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その104「フライドチキンをつくった 上」

夜。深月姉と汐里は2人並んでテレビ番組を観ていた。芸能人の対抗のクイズ番組だった。


「ピンポン!セネガル共和国!」


解答ボタンを押すフリをして、深月姉は回答者より前に答える。


『セネガル共和国!』『正解!』


テレビの司会者が正解を発表すると、汐里はパチパチと拍手をした。


「おねーちゃん、すごい」


「ふふん」


深月姉は誇らしげに胸を張る。


深月姉は無駄に頭がいいから、クイズ番組は大の得意なのだ。


俺はキッチンで夕飯の支度をしながら、その様子を眺めていた。


手元のフライパンでは、油を弾かせて豚肉とピーマンが炒められている。


「ピンポン!ムーラダーラチャクラ!」


『…………時間切れ!正解はムーラダーラチャクラ!』


「おおっ!!」


汐里は感嘆の声を上げた。


「ほんと、無駄に知識だけは豊富だな………」


これだけの知識がありながら、当人はなんの生産性もないニートというのがなんとも残念な話だった。


テレビは小休止に入り、CMが流れ出した。


「深月姉、夕飯できたから取りにきて」


「あいよー」


茶碗に白ごはんをよそい、深月姉に渡す。


最後に皿に盛った青椒肉絲を俺が持って行き、机に置いたとき、汐里はまだテレビに釘付けだった。


CMにはフライドチキンと共に、微笑む老人の描かれたロゴが映し出されていた。

メガネをかけた白髭白スーツの老人。


「ピンポン!カーネル・サンダース!」


「それはしおも知ってる」


それでも、深月姉は自信げに顎を撫でている。


「汐里ちゃん、じゃあこれは知ってる?カーネル・サンダースって、人形のイメージと違って実はめっちゃ怒りっぽかったんだって」


「そうなの………?」


汐里は興味あり気に聞き返す。


カーネル・サンダースまで網羅しているとは、深月姉の引き出しは底が知れない。


「そんなだから、40になるまでに何十個も仕事を変えてったらしいよ」


「なるほど………」


考えるように汐里はうつむき、やがて顔を上げた。


「おこりっぽくていっぱいはたらいてるなんて、おねーちゃんとはせーはんたいだ……………!!」


「がーーん!!」


唐突なディスに、深月姉はバターが溶けるように床へと沈んでいく。


そんな姿には構いもせず、もうCMが移り変わってしまったテレビを汐里は指差した。


「しお、あれ食べたい」


「あれって、フライドチキンのことか?」


コクリ、と汐里は頷く。


「ティキン!」


ガバッと深月姉が起き上がった。


「もしかして、フライドティキン食べれるの!?」


まるでクリスマスのプレゼントを待つ子どものように、心底目を輝かせている。


たしかに、最近はフライドチキンを食べる機会がなかった気がする。


「んー、別にフライドチキンくらいなら買ってもいいんだけどさ………」


俺は冷めた目で深月姉の方を見た。


「深月姉、とりあえずティキンって呼ぶのはやめてくれ」


「フライドティキン」


「だからやめてくれって」


「ティキン南蛮」


「やめろってば」


「テリヤキティキン」


「深月姉………」


「ティキティキボーン」


「ぶっ飛ばすよ?」


「ごめんなさい」


深月姉は頭を下げた。


「じゃあ、明日のバイト終わりにでも買ってくるよ。一人一つあれば十分だろ」


ふるふる、と汐里は首を振った。


「なんだ?ポテトとか付いたセットメニューのやつがいいのか?」


「違う」


「しお、あれつくりたい」


「えっ、作るのか!?」


俺は驚いて汐里の方を見た。


「別にわざわざ作らなくても、ケンタッキーで買えば美味しいフライドチキンが食べられるんだから、それでいいんじゃないのか?」


「ダメ。それじゃ、カーネルサンダースにまけた気になる」


汐里は固く拳を握りしめる。


「しお、サンダースにまけたくない………!!」


「なんだよその無駄な対抗心」


俺はため息をついた。


とはいえ、フライドチキンなんて、作ったこともなければ作り方もわからなかった。


「そもそも、フライドチキンって俺たちでも作れるのか?」


「作れるよ!」


深月姉が手を挙げた。


「フライドチキンは、ぶつ切りした鶏肉を卵と牛乳を混ぜた液体に浸して、シーズニングって呼ばれる味の付いた小麦粉をまぶして揚げればいいの」


「へぇー」


俺は感心して頷く。


深月姉が料理について語り始めるなんて珍しいことだった。


案外、料理方面の知識も豊富なのかもしれない。


というか、詳しいなら自分が料理作ればいいのに。


「ケンタッキーでは、そのシーズニングに11種類のスパイスが使われていると言われてるの」


「11種類………。想像もつかないな」


「公式がヒントを出してたり、有志の人達が予想してなんとなくはわかっているんだけど、それでも正解は謎のままなの」


「へぇ」


「ちなみに、かつてそのレシピを運ぶためには、軍用の戦車が使われたこともあってね」


「深月姉、その枝葉の話はいらないかな」


「職を転々としてレストラン経営も失敗したカーネル・サンダースも、実はこのレシピを売り歩いたことで一気に億万長者に………」


「誰かこのうんちくマシンを止めてくれ」


ベラベラと話し続ける深月姉をよそに、汐里はガッツポーズを作る。


「がんばって、おくまんちょーじゃになるぞ…………!!」


「志高いな………」


汐里のテンションから見るに、もはやフライドチキンを作らないわけにはいきそうになかった。


11種類。どうしたものか。


俺はため息をつくしかなかった………。



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