八話 決意と病院行き
今回は、
エリックが初めて“本気で戦う”話です。
ふざけてばかりの彼が、
冷たい目で杖を構え、
そして——選択を迫られます。
守るために戦うのか。
生きるために退くのか。
少しだけ、空気が重くなります。
もしかしたら、今までで一番。
※温度差にご注意ください
※心の準備をしてからお読みください
エリックは、親友が腕を盾にしてまで自分を守ってくれた事実に、息が荒くなる。
——怒りより先に、恐怖が来た。
「……まったく理解できない。なぜ身を投げ出す? 死にたいのか?」
正面に立つ男の声が冷たい。
「リサ……。マチルダを病院に送って」
「えっ、エリックは?」
リサが不安そうに聞く。
「早く! あとは……僕がやる」
エリックは声を荒げない。ただ、空気だけが重く沈む。
リサは何も言えず、マチルダを抱えた腕に力が入り、指先が白くなる。
——震えていたのは、マチルダではなく、リサの方だった。
あんな模擬戦、止めるべきだったと、自責の念が胸を締めつける。
⬛︎⬛︎⬛︎
「エリック……恥ずかしくないのか?」
「何がだ……?」
エリックは杖を構える。その目は、模擬戦の時には見せなかった冷たさを帯びていた。
「名を名乗ってなかったな。私の名はAø」
頭部のツノ、折りたたまれた翼——一目で魔族と分かる姿で、Aøは勝手に名乗った。
——魔族。その起源は謎に包まれている。どこから来たのか、いつ現れたのか、誰も知らない。
「名乗れとは言ってない。お前は僕から大事なものを奪った」
「ふっ……別に、マチルダを傷つけたい訳でも、町の人を襲いたかった訳でもない。ただ……」
Aøは一呼吸置かず、視線だけで魔力を操る。
「お前を殺したかっただけだ、エリック」
——ザン
言葉の直後、無詠唱の斬撃が正面に走る。
(無詠唱魔法……! こんな高度な魔法式を……)
「溺水の濁流」
エリックは指先から大きな水流を発生させ、Aøを囲う。
Aøは斬撃でそれを切り裂く。
「どうした? お前の属性魔法は紙っぺらか?」
(僕の魔法が切られた……! コイツの固有魔法は不可視の斬撃……? ならば……!)
「ふーん、その目……エリックよ。見えてるな?」
(バレた!)
Aøは、震える指先を見据え、言葉を続ける。
「安心しろ、貴様を殺せば、連れとマチルダには手を出さない」
片手に魔力を溜め、次の斬撃はこれまでとは比べものにならない威力になる。
「……何勝手に終わらせてんだ」
エリックは一瞬で距離を詰める。
(高速で移動する魔法だと……! 貴様、あの戦闘中に魔法式を解き、自分のものにしたのか!)
Aøは驚きを隠せない。
「僕の平穏なスローライフを邪魔すんな」
エリックは目の前で魔力を凝縮する。
「殺意の残光」
殺意を質量に変えた真っ黒な光を放つ。
Aøは寸でのところで斬撃をかわす。
(…今だ、逃げるしかない)
エリックの心は決まる。
ここで戦えば命は助かっても、力はまだ足りない。
逃げれば、次に戦う時、もっと強くなれる——。
——それより
(もしあそこで死んだら、リサが悲しむだろうな)
街の景色が流れ、風の音と魔力のざわめきが耳を打つ。
自然に、守る意味と重み、そして変われる実感が心に浮かぶ。
——間もなくアサクサ大病院!
エリックは全力で駆ける。
(エリック……! 私に背を向けたな……。次は必ず仕留めてやる……。まぁいい、まだ王の力は馴染むまで時間がかかる。)
その場に残されたAøは怒りに任せ、近くの建物を真っ二つに破壊した。
——アサクサ大病院
「マチルダの友達だ。見舞いに来た」
切迫した顔に、受付も少し戸惑う。
「えっ……508号室です……」
エリックはお礼を告げ、流れるようにエレベーターへ駆け込む。
1秒でも早くマチルダの元へ——ボタンを連打し、五階に着くとすぐに病室へ。
「マチルダ!」
ベッドにぐったり横たわるマチルダを見て、エリックは涙をこらえる。
「……逃げてきたか?」
「無理すんな、マチルダ」
強く言おうとしたが、目には涙が浮かぶ。
「医者から、マチルダさん……利き手を失った。警備部長は続けるのが難しいらしい」
リサは悲しそうにうつむく。
——魔法使いにとって利き手は魔力集中と杖操作の要だ。
利き手を失うことは魔法使いであることを諦めなくてはいけないのだ。
これを魔族に知られれば、アサクサは一気に攻められるだろう。
「マチルダ、僕のために……」
「気にすんな。親友の命に比べれば、利き手なんて大したことじゃない」
キッパリと言うマチルダ。
失った部位の痛みも、淡々と受け止める。
「さっきのAøについてだが……奴は最近生まれた魔族で、情報は皆無だ。ただ一つ言えるのは」
マチルダは左肘を見せる。
「俺がかつて葬った魔族の中でも、王に最も近い」
「……王?」
「知らないのか? リサ君」
「いえ……でも魔族の王ってØ じゃ……」
——魔王Ø 。この世界最強の魔族。
これまで何万人もの冒険者や魔法隊が挑むも、誰一人帰還できなかった逸話を持っている。
「俺も一度戦ったが、命を守るのに精一杯で攻撃どころじゃなかった……」
左肘の傷が、その証だ。
「Aøには、奴に近いものを感じた。さらに、エリック、お前の命を狙っている」
マチルダは心臓付近を指差す。
「マチルダ……まだ死ねない」
「あぁ、楽園へは行けないからな」
柔らかく笑うマチルダの顔に、エリックの心は少し軽くなった。
「マチルダありがとな。僕のために……。」
「気にすんなって言ったろ。」
「マチルダさんこれからどうするんですか?」
「あぁ部長は続けるぜ。」
「「えっ!」」
「魔法使いは別に遠距離で打つだけじゃない。俺は蹴るスタイルに変える。」
「なんで?」
「俺がいなきゃ誰がこの街を守るんだ?あと……」
「あと?」
「某コックに憧れてね。」
「回転で炎は出しませんよね?」
「出せるか!」
「ということで次回」
「「「魔法学校と新宿駅」」」




