第五話 固有魔法と噴射
前回に引き続き、相手は——
自販機魔獣。
そう、あの。
叩けばうるさい、揺らせばキレる、
そして絶対に欲しい飲み物は出てこない、
世界一理不尽な魔獣である。
普通なら苦戦必至。
魔法使いなら戦術を練り、詠唱を重ね、
仲間と連携して慎重に戦うところだ。
だが、ここにいるのはエリックだ。
固有魔法を持たず、
危機感も持たず、
ついでに今は寝袋を広げている。
「え、また任せるの?」
そう思った読者の予感は、たぶん正しい。
今回、前に出るのはリサだ。
これまでツッコミ役、常識枠、胃痛担当だった彼女が、
ついに——
固有魔法を解き放つ。
真面目で、几帳面で、
だからこそ隠してきた力。
それがこの戦いで、初めて明かされる。
相手は自販機。
されど魔獣。
そして横では、相変わらず主人公が寝ている。
「硬貨の槍」
自販機魔獣はさらにリサの足元に硬貨の結晶を出す。
リサは冷静に防御魔法で足元を防ぎ自販機魔獣に距離を詰める。
「収束する光」
リサは自販機魔獣の眼前で質量のある光を放つ。
(私の放てる公用魔法で最大火力……。これで倒したい!)
しかしリサの思いとは裏腹に自販機魔獣はピンピンとしている。
(まぁさっきので死んだらA級じゃないしね。)
自販機魔獣は苛立ちを隠さずに魔力を溜め始めた。
(何?この魔力……?)
「硬貨の砂刃」
自販機魔獣は溜まっていた硬貨を全て吐き出し剃刀のような鋭い太刀筋でリサに放つ。
リサは火炎魔法や防御魔法で撃ち返したり防御したりしたが量が激しく次第にジリ貧となる。
(私も使う時か?でも割れたらどうしよう?いや使うしか!)
「現象の反射!」
リサの正面に、空気を歪めるような鏡が現れる。
ほとんど透明だが、縁にだけ淡い光が走り、そこに「何か」が存在しているのが分かる。
その鏡に自販機魔獣の硬貨が鏡に触れた瞬間、弾かれることはなかった。
まるで水面に沈むように、硬貨は鏡の中へと溶け込み、
—— 次の瞬間、逆の向きで飛び出していく。
自販機魔獣は苛立ちを隠せず怒りのままに魔法を出す。
「硬貨の墓標」
吐き出された硬貨が、空中で重なり始める。
一枚、十枚、百枚——やがてそれは巨大な刃の塊となった。
空気が震える。
これはもう、回避できる質量ではない。
(これで受けきれるわけない……。)
リサは横目でエリックを見るがエリックはまだ夢の世界である。
(あぁ!一番頼りにしたい時なのに!)
リサの胸の奥に、焦りと苛立ちが同時に込み上げる。
(でも、エリックはこういう時果たして人に頼るだろうか?結局私は成長から逃げてるだけ……。)
「寝てることは後でたっぷりお話しさせていただくけど、ありがとうエリック。まだ諦めちゃいけないね。」
(私のできる最大火力!炎と光属性の魔力を一つにして!)
「燐光炎極」
その炎は白く、光は熱を帯びていた。
それは燃えているのに、眩しく——
眩しいのに、焼ける。自販機魔獣は魔法を打つ間もなく焼き尽くされた。
(た……倒した。)
胸の奥に張りつめていたものが、音を立ててほどけた。
その瞬間だった。
視界の端が白く滲み、足元の感覚が急に遠ざかる。
「……あ、れ……?」
力が抜け、膝が崩れた。
視界もどんどん暗くなっていく
(魔力切れ……!最悪!魔力が戻るまでずっとこのまま?地べたで寝るの今日。明日の朝どうしよう)
リサはもう、明日の朝食の献立を考えていた。
すると、体がふっと浮き上がる感覚を覚える。
目をうっすらと開けると、リサはエリックの背中にいた。
どうやら、いつの間にかおんぶされていたらしい。
リサはどんな顔でどんな姿で運ばれていたのか想像してしまい、急に恥ずかしくなる。
「……下ろしてください……。」
「あっ。起きた。魔力切れの後だからあんま無理すんなよ。」
エリックはそっとリサを下す。
「戦闘中に寝ますか?あと私普通に死にかけましたよ。」
リサはエリックを信頼しているからこその怒りをぶつける。けれど張りつめたものは長くは続かなかった。
「こわかったんですよぉ~。」
リサは小さな子供のようにエリックの胸の中で泣いた。
「おいおい。泣くなって。僕もちょっと反省してる。ほんとはあいつS級にほどなく近い魔物だったしな。でもあの魔法すごかったな。固有魔法も、あの最後の魔法も。」
エリックはそっとリサの頭を撫でる。
その姿はなれた保護者のようでもあり少し不器用な仲間のようでもあった。
「必死になったらたどり着いたんです。しかもあの魔法のバランス今やれと言われてもできないです。」
リサは小さく炎と光を合わせながら言う。
「そうだ。コーラを回収しないとねっ。」
エリックは討伐された自販機魔獣の近くにより投入口に銀貨を入れる。
「ちょっとそれダダでさえ少ない路銀なんですからね。大切に……」
——ガコン
エリックはリサの言葉を遮るように流れるように缶コーラを二本買う。
「ほらご褒美だ。一緒に飲もう。」
「コーラとかエルフの里では流通していなかったから初めて……。」
リサは少し心をときめかせる。
エリックは缶コーラを開けた。
——ブシュ
「おぉ。ん?なんかコーラが上がってきて……。」
エリックのコーラが盛大に噴出した。
おそらくリサと自販機魔獣の激闘で、中に溜まった振動が限界に達していたのだろう。
「おい!あの自販機野郎!そこまで悪あがきするのか!」
エリックは自分が戦ったわけじゃないのにリサよりもキレている。
「フフッ……。」
リサはくだらないエリックの姿を見て思わず笑ってしまう。
リサは目元の涙を拭きコーラを開けた。リサはしっかり魔法で制御して噴き出すのを防いだ。
(やっぱりいいや。このままで)
リサはびしょびしょになってしまったエリックを黙って魔法で乾かした。
「そういえばエリックの固有魔法ってなんでしたっけ?」
「ん?ないよ。」
「えっ?なんて言いました?もう一度言ってください。」
「逆に固有魔法って弱くない?」
(ダメだついていけないあの人の感覚に。)
「あれ?読者にしか言ってなかったっけ?」
「……どうせ“縛り”を課してるから強い、とかいう理論でしょう?」
「おっとそれは作者の好きな某“縛り”理論だね」
「ところで次回——」
「「アサクサと友人」」
「次回からの流れは温度差で風邪ひくかも」




