第六十六話「嘲笑される予言」
アザリアは息を切らしながら、ようやく笑いを収めようとしていた。
「はあ、はあ...ごめんなさい、もう...」
彼女は胸を押さえて荒い息をついている。
「じゃあ、次は何が起きるのかしら?」
その問いかけには、まだ笑いの余韻が残っていた。
メルベルは渋い顔をして答えた。
「...あんたが神殿の神官たちに襲われて、拷問を受ける」
瞬間、アザリアの体が再び震え始めた。
「ぷっ...あははははは!」
今度は体を二つに折って、お腹を押さえながら苦しそうに笑い出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい!でも...神官たちが私を?拷問を?」
彼女は涙を拭いながら続けた。
「なんで...なんでそういうことになるのよ!」
メルベルの表情は更に暗くなった。
「夢のお告げは詳細に関してはわからない。結果だけだったり、差し迫った危機の結果だけしか見えないんだ」
「あはは...そうなの...」
アザリアは笑いながらメルベルの肩に手を回した。
「じゃあ、これからもしっかり私が神官たちに襲われないように守ってね」
その言葉と共に、再び吹き出してしまう。
「おい」メルベルの声に苦々しさが混じった。「そんなに笑うことないだろ」
彼の表情には明らかに傷ついた色が浮かんでいる。
「俺は真剣に心配してるんだ。あんたの身を案じて...」
「ごめんなさい、本当に」アザリアは笑いを収めようと努力しながら言った。「でも、どうしても...想像すると...」
彼女は再び小さく笑ってしまう。
「冒険の中止に関しては...はあ、はあ...まあもっともな話だから、少し考えましょう」
アザリアは苦しそうに息を吐いたり吸ったりを繰り返している。笑いすぎて呼吸が乱れているのだ。
「はあ...でも本当に...神官たちが...ぷっ...」
メルベルは深いため息をついた。自分の最も深刻な懸念を、ここまで徹底的に笑い飛ばされるとは思わなかった。
神殿のロビーでは、まだ数人の職員がこちらを見ている。聖女が大声で笑っている光景は、確かに珍しいものだった。
「アザリア...」
「ごめんなさい、もう笑わないから」
彼女は手をひらひらと振りながら、なんとか呼吸を整えようとしている。
「でも、あなたって本当に心配性なのね。予知夢なんて...」
「もういい」メルベルは立ち上がった。
「え?」
「もういい。忘れてくれ」
彼は歩き出そうとしたが、アザリアが慌てて引き止めた。
「待って、メルベル。本当にごめんなさい」
彼女の声に、ようやく謝罪の色が宿った。
「私、笑いすぎたわ。でも、あなたの心配してくれる気持ちは分かるの」
メルベルは振り返った。アザリアの表情は、少し真剣になっている。
「冒険のことは、本当に考えてみるから。約束するわ」
その言葉に嘘はないように見えた。メルベルは若干肩をすくめた程度で、それほど深刻には受け取らなかった。
確かに笑われたのは気分が良くないが、アザリアらしいといえばアザリアらしい反応だった。彼女の性格は十分に理解している。
「まあ、いい」彼は短く答えた。「考えてくれるなら、それで十分だ」
しかし、首の金の鎖の重みだけは、どうしても気になって仕方がなかった。




