十話 乗り遅れと地下二階
今回のお話は、少しだけ温度が違います。
円卓に座る八つの影。
笑い混じりの口論の裏で動き出す“王”。
そして地下二階。
乗り遅れという絶望から生まれた魔物。
いつものように軽口を叩きながらも、
エリックは戦います。
本気で。
隣に立つと決めた少女も、
痛みを隠して前に出ます。
これは、初めてかもしれません。
エリックが「戦う」理由を、はっきりと自覚する戦いは。
少しだけ、胸がざわつく展開があります。
心の準備と、できれば風邪薬をどうぞ。
それでは——
地下二階へ。
——ここは世界のどこかにある魔族の国。
八つの椅子が、一つの円卓を囲んでいる。
静まり返ったその空間は、まるで会議室のようだった。
「久しぶりやな。五十年ぶりか?そないにしても、自分ら老けたんちゃう?」
「δ!口を慎め。全く、調子に乗った若造やな。」
「おい、ジジイ。ワイに勝てるんか?固有魔法の優秀さは誰にも負けへんで。」
αとδは口喧嘩を始める。
αは小柄な老人、δは若い男だ。しかしどちらも立派な魔族である。
「δ……まだわからんのか。ここで争うべきではない。」
「αさんの言う通りだ。δ、少し主従関係を見直した方がいいのじゃないのか?」
(いつの間に!影薄すぎや……)
δの隣に、いつの間にかΩが座っていた。
「だけどδ、αさんには勝てないじゃないの。」
鼻で笑い馬鹿にするのはεだ。
「やかましいわ!女に言われる筋合いはない!」
「今の時代、男女を区別する時代は終わったはずでしょ〜!ねっ、π」
εが視線を送る先にはπが座っていた。
「えぇ。コンプライアンス違反には抵触する発言でしょう。」
πは機械的な口調で答える。
——轟音が響く。
会議室の後方で爆炎が弾けた。二人の魔族が現れる。
「危なかったすね。先輩!爆破してなんとか間に合いました。」
「あぁ。パワーオブオール!」
爆破したのはγ、もう片方はβだ。
βは腰に刀を差している。
「全く、お主の固有魔法では放射線が出るから止めろと言ったではないか。」
γの固有魔法は核分裂。
空気が歪み、熱ではない“破壊そのもの”が生まれる。
さらに魔法式の精度に放射線が強く関係する。放射線を魔法式が浴びると形が崩れ魔法が正しく撃てなくなる。
「お前ら全員揃ったか?」
その声に、一斉に頭を地につける。
(……王が来た!)
「いらっしゃいましたか、Aøさま。」
「これから第一回七冠会議を始める。」
——新宿駅では
「ここが地下二階……。一段と雰囲気が変わりました……。」
「ここからは強力な魔物も出る。ほら。」
エリックが見据える先に魔物が現れる。
「乗り遅れだぁぁぁぁあ〜!」
「なんですか?あの出オチの魔物は……。」
リサは腫れ物を見るような目で見つめる。
「あいつはS級の遅刻魔だ。この駅で乗り遅れた絶望が溜まりに溜まってな。怨念と魔力が結びついた結果だ。」
——がぁぁぁぁぁあ
遅刻魔は言葉には表せない叫びをする。
「詳しいね、エリック。その“友達”のおかげですか?」
エリックは小さく頷き杖を出す。
「さぁ片付けるよ。」
「どけ……、間に合わないだろ!」
「雷の格子」
遅刻魔は五本の指から糸状の雷を出しエリックに放つ。
「地面の隆起」
エリックは地面に手をつく。
すると地面が盛り上がり雷を防ぐ。さらに遅刻魔にダメージも与える。
(私も……!)
「炎の直線」
隆起した地面が死角を生み、その隙間から炎を放つ。
しかし
——炎は消えた。
比喩ではない。
さっきまで燃え盛っていたはずの炎が跡形もなく消えている。
(なんで……!魔法がかき消された。)
——ジュ。
焼けた匂いが鼻を刺す。
一瞬、自分のものだと理解できなかった。
遅れて、背中から崩れ落ちる感覚。
呼吸が浅くなる。
(……消えたんじゃ、なかった)
視界の端で、炎が揺れている。それは確かに、自分の魔法だった。
リサの背後から、正確に撃ち抜かれていた。
「リサ!」
「平気です……炎の属性を扱うから火には多少は耐性がある……。」
リサは口では強がるが体が震えている。
服が焼かれ露出した肌も真っ赤に腫れている。
(エリックに今は心配されたくない……。)
リサのわがままなのは本人がよくわかっていた。
きっとエリックなら火傷をすぐに治す魔法くらい持っているだろう。
——しかし
(隣に立つって、決めたんだから。)
「光の梯子」
リサは火傷のズキズキとした痛みを堪えて遅刻魔の頭上に魔法陣を展開し、そこから光を放つ。
「遅いな……。間に合わないぞ。」
遅刻魔は防御魔法を展開し光を防ぎ、リサに間合いを急に詰める。
「まずは……一人……。」
——雷電
遅刻魔は静かにリサに触れる。
——バチバチ
何かが弾けた。
直後、音が消えた。
感触が消える。
そして——自分の体の存在すら、曖昧になる。
リサの視界は真っ白になり音も感触も全てが消え失せた。
「おい。」
エリックは血を這うような声で言う。
エリックの周囲の空間が、わずかに軋む。空気が重く沈み、呼吸さえ困難になる。
「僕の仲間に手を出したらどうなるかわかるよね?」
エリックは指先に光属性と闇属性の魔法を練り出した。
——半間の世界
エリックは魔法を唱えなかった。
ただ、次の瞬間には物凄い衝撃、轟音……。
遅刻魔は言葉を発するもなく散った。
(まさか僕が編み出した“雑魚殲滅魔法”で倒せるとは……。)
エリックは倒れるリサに近寄りリサを担ぐ。
魔法で浮かせることもできたがそれは何故か、エリックの考えには浮かばなかった。
(リサを傷つけさせない。それが、僕の今の役割だ)
エリックは安全地帯を探して歩き出した。
「はははは!卵ども!よく地下二階へ進んだな!」
「おい!うちの連れが死にかけてるぞ!」
「……まさか、作者……エリックがガリガリ君買わないから消そうとしてる……?」
「いやいや、そんなことしませんよ。リサはお気に入りのキャラですし、あぁこっちの世界に来てくれぇ!」
「作者、欲丸出しだな。変態か?それとも……モテ……んんん!」
「エリックは黙らせておいてとアユミさん一ついいですか?」
「なんだ?」
「あなたがヤバい人説がだいぶ広がってますがほんとにヤバい人なの?」
(普通本人に聞く?)
「リサ、普通本人に聞く?って思ったよね?」
「なんでわかったの?」
「ちょっと!そろそろ限界が来るぞ……!」
「次回」
「「安全地帯とサムライ」」「んんんんんんん!」
「やべエリックの魔法解くの忘れてた。」
「……まぁいいか。」
「よくない!それリサが言う?」




