体育祭、本番です。
いよいよ体育祭当日がきた。
空は快晴で暑いくらい。
準備が思ったよりも大変だった。けど、こうして行事の運営にどっぷり関わると思いのほか楽しい。
めずらしくセミロングの髪をポニーテールにしてきた。
はちまきをぎゅっと縛ると、やる気も急上昇だ。
「ポニーテール萌え。」優香が褒めてくれたらしい。できればもっと分かりやすい方が嬉しい。
「ありがと。」いちおうお礼を言う。苦笑い付き。
ふいに頭をぽんっとたたかれ振り返ると、大地だった。
柾大地を名前で呼ぶことが、すっかり普通になった。
「それいいな。おれこの髪好き。」と右手でポニーテールをさらりと揺らす。
ポニーテールが好きなのかな。ちなみに、今日の柊さんはツインテールでとっっってもかわいいよ。
開会式がすんで、いよいよ競技に入る。
運営委員の仕事は裏方で、準備係や審判など各係りの不都合やトラブルを解決して回る。
そして、仕事の合間に競技に出る。
って、おかしいでしょ。競技優先だよね。
でも、本当忙しいのよ。
何回か見回り当番もあるし。
午前中の目玉、クラス対抗リレーは盛り上がった。走る順番はクラスごとに自由に決めるので、当然女子と男子が一緒に走ったりする。
あたしたち4組は思ったよりも速かった。早くも、お隣のクラス3組と熾烈な1位争いに突入。
そうすると勝ちたいあまりに卑怯なヤツも出てくる。
あたしは3組のなんとかくん(興味がないので名前は知らない)とバトンゾーンに並んで立った。
前の走者がほぼ同時にくる。あたしとなんとかくん(少年Aと呼ぶことにする)は同時にスタートする。
そうしたらなんと、少年Aのヤツはどさくさにまぎれてインコースを走るあたしをヒジで妨害してきたよ。運悪くまともに顔にヒット。怯んだ隙に完全に抜かれた。
痛いけど、気にしていられない。
全力で走ったけど、抜き返せずバトンタッチ。
くやしい。
「海。大変!血が出てる。」優香がいそいで助けに来てくれた。
口の中を切ったらしい。鉄の味がする。
「行こう。」リレーは続いていたけれど、優香に付き添われて退場する。
おのれ少年Aとこみあげてきた怒りも、大地の姿が目に入った瞬間に鎮火した。
だって、大地が恐ろしいんだもの。
下げた両腕の先は拳が固くにぎられ、色が変わる程だし。
なによりも、怒りをたたえた双眸が凶暴そうに光っている。
全身に凶悪なオーラをまとって少年Aを見つめる姿は、まさに鬼神。
気づいた回りが止めなければ、おそらく少年Aの命はなかった。
…おそろしい。
やられた本人よりもかなり怒っている。
それを目にして、あたしはスッと落ち着いてしまったのだった。
なんだか仇は大地がとってくれるような気がして、救護のテントに向かった。
「勝ったよ。」
リレー終了後、大地が救護用テントにきた。
「ありがとう。」と小さな笑顔のあたしに、
「おう。」自然体で堂々としてるところが大地らしい。
仇とってくれたんでしょう。あたしのことなのに本気で怒ってくれるなんてうれしいよ。
「3組には負けない。」つぶやく姿にさっきの怒りのオーラが垣間見えた。
「うん。」とあたしは肯く。