表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/244

第八十五話「夢の真意」



川岸の松明の灯りが、アジョラの思慮深い表情を照らし出していた。部下たちは困惑の色を隠せずにいる。聖女が、なぜ異教徒の戯言に真剣に耳を傾けているのか理解できずにいた。


「聖女様...」


カマエルが口を開きかけたが、アジョラは手を上げて制した。


「静かになさい」


その声には、有無を言わせぬ威厳があった。彼女の瞳は、メルベルの顔を見据えている。


「メルベル殿、もう少し詳しくお聞かせください。あなたが魔王の手下になるという夢について」


「俺も...自分でもよくわからないんです」


メルベルは困惑の表情を浮かべた。


「夢ではそうなっているから、としか言いようがありません。なぜそうなるのか、どういう経緯でそうなるのかは...」


「では、夢の中のあなたは、邪悪な気持ちで人々を殺戮していたのですか?」


アジョラの質問は、核心を突いていた。部下たちは、聖女の異常なまでの関心に戸惑いを隠せない。


「聖女様」


別の神官が割って入ろうとしたが、アジョラの鋭い視線が彼を黙らせた。


「そろそろ決断を...時間が」


「私が話しています」


アジョラの声は氷のように冷たかった。部下たちは、彼女のこのような一面を見るのは初めてだった。


メルベルは目を閉じ、夢の記憶を辿ろうとした。今まで、予知夢の内容について誰かと真剣に語り合ったことはなかった。アザリアでさえ、笑い飛ばしただけだった。


「そういえば...あまり深く考えたことがありませんでした」


メルベルの声に、自分自身への驚きが込められていた。


「夢の最初では、俺は悪魔に襲われている女性を救おうとしていました。当時は、それがアザリアだとはわからなかったのですが」


「続けてください」


「俺は必死に敵を倒していました。彼女を守るために。しかし...」


メルベルの表情が苦痛に歪んだ。


「気がつくと、俺が倒していたのは勇敢な神殿戦士たちでした。そして、アザリアだと思っていた女性は...」


「何でしたか?」


「邪悪な魔王でした」


アジョラの瞳に、理解の光が宿り始めた。部下たちは相変わらず困惑しているが、彼女だけは違った。


「その魔王の外見は、どのようなものでしたか?」


「外見...」


メルベルは額に手を当てて、記憶を探った。初めて、夢の詳細について真剣に思い出そうとしている。


「ええっと...グニャグニャしていて、よくわからない感じでした。形が定まらないというか...大きくはない気がします。でも、とても恐ろしい存在でした」


アジョラは静かに頷いた。そして、手で部下たちを制すると、深い思索に沈んだ。


松明の炎が風に揺れ、川の流れる音だけが夜の静寂を破っている。


(なるほど...)


アジョラの心の中で、パズルのピースが組み合わさり始めていた。


(アザリアが誘拐された理由は、彼女が単なる鍵や触媒だからではない。彼女自身が...変貌するのでは?)


夫ガレスから聞いた古い伝承が、記憶の奥から蘇ってきた。微睡の魔王についての、恐ろしい言い伝えが。


(もしかすると...)


アジョラの表情に、深い憂慮が浮かんだ。しかし、この推測を今ここで口にするのは早計すぎる。確証もない。


「聖女様?」


カマエルの声が、アジョラを現実に引き戻した。


「どうされましたか?顔色が...」


アジョラは立ち上がった。その表情には、確固たる決意が宿っている。


「メルベル殿、あなたの夢について、まだ考えなければならないことがあります」


「はい」


「しかし、今は時間がありません。まずはアザリアを救うことが先決です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ