表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/106

その37「深月姉とお菓子作りをした」

 午後からのバイトが休みの日。バイトから帰ってくると、深月姉は一人、珍しくテレビをつけずに三角座りをして座っていた。平日のため汐里は幼稚園に行っている。


 「ねぇ、夕一」


 「どうした、深月姉?」


 「私って、女子力あるのかな」


 俺はまじまじと深月姉を見る。


 「どうしたの、夕一?そんな驚いた顔して」


 「深月姉は、自分に女子力なんてものが存在すると思っているのか?」


 「ひどっ!!」


 深月姉はショックを受けたように、目を大きくした。


 「皆無ってことはないでしょ!?ねーちゃんまがりなりにも女子なんだから!」


 「なら、どの部分で自分に女子力があると思うんだよ」


 「………髪が長いところとか」


 俺はため息をつくしかなかった。


 「深月姉は、内田裕也やダイヤモンドユカイに女子力を感じるか?」


 「そ、それとこれとは話が違うでしょ!」


 それとこれとは話が違うようだった。


 「だいたいどうしたんだ?いきなりそんなこと聞いたりして」

 

 「えっと、最近になって、私、女子っぽい生活してないなって気づき始めたの」


 「ついでに言うなら、人間っぽい生活すらしてないけどな」


 「結構辛らつなこと言うね……」


 深月姉はうなだれる。


 「でも、これからは、ちょっとづつ女子としての誇りを取り戻していこうかと思うの」


 「なるほど……」


 深月姉が世間一般の人間に近づこうとするのは、決して悪いことではなかった。夏夜姉とのゲーム作りの話といい、少しづつ自分を変えようとしているようだ。


 「わかった。できる限りのことは協力するよ」


 「それじゃ、お菓子作りに協力して!」


 「………え?」


 言っていることが、正直なところよくわからなかった。


 「どうしてお菓子作りをするんだ?」


 「だって、女子っぽくない?」


 完全にイメージだけでの発案のようだった。


 だが、お菓子作りに楽しみを覚えて、そこから料理をするようになれば、毎日夕飯を作らなくてもすむようになる。さらにそこからおだてれば、掃除や洗濯もしてくれるようになるかもしれない。


 「わかった。俺も深月姉の女子力アップに協力するよ」


 「やったー。ありがとう!」


 深月姉ははしゃいで、俺の手を握った。


 「それじゃ夕一、早速だけど、なにを作る?」


 「そうだなぁ、べっこう飴なんか、砂糖溶かすだけだし簡単だよ?」


 「……夕一は、べっこう飴に女子っぽさを感じる?」


 「まぁ、確かに……」


 べっこう飴は却下のようだった。


 「やっぱり女子といえばケーキだよ!ケーキこそが女子!オール・女子・ニード・イズ・ケーキだよ!」


 「よくわからないけど、ケーキは発酵させなきゃいけないから大変なんだぞ?深月姉イースト菌なんか扱えないでしょ?」


 「イースト菌かぁ……。ビフィズス菌じゃダメ?」


 「ビフィズス菌使っても、腸内環境整うだけだよ」


 「納豆菌も割と仲良いんだけど……」


 「イースト菌じゃないとダメなんだよ。多分料理しない深月姉が最初に作るには不向きだよ」


 「そっかぁ……。それじゃ、ケーキ以外でなにか女子っぽいものはないの?」


 「そうだなぁ……。あとは、クレープとかだったらわりと簡単かも」


 「クレープ!いいね夕一!オール・女子・ニード・イズ・クレープだよ!」


 「ケーキじゃなかったのかよ」


 俺は立ち上がり、キッチンへ向かう。深月姉も、後ろをついてきた。


 「それじゃ、クレープを作ろうか。深月姉、引き出しから薄力粉と砂糖とサラダ油を出してくれる?」


 「……夕一、薄力粉って、なんのパウダー?」


 「………深月姉は冷蔵庫から牛乳と卵とバターを出してくれ」


 「……かたじけないです」


 材料を台の上に並べる。俺はボウルを深月姉に渡した。


 「まず、薄力粉を100g計ってボウルに入れようか」


 「わかった!」


 深月姉は小麦粉をスプーンですくい、思い切り計量カップに投げ入れた。


 「深月姉、計量カップは水の量をはかるやつだよ。うちに計量スプーンがあるから、それを使って」


 「……わかった」


 深月姉は言われたとおりにして、薄力粉100gをボウルに投入した。


 「それじゃ次は、卵を割って入れようか」


 「わかった!」


 深月姉は卵を掴み、ボウルの端にぶつける。だが力が強すぎたせいで、卵はヒビを入れるを通り越して殻ごとボウルに食い込み、下からダラダラと卵白が垂れてしまった。


 深月姉は、心配そうな顔つきで俺を見る。


 「大丈夫だよ。この程度なら、そのまま入れても大丈夫だから」


 深月姉は頷き、卵をボウルの上でパカリと開く。だがそれも力が強すぎたせいで、先ほど砕けた細かな破片がパラパラと薄力粉の中へ入っていった。


 「……………」


 「……大丈夫だよ。このくらいなら食べても気にならないから。……多分」


 次に深月姉は、牛乳250ccをボウルに入れた。牛乳にはなじみがあったのか、深月姉でも正確に投入することができた。


 「よくできたじゃないか深月姉!」


 「牛乳をボウルに入れただけで褒められる私ってどうなんだろう……」


 俺はフライパンに火をかける。そしてバターを投入したとき、深月姉が火を止めた。


 「大丈夫。私が溶かすから。夕一は、テレビでも観ておいて」


 「えっ、でも……」


 「いいから」


 俺は仕方なく、その場を離れてテレビをつけた。しばらくして、部屋に甘いバターの香りが広がった。


 テレビはちょうどワイドショーの時間帯で、キャスターが芸能人のゴシップを報じていた。


 「……夕一!夕一!!」


 深月姉の叫び声。俺は跳ね上がるように立ち、キッチンの深月姉に駆け寄った。


 「……………」


 フライパンには、焦げきったバターの残骸だけが残されていた。高温に弱いバターを強火で熱したことは、聞かずとも明らかだった。


 「……次は、これをさっきのボウルの中に少しづつ入れてフライパンに………」


 「……バターも溶かせない私が、クレープを焼けると思う?」


 それに関しては、なんのフォローもすることができなかった。


 結局、クレープは後ほど俺がすることになり、俺たちは砂糖をフライパンにかけ、べっこう飴で今日のところは手を打つことにしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ