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鴻原友屋は手違える。

「久しぶり」


「ん? おお、久しぶり。いつ以来だ?」


「この前、ファミレスで遭った時が最後だね」


「ああ、じゃあ数日ぶりか。うーん、もう数ヶ月ぐらい会ってねぇと思ってたんだけどな」


「そう思えるほど、ここ最近大変だったって事だよ。お前も、僕も」


「へへ、違いねぇな」


「大変だったね。家族全員殺して」


「おう、お前と話してからな。ずっとずーっと気になってしかたなかったんだ。家族を見るたび、あいつらの中にも、あれだけの量のものがあるんじゃないかって……」


「血の匂いで一杯に?」


「そうそう。んで、気づいたらやってた。憶測通り、部屋一面が真っ赤になったよ」


「へえ、それって例えば……今みたいに?」


「ああ、うん。いや、今よりは少し少なかったか? 量もあの時の倍あるしな」


「ふうん……」


「なあ、ちょっと聞いていいか?」


「なにを?」


「俺は今こうして、当たり前のように人殺しに取り込んでいる訳だけど」


「そうだね。おかげで見つけやすかった」


「ん、そうか? 人目のつきづらい場所を選んでいるつもりなんだけどな」


「むしろそうしてくれた方が探しやすいよ。人目がつかない場所なんて、そうそうあるものじゃないから」


「そうか。人殺しを探すっつう名目なら、むしろ俺は見つけやすいのか」


「まあ探そうと思う人自体、稀有なものだと思うけどね」


「まあよっぽど物好きじゃない限り、そんな事画策しないよな」


「む、それだと僕が変人みたいじゃないか」


「……自分のことは自分が一番知らないって言うし。うん、仕方ねえか」


「……?」


「話を戻すぞ」


「ん……ま、いっか」


「こうしてせっせと励んでる訳だか……もし仮に、あいつに出逢っていなければ、俺は普通のままだったのかなって、最近思うようになった」


「それは……」


「普通に勉強して、普通にどこか就職して、普通に結婚して子供つくって、余りにも詰まらない。自分を束縛した生活を送ってたんだろうと思うんだが、お前はどう思う?」


「それは、どうだろうね。ありしもしない未来の事なんて、分からないよ」


「そりゃそうだ。そうだよな」


「けど」


「けど?」


「多分でいいのなら……きっと、普通のままで生活するのは無理だと思う」


「……」


「お前はどう足掻いても、どうもがいても、結局は家族を殺してたと思う。遅かれ早かれ、お前はおかしくなって、狂ったと思う。ただ今回は『殺人鬼』を間近で見てしまったから、早まってしまっただけで、きみは多分、見なかったとしても数年後には殺してたよ」


「……どうしてそう思うんだ?」


「僕の事だから」


「はあ?」


「きみと僕はなんだかんだ言って似てるよ。表裏一体、鏡写しだ。家族は死んだし、どちらも同じ殺人鬼の殺人現場を初めて見ている」


「お前も、あいつを見たのか?」


「ん、あれ? 言ってなかったっけ?」


「言ってねえよ。初めて聞いた」


「そうだっけ。ごめん。僕のクラスメートを全滅させたのは、きみが見た殺人鬼と同じだよ。多分。手口も似てるし、その現場を見られても特に気にしないところとか、似てるところは多々あるし」


「ふうん、お前も見たのか。見て、お前は変わらなかったのか」


「あいつには、元々こちら側の人間だから、変わらないのはおかしくないってさ」


「なるほど、一理ある」


「失礼だな」


「……お前、本当に自分が普通だと思ってるのか?」


「思ってるよ」


「……俺よりお前の方が狂ってるよ、本当」


「失礼だな。ともかく、多分お前は、いつか人を殺してたよ。それが、人殺しなのか殺人犯なのか。それだけの違いだ」


「違わないだろ」


「違うよ。全然違う」


「どこが」


「殺人犯は殺したくて殺したんじゃない。捕まるときは捕まる。人殺しは捕まらない。殺したかどうかも分からない。そんな感じ」


「いや、変わらないだろ」


「そう?」


「どちらも人を殺してる。殺意悪意うんぬんは、二の次。結果は変わらないだろ」


「それはそうだ。そういう考え方もあるか」


「人殺しを分別しようとするなんて、やっぱりお前は変な奴だな……ん?」


「どうした?」


「いや、お前の定義だとさ。人殺しより殺人鬼の方が良いんじゃないかと思って」


「ああ。殺人鬼はまた別だから」


「別?」


「殺したくて殺してる殺人鬼は、頭の構造からして違うよ」


「ふうん」


「僕みたいな社会不適合者でも、お前みたいな人間不適合者とも違う。どこかおかしいじゃなくて、丸っきりおかしい。あいつみたいなのは、生物不適合者って言うんじゃないか? どんな生物だって、殺すために殺す奴なんていないだろ」


「ははっ、なるほど。生物不適合者。いいじゃん」


「あれはもう、人間でも生物でもないなにかだよ――だから、憧れるのは勝手だけど、真似るだけ無駄だと思うよ」


「……バレてた?」


「そりゃあ同じ血溜まり殺人をしてれば分かるさ」


「はは……なんか恥ずかしいな」


「でもあいつが、こんな所でこそこそ人殺しをしないだろ」


「ははは、それはそうだな」


「あははは」


「ははは――それで、何の用だ?」


「うん?」


「わざわざ人殺しを探す方法なんて、危険極まりない方法で俺を探してたんだろ。ということは、何か用があると考えるのは至極真っ当な事だと思うけどな?」


「ん、いや。僕が探してるのはお前個人じゃなくて、人殺しなんだけどね。まあ、変わりないから良いんだけど」


「人殺しに用? それは気になるな。教えてくれよ」


「死んでくれる?」

 予備軍が作り出した血肉の海の海抜が、少し高くなった。

 予備軍。

 殺人鬼予備軍。

 生物不適合者に感化され、それになりかけた僕の幼なじみ。

 手違いさえなければ、途中で崩壊するだろうけど、それでもそれまでは、至極真っ当な人生を歩んだだろう男子。

 そんな彼は自らが作った血肉の海に沈んだ。

 それを少し眺めてから、僕は踵を返す。ここは人通りが少ないとはいえ、それは決してゼロ。という訳ではない。在りし日の幼なじみのように、運悪くここを通りかかって、妖しいこちらの世界に、のめり込んでしまうかもしれない。

 だから僕は早々に、その場を立ち去った。

 人生が狂うのは、僕と幼なじみだけでいい。

 鏡写しで、表裏一体。

 同じようで、しかし少しだけ違う僕ら。

 同じ殺人鬼の、同じような手口を見て、日常に戻った僕と、非日常に憧れた幼なじみ。

 けれど、着地地点は殆ど変わらなかったらしい。

 やっぱり、僕とお前は似てるよ。

 ……。

 そう言えば、結局最後までこいつの名前、分からずじまいだったな。

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