年代くらいの女の子だった。


 「あ、どうも、こんにちは……」


 「せ、性犯罪者!!」


 「なんでそうなるっ!!」


 思わず俺は立ち上がった。


 「寄るな!性犯罪者!!」


 「だからなんで最初から性犯罪だと断定する!誠に遺憾だよ!」


 「幼女2人と密室にいる時点で性犯罪者以外のなにものでもないわ!まごうことなき性犯罪者よ!!」


 女の子はその場で大声で叫ぶ。すぐに、家政婦らしき人たちが駆けつけ、少しして桜井さんもやってきた。


 「どうしたの灯華。そんなに大声を出して」


 「姉さん、性犯罪者です!こやつ咲希とそのお友達を……!!」


 「灯華、その方もお友達ですよ」


 「幼女にこんな大きなお友達がいますかっ!!」


 もっともな話だった。


 「灯華お姉さま、ちがうのですわ。ゆーいちさんは性犯罪者ではありません」


 「えっ、咲希、そうなの……?」


 「ええ。もし犯罪者でも、ちがう容疑ですわ」


 「そもそも犯罪者じゃねーよ」


 なかなかに失礼なことを言う園児だった。


 灯華、と呼ばれたその女の子は、顔を赤らめながら、そっぽを向いた。それと一緒に、黒いスカートが揺れる。


 「ふんっ!あんたが性犯罪者面で咲希の部屋にいるのが悪いんだから!」


 「ピンポイントで性犯罪をしそうな面ってどんなだよ」


 かたくなに謝ろうとしない灯華の頭を桜井さんはおさえ、無理やり下げさせた。


 「灯華が失礼なことを言ってしまって、申し訳ありませんでした。せっかく遊びにいらしていただいたのに」


 「いえいえ。まぁ、誤解されなくもないシチュエーションではありましたし……」


 「そうよ!こいつが今にも咲希に抱きつこうとするオーラを……」


 「灯華!」


 桜井さんが叱ると、灯華はしゅんと肩をすぼめた。


 「本当に申し訳ありません。この子ちょっと人間不信の気がありまして……」


 「人間不信じゃないわよ。単に他の人間すべてを敵視しているだけよ」


 「ただの嫌な奴じゃん」


 俺が言うと、灯華は憎々しげに俺を睨んできた。


 「ともかく、ご迷惑をおかけしました。ほら、灯華、行くわよ」


 灯華の腕を引っ張り、桜井さんは部屋を出て行く。家政婦さんたちも、皆退散していった。扉が閉まると、俺たちはまた3人だけになった。


 「そーぞーしかったですわね」


 さきちゃんが言った。それに、汐里も頷く。


 「しお、はやくおままごとがしたい」


 「そうですわね。それじゃ、わたしの人形を……」


 さきちゃんがそう言ったとき、ドアがノックされた。入ってきたのは、さっきの灯華だった。


 「あら、どうしたのですか、灯華お姉さま?」


 「………見張りに来た」


 「……えっ?」


 「この男を見張りに来たのよ。私の名誉を挽回するために!」


 「ええっ!?」


 灯華はその場に足を崩して座りこむ。ゴシック・ファッションの風変わりなスカートから、白い足が見えた。


 「さぁ、やってみなさい犯罪者!私の名誉を挽回するために!」


 「するかっ!!」


 俺は全力で叫ぶ。


 そうして、園児2名と大人2名の、一種異様な人形遊びが、幕を開けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。