あたしの憂鬱
ところで、あたしを憂鬱にさせていることがある。
いろいろあるけど、一番はコレかな。
今、廊下ですれ違った男の子をあたしは振り返った。
2年3組の日向建太郎くん。
彼とはつい1ヶ月前まで、カレカノの間柄だった。
春休みにも素敵デートをして「3年は同じクラスになるといいね。」なんて話していた。
クラスは違ったけど、日向くんも去年(やっぱり前回といった方がいいかな)は学級委員で、話したり協力し合ったりしているうちに仲よくなった。んで、お互いに好きに…
はぁ~~~~~。あたしはため息をついてとぼとぼ歩き出した。
今年は学級委員にならなかったから、日向くんとの接点がぜんぜんない。
今だ知り合ってもいない。
あたしはここですよ。はぁ~~~~。また、盛大なため息をついていたら、
「何、ため息ついてるんだよ。」
ぽんっと頭をたたかれる。
体育運営委員の相方、柾くんに最近とってもなつかれてる気がする。
部活の忙しい柾くんの委員会出席を免除して、代わりにホームルームの仕切りをしてもらっている。
男女問わず人気がある柾くんが司会進行すると、いろんなことがさくさく決まって行くのでとっても楽。
委員会の報告やらホームルームの打ち合わせやらで話す機会が増えたし、体育祭の準備で二人でいることが多いからね。
「いろいろ悩みがあるのよ。」物憂げにいうと、
柾くんは笑いながら「らしくないな。」と言う。
憂鬱なあたしはらしくないのか…そうかな。
「相談ならのるよ。話してみな。」
なんて、あっかるく言われてしまうと、「そのうちね。」と脱力して答えるあたしがいる。
「ところで明日の買い出しはどうする。」あたしは話題を変える。
明日の放課後、体育祭のはちまき用生地の買い出しがあるので一応聞いておく。
「悪い。たのんでいいか。」すまなそうに言う姿がなんとなくかわいくて、あたしは笑った。
「わかった。大丈夫。」
体育祭のチーム分けは、1組連合、2組連合、3組連合…となっていて、1年生から3年生の混成チームになる。
明日の買い出しも1年生と2年生の委員4人で行くところなんだけど、仕方が無いので3人で行ってくるね。
渡り廊下の手前まで来て、あたしは立ち止まった。
「図書室に行くから。」渡り廊下へ曲がる方を指差すと、
「ああ、またな。」
柾くんと別れて図書室へ。
今日の図書室は空いていて、ほとんど人がいない。
あたしは一番窓ぎわで立ち止まる。
誰もいない机をぼんやり見つめる。ここは特別な場所なの。
「そこに何かあるの。」
急に声を掛けられて文字通り飛び上がって驚いた。
振り向くと、一人の男の子が立っていた。
背が高い。見上げるようにして見つめた瞳はチョコレート色。楽しげにあたしを見ている。
なにも答えられず、その整った甘い顔立ちに目を奪われる。
「時々そこにそうしてるよね。」極上の笑顔。
そんな事に気づく人がいるなんて。
なんて暇な…いいえ、注意深い人。
「なんだか気になってね。」
あたしはどう答えたものか迷ってから、
「気のせいです。おかまいなく。」むりやりその人から視線をそらすと早足で傍をすりぬける。
「待って。名前を聞いてもいいかな。」
呼び止められてしまう。
あたしは一瞬立ち止まってしまった。
けれど、聞こえなかったことにして図書室を後にした。