さあハチマキを作ろう
思いのほか、柾大地の出番が多いです。あれれ?
「水沢。客。」
クラスメイトの呼ぶ声にドアをみれば、桐原くんが立っている。
あたしは桐原くんの所まで行くと、
「昨日はありがとう。」お礼を言いながら荷物を受け取る。
「先輩、またどこか行きましょう。」と笑顔で言う桐原くんに相づちを打ったものの、もう買い出しの仕事はないよね。と体育祭準備の段取りを思い返してみる。
またどこかへ行く機会はないように思う。
「けっこう重いね。大変だったでしょう。」
「これくらいなんでもないです。」にこっと笑った顔がかわいい。
荷物を抱えて席にもどると 優香がやけにきらきらした目で待っていた。
「彼、2年生女子にも人気の桐原くんでしょ。海。、知り合いだったんだ。」
あいかわらずその辺の情報には詳しい優香が言う。
「体育運営委員で一緒になっただけ。」
「でも、どこかに出掛けたんでしょう。」
「はちまきの生地を買いに行っただけよ。」
「もしかして二人で?」
優香、なんでそんなに突っ込んで聞くの。
「まあね。たまたまよ。」と言ったら
「なんで二人で出かけるんだ。」急に柾くんが会話に入ってきた。
「どうしたの。急に。」あたしの質問には答えないで、柾くんが繰り返す。
「なんで二人なんだ。1年女子はいなかったのか。」
「急用とかでこなかったけど、大丈夫よ。難しい買い物じゃなかったし、楽しかったし。」
あたしは無事、委員の仕事をやれたことをアピールした。だって人数少なくて困った、なんてことを言ったら、部活を優先した柾くんが気にするかもしれないでしょう。
「…楽しかったのか。」
えっ?あたしは聞き返した、声が小さくて聞き取れなかった。
「次に何かあった時は、おれも参加する。」
「だから大丈夫だったって。」
「二人きりなんてだめだ。」ほら、また声が小さくなる。よくきこえない。
「次は一緒に行くよ。」やけにきっぱりいいきる柾くんだった。
はちまき用の生地を、優香と二人で人数分に裁断する。
優香は家庭科全般が得意なので、あたしの倍の速さで、しかも数倍美しく生地を裁断していく。
「海は誰かに作ってあげるの?」手は止めずに優香が言う。
もちろん、はちまきのことだ。
この学校の体育祭のはちまきはちょっとしたラブイベントだ。
なんでも、はちまきを作る時にハート形の紙とほんのちょっと自分の髪を入れて縫う。
それを意中の人が使ってくれれば、あ~ら不思議。二人は両想いになれるらしい。
かく言うあたしも、去年は日向くんにはちまきをあげたのだ。それで(かどうかはわからない)カレカノになることができた。
今回、日向くんにいきなりあげても引かれるだけな気がする。
はちまきより先に、出会いイベントが必要です。このところ、いろいろ考えては却下しの繰り返しだ。
いいタイミングも見つからない。
さらに悪いことに、日向くんは柊まりあに興味を持ち始めている気がする。
学級委員という接点があるし、柊さんははっと目を引く可愛らしさだ。
実は、廊下で見てしまった。
すれ違った柊さんを振り返って、目で追っている日向くんを。
それからは、胸に何かがつかえているようで落ち着かない。
今から出会っても、遅いのかも。そんな思いが拭えない。
優香に相談してみようかとも考えたけど、高校2年生が2回目なんて言えっこない。
ひとつ息をついて、ようやく優香に答える。
「作ってあげる人いないし。あたしの分は優香に縫って欲しいな。」
「それはかまわないけど、柾くんにあげないの。」
優香の質問の意味がわからない。
「柾くんには柊さんじゃないの。」あたしが言うと、
「たしかに二人は仲良いみたいだけど、でもやっぱり柾くんは海じゃないのかな。」
ますます意味がわかりませんよ、優香さん。