表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

朝比奈育は踏み間違える。

「あー! お兄ちゃんだー!」


「ん、あれ。えっと、きみは確かあの時の……」


「お兄ちゃんだ、お兄ちゃんだ! わーい! 久しぶりだー!」


「ああ本当だ。久しぶりだね……まいったな。まさかこんな白昼堂々と出遭うなんて……遭うのはもっと後だと思ってたんだけどな」


「どうしたのお兄ちゃん?」


「なんでもないよ、なんでも……まあ考えてみれば、場所なんてどうでも良いことだし」


「ふーん……?」


「それよりも、なにか用?」


「えっとね、あのね、お兄ちゃんに助けてもらった時にね、お母さんに話したらね、今度あった時にお礼を言っておきなさいって」


「へえ、なるほど(家族は殺していないんだ。本当、この子は謎だなぁ)」


「ありがとう、お兄ちゃん!」


「いいよ、別に。気にしなくても」


「そう? じゃあ当たり前の事をしたのに、どうしてお礼を言われると思ったの? バカなの?」


「だからって貶さなくてもいいから……機転がきくなぁ。ん? そう言えば、きみ、小学何年生?」


「え、どうして小学生って分かったの? お兄ちゃんすげー!」


「いや、ランドセルを背負ってるんだからそりゃあ小学生だと誰だって思うよ。むしろ違ったらそれはそれで驚きだよ」


「え〜っとね、三年生!」


「三年生か。なるほどね、それで今日もその大きな――それこそ、人一人ぐらいなら余裕で入りそうな大きなバックを肩に提げているけれど、また捨てに行くの?」


「ううん! 今から拾いに行くの!!」


「そっか。楽しそうだね」


「うん、楽しいよっ!!」


「うわー、笑顔が眩しいや……ねえ」


「なに? お兄ちゃん?」


「きみはどうして人を殺すの?」


「……?」


「いや、今まで会ってきた人殺しには聞いたり、その現場に立ち会ったりしていたから、分かっていたんだけどね、きみだけは、荷物を取っただけで、殺している所も、捨てている所も、見ていなかったから――ねえ、どうしてきみは、人を殺すの?」


「うーんとね、えっとね……楽しいからっ!」


「楽しい?」


「うん!」


「へえ、なるほど。きみもやっぱり、人殺しなんだね」


「ひとごろし……?」


「きみみたいに、理由があって人を殺す人。更に言えば、その理由が支離滅裂だと尚良」


「しりめつれつ……? お尻バラバラ?」


「いや、違う違う。訳分からないって事だよ」


「訳分からなくないよ! 面白いよ!」


「その面白さが分からないから、支離滅裂って言うんだよ」


「えー……」


「そんな可愛く不貞腐れても、分からないよ」


「やって見たら、面白いかも……?」


「面白くなかったよ」


「……?」


「あんなのが楽しいと思えるなんて、やっぱりきみ達はおかしいよ」


「でもお兄ちゃん。よく人を殺してるでしょ?」


「うん? いや、殺したのは幼なじみ一人……ああ、自殺も含まれているのか。よく分かるね」


「なんとなく……わかる」


「人殺しの同族を見つける能力は、殺人鬼に見せてもらったことあるし、まあ理解できなくは無いけど、自殺も含まれるんだね。さて、えっと、何の話をしていたっけ。そうだそうだ。楽しいから殺すについてだっけ。僕はてっきり、殺人鬼側だと思ってたんだけどね」


「どっちが良いの?」


「どっちも良くないよ。どっちもどっち」


「えー」


「まあ殺人鬼に勝っても負けても、どちらにせよ、比べられた時点で負け組だから」


「私まけぐみ?」


「負け組。僕もきみも……あ、僕この先左だ」


「私まっすぐー!」


「それじゃあここでお別れだね」


「お兄ちゃん」


「ん?」


「……元気出してね」


「僕はいつもこんな感じだよ」


「ほんとうに?」


「本当本当。それじゃあまたね」


「……ばいばいお兄ちゃん」


「また遭えたら、遭おうね」

 言って。

 僕は道を左に曲がる。

 その時肩で、横断歩道を前にして、信号待ちをしている童女の背中を押した。


「え?」

 そんな声が背中からした。

 直後、鳴り響くクラクションと、必死に掻き鳴らされるブレーキ音が重複する。重奏する。

 二重奏だ。まあ、そんな綺麗な音ではないけど。

 耳を破壊しにきているような、つんざめく音。

 しかしその努力も虚しく、柔らかい物にぶつかる音がした。

 激突音。

 衝突音。

 破壊音。

 その後に、シャワーを上向きにして、水を撒き散らすような音がして、視界の端を童女が背負っていた赤いランドセルが転がった。

 背負うタイプのバックが、本人の意思とは関係なく、バージされたという事は、童女はきっと、もう見るのも憚れるような姿に成り果てていることだろう。

 童女。

 または猟奇犯。

 人殺しの原型――人殺しは素で狂っていると、組み立ての時点から既に間違っているという証拠である彼女は、こうして隠蔽された。


「本当に……また遭えるといいね」

 辺りが騒がしくなってきた。

 そんな事を嘯きながら、僕はさっさとこの場から逃げることにした。

どうじょ【童女】

1.幼い女の子。

2.満18歳未満で死亡した女子。その戒名にある位号。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ