始まりは繰り返しから
新学期。2年生のクラス発表を見上げながら違和感を感じて、あたしは眉をひそめた。
「おはよう。海。」
肩をたたかれ振り向くと、西原優香が笑顔で立っていた。
「また同じクラスだね。よかった。」
「優香…」あたしは少し混乱しながら、友達の名前をつぶやく。
「どうしたの?」
不思議そうな顔の優香に「なんでもない。」と首を振る。
「あたしたち、4組だよ。行こう。」
優香にうながされて、あたしはその場を離れて歩き出す。
なんだか、変だ。
教室では新しいクラスメイト達が、どこか落ち着かなげにざわめいている。
1年生の時も同じクラスだった友達何人かに声をかけられ、上の空で答える。
席は出席番号順だ。
あたしは自分の席に座って、教室を見回す。
新しいクラス?2年生の新学期?
おかしい。
もうすぐ始業の鐘がなる。そして、担任の先生が入ってくる。
「担任、だれかな。」近くの会話が耳に入ってくる。
あたしはその質問に答えられてしまう。口には出さなかったけれど。
鐘が鳴り、教室のドアが開く。
思った通り、柏木裕也先生が入ってくる。
思った通り…違う、憶えている通りだ。
始業式は去年の今日と同じく滞りなく終わり、また教室に戻ると係り決めが始まる。
あたしは去年、不本意ながら学級委員に指名された。
去年と同じになるような気がして、成り行きを見守る。
柏木先生の「誰か学級委員をやってくれる人はいないか。」との問いに誰も答えなかったはずだけど…
けれど、すっと一人の生徒の手があがった。
「柊まりあ。やってくれるか。」嬉しそうな柏木先生の声。
柊まりあは、その可愛らしい顔をほころばせて「はい。」と答えた。
さっきまで、去年と全く同じに進行していたはずが、ここで初めて違う展開になった。
さて、何をどう考えたらいいのか。あたしは首をひねる。
考えこんでいる間にあたしは体育運営委員になり、諸連絡が終われば今日はもう下校となる。
家に帰ってからもぼんやりと考え込んでいたけど、ごくごく普通の態度の家族に何もいえず。
とりあえず、成り行きに任せるしかないってことは、なんとなくわかった。
何がどうなっているのか分からないので、自然と去年と今年の違いを見つけようとしてしまう。
明るく元気な優香は、昨年から引き続き部活動に励んでいる。
今年、3年生が引退した後は料理部部長になるはずだ。
「海も料理部においでよ。」1年生の時から何度か誘われているけど、1年生と去年が学級委員でその仕事が思いの外忙しく、どの部にも入りそびれたままだ。
「考えてみる。」と言うと、優香は笑顔で手を振って部活へ行った。
「さて。」筆記具を手に立ち上がる、ついでにさりげなく教室を出ようとしている柾大地に声をかける。
「柾くん、これから運営委員会だよ。」
柾大地はギクッと動きを止めて、振り返った。
「忘れてないよね。」
できれば(故意に)忘れてしまいたいと思っているのが、手に取るように分かったのだけど、あたしはにっこり笑って「行こう。」と歩き出した。
体育運営委員会は、5月にある体育祭の連絡だった。
準備段階からやること満載で、隣の席で柾くんが億劫そうに頬杖をついている。
やる気ゼロだね。まぁいいけど。
柾くんと言えば、去年(前回というべきか。。。)の2年生では柊まりあと付き合ってたんだよね。
柊さんしか目に入ってないらしく、他の女子とはほとんど会話もなかったんじゃないかな。
いつも二人だけの世界にトリップしていたので、そのいちゃいちゃっぷりにだれも近ずかなかった。
2年生がスタートして1か月になるけれど、今回はどうしたのか、柊さんと話はするもののそれ以上親しくなる気配がなぃ
相手の柊さんも、今噂になってるお相手は3年生のイケメン生徒会長だし。
なかなか終わりそうにない委員会に、柾くんがそわそわし始めている。
持っているバックから察するに、部活に行きたいのだと思われる。
確か水泳部だったかな。全国大会とか出場していた気がする。
そわそわがイライラになってる柾くんをみかねて、あたしは小声で言った。
「部活、行ってもいいよ。」
えっ、と柾くんがこっちを見る。
「後は聞いとくから、部活がんばって。」
柾くんが驚いた顔をしているから、肯定の意味であたしは微笑んだ。
「いいのか。わるい。」柾くんは簡潔にそう言うと、あっと言う間にいなくなった。
連絡聞くだけだし、とくに問題はないよね
あたしは委員長の話しに耳を傾けた。