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4 希望者達との対面

 メイさんがクレアさんに連れて行かれて何をしていいのか分からず、とりあえず荷物を整理したり部屋の中を見て回ったりと時間を使ってみた。

 それでもメイさんは戻ってこずで、すごく心配になってくる。私が辞退したいなんて言ったからかな……。

 でも辞退するなら早いほうがいいよね。メイさんに不都合がないようにシン様やお父さんに頼んでみよう。

 そうと決まれば早く言いに行こう。とりあえず部屋を出れば他のメイドさんとか誰かに会うはず。


 扉を開けて顔を出し、廊下の様子をうかがってみる。

 ……うーん。先の見えない廊下が左右にあるだけで人の気配を感じない。

 どうしたらいいものかと顔を出したままで考えていると左側の部屋の扉が開いた。

 道を聞けるかもしれないと出てくる人を待っていると、黒髪に水色の瞳を持った優しそうな女の人が出てきた。


「おはようございます」


 私を見て一瞬目を見開いたけどすぐに微笑んでくれたので、ホッと胸をなでおろす。

 シンプルなデザインで彼女の瞳の色に近いドレスの裾を揺らしながら近づいてきてくれたので、挨拶挨拶と心の中で呟く。


「は、初めまして。カルドーレと申します」


 考えてみれば扉から顔だけ出して挨拶っておかしい。そう思ったらどもってしまった。

 それでも相手は気にすることなく上品そうに笑う。


「初めまして。私はラナと申します。よろしくお願いしますね」


 そう言って手を差し出してくれたので慌てて扉をさらに開けて握手をかわす。

 私より熱い手が――ちょっと待って。私はどちらかと言えば体温が高いほうだけど、握ったラナさんの手は熱すぎる気がする。

 視線を手から目の前の人の顔に移動させた時。


「あ……っ!」


 ラナさんが私のほうに倒れてきたので慌てて受け止める。

 体が熱くて息遣いも荒く、体調が悪いのだとすぐに理解した。

 部屋に入れるにしても私一人では厳しいから、入り口横の壁にもたれるように座らせる。相変わらず廊下には人の気配がないしこんな状態のラナさんを残して人をさがしに行くのも気がひける。


「とりあえず熱を少し下げさせてもらおう……」


 呟いて、ラナさんの前で膝をついて座り、両手のひらを上半身に向けて近づける。そして手のひらに力が集まるように集中した。

 間もなく手のひらに温もりを感じ、現れた淡い光がラナさんを照らす。

 しばらくして向けていた手を下ろせば、頬が少し赤いものの大分呼吸が落ち着いた様子で一安心。


「――カルドーレ様?」


 これからどうしようかと考えていたら聞こえた呼びかけに私は辺りを見回した。

 するとラナさんが出てきた部屋と反対の部屋の近くに、メイさんと初めて見かけるメイドさんが立っていた。


「メイさん、人をさがしていたのでよかったです。ラナさんの具合が悪いみたいで……」


 私が体をずらしてラナさんの様子を見せると二人はすぐに駆け寄ってきてくれる。


「大変です!」


 「ルーナさんどうしましょう!」と慌てるメイさんとは反対に、もう一人のメイドさん――ルーナさんはしゃがんでラナさんの額に手をあてたりして様子を見ている。


「メイさん落ち着いて下さい。ラナ様は少し熱がある以外は大丈夫なようです」


 後ろで緩くまとめられた銀色の髪を揺らして立ち上がり、金色の瞳で見るルーナさんにメイさんは大きく息を吐き出す。

 ルーナさんの慣れたように見える様子や、急いで指示などがないところをみると本当に大丈夫みたいで私もホッと息を吐き出した。

 ――間もなく気がついたラナさんはルーナさんに連れられて部屋へと戻って行き、私とメイさんはその場で見送ったのだった。






「申し訳ありませんでした……」


 王宮内を案内してもらえることになり、廊下を歩いているとメイさんが落ちこんだ様子でそうもらした。

 ラナさんのことがあったから丁度メイさん達がきて助かったけれど、それがなければ人が近くを通るまで待っていただけだから構わないのに。

 それよりもクレアさんに連れていかれたメイさんのことが心配だった。

 この様子だと辞退のことはもう少し後に話したほうがよさそう……。


「ラナさんのことは丁度きていただいて助かりました。でも、私のことよりメイさんは大丈夫でしたか?――その、クレアさんは怒っていたみたいでしたが……」


 私が聞くとサッと顔色を悪くして立ち止まるメイさん。これは聞いたらまずかったかな……。

 前で手を組んだメイさんが眉を下げて笑う様子に違和感を覚えてしまう。


「お恥ずかしながらクレアさんにお叱りを受けてしまいました。お仕えする方に抱きついたり大声をあげるなんて何事かと……」


 頭を下げるメイさんに慌てて声をかける。

 急に抱きつかれたり大声をあげられたのは驚いたけれど嫌だったわけではない。

 むしろ慣れない場所にきて不安な私に明るく笑顔で話しかけてくれてすごく嬉しいから。

 私は未だ頭を下げているメイさんの組まれた手に触れた。


「顔をあげて下さい。私はメイドという仕事がどんな仕事でどんな決まりがあるのか詳しいことは分かりませんが、メイさんが笑顔で明るく声をかけて下さることがすごく嬉しいです」


 「だから元気な笑顔を見せて下さい」と笑えば、顔をあげたメイさんが目を潤ませていることに気づく。

 朝のシン様にならって持っていたハンカチを差し出せば「一生お供しますー……!」と抱きつかれてしまったけれど。

 今度は私もギュッと抱き返して少しの間笑い合った。


 ――それから案内は続き、近くを通りかかったメイドさんがお昼が近いことを知らせてくれたので私達は一度部屋へと戻り昼食をとって。

 その後も時々休憩を入れつつゆっくり王宮内を回ったのだった。






 太陽が月と交代するべく沈み出した頃、夕食をいただくために食堂を目指していた。

 廊下の両端に続く置物と天井に等間隔にはめこまれた蓄力石が光を放ち、辺りを明るくしている。

 メイさんの話によると王宮内の照明と火力の半分以上はお父さんが担当しているというから驚いた。


「こちらが食堂です」


 これまた綺麗な装飾が施された扉をメイさんが笑顔で開けてくれる。取っ手にまで細かい模様があって驚く発見ばかりだなぁと思いながら食堂へと入った。

 部屋の中は主に白で統一されていて清潔感にあふれていて。 

 真ん中に大きな長方形のテーブルがあり、メイさんに促されて椅子に座る。椅子は木製のようで全体的に温かみのある色合い、テーブルクロスはシミ一つなく真っ白。

 部屋の様子に圧倒されていると、先に座っていた二人がこちらを見ていることに気づいた。


「あなたが四人目の希望者なんだ。リィはカリーナだよ! よろしくね?」


 ふわふわした金色の髪を高い位置でツインテールに結び、丸い緑の瞳を持った女の子が声をかけてきた。


「あたしはティア。負けるつもりはないけどよろしく」


 次いで燃えるような赤い髪に茶色の瞳を持ったもう一人が凜とした声でそう言ってくる。

 「カルドーレ様とラナ様以外の試験を受けられる方々です」とメイさんに言われて私は慌てて頭を下げた。


「カルドーレです。よろしくお願いします!」


 同じ希望者と言っても私は身をひくから深く考えなくてもいいよね。

 それよりもラナさんも希望者だったんだ。目の前の二人もそうだしラナさんも容姿端麗だから見られるだけでなんだか照れてしまう。


「それにしても、もう一人は大丈夫なのかなー」


 カリーナさんは自分の隣の空いた席を見てそう呟くように言った。それは具合を悪くしたラナさんのことだろうと気づく。


「聞いた話だと熱が少しあるだけだってさ。面談の後すぐに出すなんて体弱いんじゃない?」


 ズバズバと会話を繰り広げる二人には曖昧に笑って返すしかできない。

 メイさんも後ろで困ったように笑ってるよ。

 ――その後、料理が運ばれてきて夕食が始まっても二人の会話は盛りあがる一方で。

 慣れないメニューにあたふたしたけれど、夕食はとてもおいしいものだった。






「お部屋に入ってもよろしいですか?」


 夕食を終えて部屋に戻って少し経った頃、ノックされた扉を開くとラナさんが立っていた。

 メイさんは毎日行われるという報告のために席を外していたため、てっきり彼女かと思ったために少し面食らう。

 首を傾げて立っているのを見て急いで部屋へと招いた。


「今日はご迷惑をおかけしてごめんなさい」


 二人でソファーに座ると、ラナさんは眉を下げた表情でそう切り出した。

 部屋に設置された蓄力石の光に照らされる頬は赤みがひいているようで、どうやら熱はおさまったみたい。


「いえ。具合は大丈夫ですか?」


「おかげさまでよくなりました」


 私の方を向いてにこりと笑う姿がとても可愛いくて、年が近そうな感じに姉か妹がいたらこんな風に話せるのかなと少し憧れる。

 笑顔に和んでいるとラナさんは真剣な表情になって私を見た。真剣な表情も絵になるなぁと思うと同時に、何か失礼なことをしたかと心臓がドキドキしてくる。


「一つお聞きしたいのですけれど、私が熱を出した時に回復能力を使われました?」


 回復能力という言葉に鼓動が速くなっていく。

 確かに力を使ったのは私だけどよけいなお世話だったのかな……。

 頬を流れる感覚にまたやってしまったと思う。本当にこの体質をどうにかしたいよ……。


「泣かないで下さい。私は感謝しているんです。――私は幼い時から体が弱く、疲れたり環境の変化などでよく熱を出したりしてしまうんです」


 ラナさんはそう話しながら私の左手をそっと握った。温かくて柔らかな手の感触によけいに涙が出てしまう。

 すると今度は水色のレースがついたハンカチをそっと目元にあててくれた。


「今日も熱くて息苦しさを感じていたら急に楽になりました。ほんのり温かく体に染みるような感覚に、どなたかが回復の力を使って下さったのだと分かりました」


 「だからありがとうございます」と言って微笑むラナさんに私は首を横に振る。


「できるなら熱をしっかり下げてあげたかったんです。でも私の回復能力は低くて、重い怪我や病気、生まれつき起きやすい症状などは軽くすることしかできません。だからお礼を言われるようなことではありません……」


「いいえ。回復の程度ではありません。私のことを思ってして下さったことが嬉しいのです」


 「ですから、私の気持ちをどうか受けとって下さい」と微笑む姿が包みこんでくれるみたいで。

 涙を拭いてもらいながら頷いた。


 ――それからはメイさんが戻ってくるまでの少しの間だけ、話に花を咲かせるのだった。


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