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杉宮くん

屋上は涼しい。5月の日中は晴れると暑いけど夜は過ごしやすい。

手慣れた様子で 望遠鏡をセットしていく2人を待つ。手持ち無沙汰。

携帯を確認しようとして、持っていない事に気付いた。

えーと、どこだっけ。

さっき優香と話してそれから。。。もしかして部室かな。

部長と佐藤さんにことわって部室にもどることにする。

「一緒に行こうか。」佐藤さんの気づかいが嬉しかったけど

「大丈夫。ありがとう。」あたしは一人で階段を降りて行った。

階段と廊下には明かりがついていてよかった。

けれど、階段を降り切る前に足を止める。

話し声がしたから。

最後の段に立って、壁に張り付くようにそっと廊下を伺う。

こういうのやったばかりだ。体育祭で。

男の子と女の子が2人で話している。

女の子は後ろ姿だけれど、やや左斜めを向いていたため柊さんであることは一目瞭然。

柊さんに向かい合って、真剣な表情なのは杉宮くん。

階段の明かりの方が廊下よりも暗いので、あたしは気づかれていない。

「まりあ、君が好きだ。」

ズバリ直球。

柊さんの返事は聞こえない。

「桜井会長とまりあが付き合っていることは、百も承知してるよ。それでも言わずにはいられない。」

振り絞るように杉宮くんが言い、そして、柊さんの声ははっきり聞こえない。

柊さんは杉宮くんに頭を下げると踵を返し、なんとこちらに走りだした。

あたしはすばやく頭を引っ込めると、できるだけ平べったくなって壁に張り付いた。

幸い柊さんはあたしに気づかず走り去っていく。

ほっとする間もなく、足音がこっちにやってくる。

杉宮くんだ。

あたしは硬直したまま動けず、足音が通り過ぎるよう願ったけれど、足音はあたしの前でピタリと止まった。


階段に立つあたしより杉宮くんの目線はいくらか高い。

言葉が出ないあたしに

「あまりいい趣味じゃないよね。」

杉宮くんの眼つきが怖い。

「たまたま通りかかって。。。ごめんなさい。」ここは謝るしかないでしょう。

杉宮くんは、ふと肩の力を抜くと

「かっこ悪いな、おれ。」自嘲ぎみに笑う。

あたしは困り果てながらも言葉をさがす。

「かっこ悪くないよ。一生懸命なところも、勇気があるところもすごいと思う。」

好きな人に頑張ってる人を励ましたかった。

好きな人がいても、行くことも戻ることもできない自分を知っているから。

「ごめんね。杉宮くん。」必死な彼に水を差したみたいになってしまって申し訳なかった。

「いいんだ。君は悪くない。」静かな声。


そこへ階段を降りてくる足音が響く、見上げると踊場から佐藤さんが現れた。

あたしたちに気づいた佐藤さんが足をとめて、

「遅いから心配になってみにきたんだけど。。。」戸惑が声ににじんでいる。

「ありがとう。大丈夫。」答えるあたしに何を思ったのか、

「なんかかえって邪魔しちゃったかな。先に戻ってるね。」

佐藤さんが急いで階段を駆け上っていく。

案外、慌て者なのかもしれない。なんだか身近に感じる。

佐藤さんのおかげで急に空気が軽くなった。


「名前。教えて。」

杉宮くんの問いに

「水沢。水沢 海っていうの。」

杉宮くんは小さく反芻してから、

「なんだか水分いっぱいな名前だね。」

「よく言われる。」あたしは笑う。

杉宮くんはちょっぴり笑顔になって

「ここで君に会えてよかった。」

じゃあ、またね。とつぶやくと廊下を引き返して行く。

杉宮くんが見えなくなると、あたしは我に返って部室に向かった。


そして廊下を急ぎながら、首をひねる。

さっき、踵を返した時の柊さんの表情に違和感があった。

あの一瞬。確かに彼女は微笑んだのだ。

柊さんの達成感が伝わってくるような、それはそれは嬉しそうな笑みだった。






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