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(第2部)12 お茶会で相談

 朝から色とりどりの宝石を見せられて目が回りそうになった。

 ――ことの始まりは少し前。

 朝食を部屋でいただいた後、シン様が笑顔で訪れてきた。

 手を引かれるままについていくとそこは衣装部屋で、テーブルにはたくさんの宝石が置かれていた。

 ルビー、エメラルド、ダイヤモンド、パール等々……。

 前にソレドにお客さんとしてきた宝石商の人が見せてくれたものの他、私が知らない宝石がたくさんあって思わずじぃっと見てしまう。

 いくらになるんだろうと考えてしまうのはお母さん譲りかもしれない……。

 驚きのあまりテーブルの前に立ちつくす私を見てもシン様は笑顔を崩さず、テーブルの端にある宝石を触った。

 宝石に光が反射して輝きとても綺麗だ。


「カルはどんな宝石が好きなのかな?」


 試験が形だけと知った日からシン様は私をニックネームで呼ぶことが多くなり、何日か経った今もまだ慣れない。

 穏やかな声に呼ばれる度になんだかくすぐったくて。

 問われて宝石を見るけれど、綺麗だとは思ってもほしいとは思わない。お店に並んでいたり、人が身につけているものを見るだけで満足してしまうから。


「あの、好きな宝石というのは特にありませんけど……」


 言葉の意図を理解しかねているとシン様は別の宝石を手にとって私に見せる。

 桃色が綺麗で可愛い印象のものだ。


「ローズクォーツなんてどうかな。カルの瞳の色に似ているよ」


 手のひらにコロンと渡されて固さと冷たさを感じる。

 顔に近づけてまじまじと見ると確かに自分の目の色と似ているかもしれない。

 けれど私の目は宝石みたいに綺麗なわけではないので、テーブルへと静かに置いた。


「私と比べては宝石に失礼ですよ。それに、シン様の瞳こそルビーとよく似ていると思います」


 私の近くにあったルビーを見てシン様の目を見る。赤くてキラキラしていて同じだなぁと思っているとシン様は眉を下げて困ったように笑った。


「そう言ってもらえて嬉しいけれど、今は君の指輪に使う石を選んでほしいかな」


「え……?」


 「やっぱり指輪がないとね」と嬉しそうに笑うシン様に私は慌てて手首につけているブレスレットを見せる。

 帰るつもりでシン様の枕元に置いたのだけれど、まだしばらくお世話になることが決まったため、持っていてとシン様に渡されていた。

 腕を動かせば銀と赤が混じった月の飾りが揺れて、自分で作り直したものながら割と気に入っている。


「指輪なんてとんでもありません! 私にはこのブレスレットで十分です」


 腕を動かしてブレスレットをアピール。

 指輪なんて高価なもの私には必要ないと思うし、何故か候補から婚約者になっているけれど私は仮だと思っている。


「そんなこと言わないで? 形だけでも僕がプレゼントしたいんだ。ね?」


 悲しそうな表情のシン様がすっと横にきて私の左手に触れる。

 ――シン様の悲しそうな顔には弱い。涙を見てからどうにも悲しそうな顔をされると戸惑ってしまう。

 何て言おうか考えていると、触れられていた左手を持ち上げられて指に柔らかい感触がして驚いた。


「小さくて可愛い手だね。僕の手にすっぽり入りそうだよ」


「シっ、シン様……っ」


 指に顔を近づけたままの様子に顔が熱くなり、私は慌てて手を引っこめた。

 小さな声で少し離れて控えていたメイドさんに話し始めた。

 メイドさんは目をキラキラさせ、興奮した様子でシン様と話していて間に入りにくくて。

 少しの間、盛り上がっている二人を眺めていた。






「指輪? もらったほうがいいと思うよ」


 午後からカリーナさん――ルーチェ様の婚約者なので、カリーナさんも続けて王宮に住んでいる――にテラスでのお茶会に誘われ、指輪のことを聞いてみると即答されてしまう。

 フォークで切り分けたケーキを一口食べ終え、カリーナさんは自分の左手薬指にはめられている指輪を私に見せた。


「リィだってルーチェ様からもらってるよ? 目の色に似ているからエメラルドなんだ!」


 大きすぎないエメラルドがはめこまれ、リング部分には細かい模様が施されていて素敵なデザイン。

 カリーナさんが言うように近い色の瞳とよく似合っていると思う。


「素敵な指輪ですね」


「ありがとう! ――でね、話しは戻るけど、なんで指輪を受け取りたくないの?」


 聞いてくるカリーナさんに、紅茶を一口飲んで喉を潤してから口を開いた。


「なんで、と言われても……。私はカリーナさんとは違って正式な婚約者ではないからです」


 私の気持ちが分かるまで待ってくれるとシン様は言ってくれて、今もお世話になっているけれど。

 曖昧な状態で指輪という大事なものを受け取れないから……。


「うーん。カルちゃんって真面目だね。リィだったらそこまで深く考えないでもらっちゃうけど」


「そんなことないです……」


 再度ケーキを一口食べて考えこむカリーナさんの様子を見守りながら、紅茶をもう一口。

 広がる香りとしみる温かさにホッとして体の力が抜けていく。


「リィじゃ上手く言えないけど、シン様が形だけでもって言うならもらったほうがいいと思うよ。リィがルーチェ様からプレゼントされて受け取るとすごく嬉しそうな顔してくれるの!」


 「きっとシン様もカルちゃんが受け取ってくれたら嬉しいと思う!」と明るく笑うカリーナさんにぎこちなく頷いて返す。


「でも、指輪なんて高価なものを受け取っていいのでしょうか……?」


「シン様がカルちゃんにあげたいって気持ちだからいいと思うよ。――ところでいつまで敬語なの? リィ達同い年なのに!」


 指輪の話は終わったとばかりにカリーナさんが頬を膨らませて怒る。

 試験期間の間はほとんど話すことがなかったけれど、その後話すようになってカリーナさんが同じ年ということを知った。

 カルちゃん、とニックネームで呼んでくれるので友達みたいですごく嬉しいけど敬語がなかなか抜けなくて。


「ごめんね。つい癖で……」


「なんかリィだけ気軽に話しかけてるみたいで寂しいんだからね!」


 「名前もリィって呼んで?」と首を傾げて可愛くお願いしてくるカリーナさんに、「頑張るね」と返してお許しをもらいその後相談へのお礼も言った。

 それから夕方近くまで色々な話をして、楽しい時間を過ごすことができた。






「それじゃあ午後からはカリーナとお茶会をしたんだね」


「はい。楽しい時間が過ごせました」


 夜も仕事をこなしていたシン様のもとを訪ね、今日のできごとを話す。

 多忙なシン様とは一緒にいる時間が少ないので、夜にシン様のもとを訪ねて一日あったことを話すのが日課になっていた。

 楽しいことやついてないこと、私が色々なことを話すとシン様は時々相づちをうちながら最後まで聞いてくれる。

 最初は仕事の邪魔になると思いほとんど話せなかったけれど、「カルのことを知りたいな」とシン様の特徴である優しい笑顔で言われてしまい何日かの間で自然と話す内容が増えている。


「紅茶とケーキはシン様のおすすめだと聞きました。すごく美味しかったです」


 味を思い出して頬がゆるみながら話せば「それはよかった」と返してくれた。


「両方とも僕が小さい時から好きなお店のものなんだ。気に入ってもらえて嬉しいよ」


 「今度また違う種類をごちそうするよ」と言われて嬉しくなって思わず「はい!」と大きな声で返してしまった。

 クスクスと笑われて顔がカァッと熱くなる。


「すみません。大きな声を出してしまって……」


「ううん。いいんだ。女性で甘いものが好きな人は多いだろうからね。喜んでもらえて何よりだよ」


 それからもポツリポツリと話を続けそろそろ終わりかなと思っていると、執務机から離れたシン様が私の座っているソファーのもとにやってきて隣に腰かけた。


「指輪のことなんだけど……。指にはめなくてもいいから持っていてほしいんだ」


 横にいる私の左手に触れたシン様が小さな箱を渡してきた。

 角が丸みを帯びた箱の中はシン様の言葉から察することができる。

 開けるように促されてそっと開けると、細身のリングの中心に桃色の宝石が一つ。そしてそれをはさむように赤色の宝石が両側に一つずつはめこまれた指輪が収まっていた。


「真ん中にあるのはカルの瞳の色に近いローズクォーツと、僕の瞳に似ていると言ってくれたルビーだよ。いつでも君のもとへ行けるようにと願いをこめてルビーでローズクォーツをはさむようにしたんだ。今朝話をした――クリスタって言うんだけど、彼女の家が加工業をやっていてね。既製品のリングで良さそうなものを選んで宝石をはめこんでもらったんだよ」


 「急ぎのもので申し訳ないけれど、僕からの気持ちとして受け取ってもらえないかな?」と優しく言われて戸惑ってしまう。

 それと同時にカリーナさん――リィちゃんの言葉が思い浮かんで心が揺れた。

 申し訳なさと同じかそれ以上に嬉しい気持ちが胸に広がり、目尻に涙が浮かんでくる。

 温かく感じる視線へ緊張は残っていても嫌なものではなくて。

 私は両手で箱を包むように持った。


「――ありがとうございます。大切にしますね」


 嬉しくても涙は出るんだなと思いながら、精一杯感謝が伝わるように笑って。

 「こちらこそありがとう」と涙をハンカチで拭ってくれるシン様の口元は上がっていて、気持ちが伝わっていればいいなと思った。


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