第六十五話「予知夢の告白」
「それに...俺には予知夢がある。最近の夢が、あまりよくない」
アザリアは不思議そうな顔をした。
「予知夢?」
彼女は首を傾げながら聞き返した。メルベルがそんなことを言うのは初めてだった。
「ああ」メルベルは重い口を開いた。「俺の一族には、法力以外に少し変わった伝統がある」
彼は神殿の応接室の窓を見つめながら続けた。
「夢の内容を重視して戦ってきたんだ。父も、祖父も、その先祖たちも。夢で危険を察知し、夢で勝機を掴んできた」
アザリアは身を乗り出して聞いている。
「闇の戦士の血筋には、そういう能力が宿るらしい。ただし...」メルベルの表情が暗くなった。「代償もある。父と祖父は、最後の予知夢を見た後で死んだ」
「最後の予知夢?」
「自分の死期を悟る夢だ。それを見た時、彼らは俺にその内容を語ってから旅立った」
メルベルは拳を握りしめた。
「俺も同じ道を歩むことになるだろう。だが、それまでは夢が俺を導いてくれる」
アザリアは真剣な表情で聞いていた。
「あなたがよくうなされているのは...」
「悪夢を見るからだ」メルベルは頷いた。「特に最近は、微睡の魔王に関する夢が多い。魔王の復活、世界の破滅...そして、あんたが巻き込まれる光景」
彼は辛そうな表情を見せた。
「神殿での拷問、泣き叫ぶあんたの姿。俺はそれを止めることができない。だから、これ以上危険な冒険は避けるべきだと思うんだ」
メルベルは熱を込めて続けた。
「俺がこの無謀な冒険に付き合ってきたのも、最初は夢の警告があったからだ。あんたを見捨てれば、もっと悪い結果が待っていると感じた。だが今は...」
彼は首に巻かれた金の鎖を意識しながら言った。
「今は状況が変わった。あんたはもう十分強くなった。これ以上の危険を冒す必要はない」
アザリアはしばらく黙って考え込んでいた。メルベルの真剣な表情、熱のこもった説明、そして彼が語った家族の伝統。
すべてを聞き終えた後、彼女はじっくりと時間をかけて考えていた。
そして突然、小さく吹き出した。
「ちょっと...ごめんなさい」
彼女は手で口を押さえたが、笑いを抑えきれない。
「申し訳ないんだけど...」
そして、ついにお腹を抱えて大笑いし始めた。
「あはははは!予知夢って!あはははは!」
メルベルは困惑した。
「何がおかしい?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」アザリアは涙を浮かべながら笑い続けた。「でも、メルベル、あなたってば...」
彼女は笑いながら手をひらひらと振った。
「予知夢で私の未来を心配してくれてたのね。なんて可愛らしいの」
「可愛らしい?」メルベルの眉間に皺が寄った。
「だって、そんなの迷信よ」アザリアは笑いを収めようとしながら言った。「確かに直感は大切だし、戦士の勘も馬鹿にできないけれど...予知夢だなんて」
彼女は再び笑い出した。
「じゃあ今の私がこうしていられるのは、あなたが...うふふ...その夢のお告げで魔王が復活すると思ったから!?」
アザリアの声は次第に大きくなっていく。
「あの安いお金で命懸けでついてきたのも、命懸けで闇の森の中で一緒に息を潜めたのも、悪魔を倒したのも、その夢のおかげなんだ!?」
「あはははは!ちょっと、ごめんなさい!」
彼女の笑い声は神殿のロビーに響き渡り、通りかかった神殿戦士や事務員たちが振り返って見ている。
メルベルは渋い顔をして肩を落とした。
「それが伝統なんだ。おい、そんなに笑うことないだろ」
彼の声には明らかに傷ついた様子が滲んでいた。
「真面目に話してるんだ...」




