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その31「ゲームを作ることになった」

 社会復帰とは世知辛いものだ。そう悟った深月姉は、ろくに部屋も出ず、ますます世間から遠ざかっていった。


 「うぅ……世間怖いよう」


 深月姉は三角座りをしてうつむき、ひたすらにその言葉を繰り返していた。


 「ゆーいち、おねーちゃんはどうしたの?」


 「世間の荒波に打たれたところだ」


 「うぅ、一記事32円……世間冷たいよぅ……」


 昨日webライターとしての一歩を踏み出した深月姉だったが、その報酬は600文字書いて32円という、小学生の駄賃みたいな金額だった。


 俺はノートPCを開き、昨日深月姉が仕事をしたサイトに飛んだ。


 案件を見ると、一律で報酬が決まっているわけではないようだった。ただ、一文字0.2円から0.3円のものが大半で、一文字1円のものは稀だった。


 「深月姉は文章書くの早いんだし、たくさん書けば、ある程度まとまったお金になるんじゃないか?」


 「もう心折れたよ~~。隅々までバッキバキだよ~~」


 「持ち直してくれ。しるこサンド買ってくるから」


 「しるこサンドにそんな治癒力ないよ~~」


 深月姉は今度はだらんとその場に寝そべった。完全にいつもの深月姉に戻っていた。


 「せっかく深月姉が社会復帰をしようとしたんだ。仕方がない。ここは奥の手を使おう」


 「えっ、夕一奥の手持ってるの?」


 「夏夜姉に助けを求めよう」


 「結局夏夜ちゃん頼りかぁ~~」


 夏夜姉が苦手な深月姉は、苦い顔をするのだった。


 俺は携帯で夏夜姉に電話する。1コール目が終わらないくらいの早さで、夏夜姉は出た。


 「あっ、夏夜姉?」


 『夕一。どうしたの?』


 「いや、それがね……」


 俺は深月姉が社会復帰をしようとしていることや、実際に仕事を請け負ったことなどを話した。聞くにつれ、夏夜姉の声が弾むのを感じていた。


 「それで、深月姉の社会復帰を手伝ってもらいたいんだけど」


 『全力で協力させてもらうわ』


 1時間待って、と夏夜姉は言って、電話を切った。


 そして一時間後、俺は前のようになにかファイルでも送られてくるのではないかとPCの前で待ち構えていた。そのとき、インターホンが鳴った。


 「まさか……」


 玄関を開ける。案の定、ハイネックのセーターを着た夏夜姉だった。


 「久しぶりね、夕一」


 「一緒に旅館に行って以来だね」


 夏夜姉は少しうつむき、頬を赤らめる。深月姉も、玄関の方まで寄ってきた。


 「夏夜ちゃん、まさかうちに来るとは……」


 「この前うちに泊りに来たお返しよ」


 夏夜姉は部屋に入っていく。夏夜姉を見つけた汐里は、トタトタと近づき、その小さな手で夏夜姉の指を握った。瞬間、夏夜姉の顔がほころぶ。


 「今日は泊っていってもいいかしら」


 「うん。なつよちゃん、ばんごはん食べたら、いっしょにおままごとしよ」


 「前に夏夜姉が引越し業者に頼んで届けてきた布団もあるしね」


 深月姉はどこか不満そうだったが、この前のことに加えて、自分を助けるためにきてもらっている手前、なにも言えないようだった。


 「それで、姉さん、社会復帰するって本当?」


 「うん。最初はバイトくらい稼げるようになったらそれでいいから」


 「遂に、ニートを卒業して夕一から離れてくれるのね……!!」


 「卒業するけど夕一からは離れないよっ!!」


 しばらく、無言でけん制し合う二人。相変わらず、仲はあまり良くなかった。


 「とにかく、働き出すのはいいことよ。協力するわ」


 「でも、この前報酬もらったんだけど、32円しか出なくて……」


 「……言っちゃ悪いけど、振込み手数料でももう少し取るわよ」


 「ATMに負けた~~!!」


 ぽこぽこと枕を叩く深月姉。夏夜姉はため息をついた。 


 「まぁ、仕方ないわよ。サイトの記事を書いたって聞いたけど、多分それほど専門性のない内容だったんでしょう。それに、今はライターの文章が安価で買い叩かれている時代だから」


 それを聞いて、しゅんとする深月姉。さらにまたやる気を失ったようだった。


 「でもまぁ、方法がないわけでもないわ」


 「えっ、どうすればいいの!?」


 「自分で作り手になればいいのよ」


 「えっ………どういうこと?」


 夏夜姉は、汐里と手を繋いだまま、ちゃぶ台の前に足を崩して座った。


 「ライターの報酬が安いのは、ライターが下請けの職業だからよ。だから、サイトの記事を書きたいならサイトを立ち上げる、ゲームのシナリオが書きたいのならゲームを作る、そうすれば、自分の実力に見合った正しい報酬が得られるわ」


 「えっ、ゲーム作れるの!?」


 「ええ。今は開発環境も整っているから、簡単なものであればそれほど時間もかけずに作れるわ。シナリオは姉さんが作って、プログラミングは私がする。それ以外はこちらから業者に発注をかけるわ」


 深月姉は目を輝かせる。


 「……夏夜ちゃん、頼りになるんだね!!」


 「私はもう少し頼れる姉さんが欲しかったわ……」


 自分でゲームが作れると聞いて、早速あれこれと考え出す深月姉。元々無類のゲーム好きのため、思うところもあるのだろう。


 「よーし、たくさんダンプカーが出てくるゲームを作るぞー」


 「そのゲームは一体どの層にニーズがあるんだろうか……」


 さいさきから不安だらけだった。


 なにはともあれ、深月姉と夏夜姉の、脱ニートを懸けたゲーム開発がスタートしたのだった。

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