表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/244

第七十四話「監視と選定」



食堂の隅のテーブルでは、数人の男たちが何気ない風を装いながら、アザリアとメルベルの会話に耳を澄ませていた。


「できる!俺がいれば、あんたを絶対に守り抜ける。どんな敵が来ようとも!」


メルベルの大声が食堂中に響いた時、男たちは密かに顔を見合わせた。


*これはまずい*


彼らの任務は、二人の動向を監視し、会話の内容を逐一報告することだった。そして今、最も恐れていた事態が起こっている。


二人が独断で遠征を計画している。これは絶対に阻止しなければならない。


男の一人が席を立ち、そっと食堂を出て行った。急いで神殿の担当者に報告する必要がある。


---


神殿の奥深くにある会議室では、アジョラが数名の信頼できる関係者と共に、密かに後継者選定の会議を進めていた。


「試験の結果はいかがでしたか?」年配の神官が尋ねる。


「数値的には申し分ありません」別の担当者が資料を見ながら答えた。「五つの聖火を宿した巫女としては、最高クラスの能力です」


アジョラは満足げに頷いた。実は彼女は、試験会場の様子をこっそりと見ていたのだ。隠し扉の向こうから、アザリアの一挙手一投足を観察していた。


*あの顔つき...*


アザリアの表情から、彼女の根性、純真さ、そして何より気合いの入り方を見抜いていた。今時の若い巫女にありがちな、おすました様子とは全く違う。


そして何より心を打たれたのは、メルベルを必死に応援している姿だった。


「メルベル!頑張って!」「負けちゃだめよ!」


その声援は、昔の自分を思い出させた。夫のガレスを応援していた、あの頃の自分を。


*あの情熱的な絆...*


アジョラの胸が熱くなった。現代の契約制度では決して見ることのできない、真の絆がそこにあった。まさに自分が求めていた、昔ながらの巫女とガードの関係だった。


「それで、大部隊の編成についてはいかがしましょう?」


「彼女のためなら、軍を動かしても良いでしょう」アジョラは力強く答えた。「あれほどの逸材を、このまま眠らせておくわけにはいきません」


その時、会議室の扉が慌ただしくノックされた。


「失礼します。少し緊急の連絡が...」


担当者の一人が慌てた様子で入ってくる。


「何事ですか?」


「アザリア聖女とメルベルの件ですが...どうやら二人が独断で遠征を計画しているようです」


会議室の空気が一変した。


「何ですって?」


「先ほど食堂での会話を聞いた者からの報告です。二人だけで残りの聖地を攻略する約束を交わしたとのことです」


関係者たちは慌てふためいた。


「それは困ります」


「計画が台無しになってしまう」


「すぐに止めなければ」


アジョラは複雑な表情を見せた。一方では、二人の情熱に胸が熱くなる。あの勇気、あの絆。まさに自分が若い頃に抱いていた想いと同じだった。


*私たちも、最初は二人だけで旅立ちたいと思っていた*


ガレスと共に、世界の果てまで冒険する夢を見ていた。誰の指図も受けず、二人だけの力で困難を乗り越える。その美しい夢を、彼女もかつて抱いていたのだ。


しかし、現実は厳しかった。アジョラは軍勢を率いてなお、夫を失った。どれほど強い絆があろうとも、どれほど情熱があろうとも、力不足では愛する人を守れない。


*情熱は大切だが...*


アジョラは苦い表情になった。


「すぐにアザリア聖女を呼び出してください」彼女は決然と命じた。「都での勤務を言い渡します。それで足止めを」


「承知いたしました」


「あたら若い優秀な巫女を失うわけにはいきません」


アジョラの声には、深い愛情と責任感が込められていた。自分の経験した悲劇を、決して繰り返させてはならない。


会議室は慌ただしくなった。関係者たちが次々と指示を出し、緊急の連絡網が動き始める。


アジョラは窓の外を見つめながら、遠い昔の記憶に浸っていた。


*ガレス...*


あの頃の自分たちも、きっとアザリアとメルベルのような輝きを持っていた。無謀で、情熱的で、何も恐れることなく。


しかし、その輝きは失うにはあまりにも貴重すぎる。どんな手を使ってでも、二人を守らなければならない。


たとえ彼らが自分を恨むことになろうとも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ