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第六十四話「偽りの装い」



しばらくすると、神殿の奥から優雅な足音が響いてきた。


アザリアが現れたのだ。彼女の後ろには、若い巫女が控えめについてきている。見習いなのか、それとも新たに配属された世話係なのか。いずれにせよ、聖女としての地位が高まったことの証だった。


ナブは椅子から慌てて立ち上がり、深々と頭を下げた。


「聖女様、この度は本当に素晴らしいご成果でした」


彼は満面の笑みを浮かべながら続けた。


「五つの聖火を宿される巫女様に、微力ながらお手伝いできたことを光栄に思います。これで皆の生活も安泰というものです」


アザリアは上品に微笑みながら答えた。


「ご協力いただき、ありがとうございました。おかげで無事に帰ってこられました」


その声は落ち着いており、聖女としての威厳を備えていた。しかし、メルベルにはどこかわざとらしく感じられた。


メルベルは二人の会話を聞きながら、頭の中で先ほどの情報を咀嚼していた。


*つまり...俺は昨日、酒の勢いに任せて古代の絶対解除不可能な呪いの契約をアザリアと結んだということか?*


いや、そんなはずはない。あれは別の契約だったはずだ。アザリアも「簡易的なもの」と言っていた。


*でも...*


彼は服の下で首に巻きついている金の鎖を意識した。そして、アザリアの首元に目をやる。彼女の若干薄着の装いから、同じような金の首飾りの鎖がちらりと見え隠れしていた。


「それにしても」アザリアが振り返った。「お二人で何を楽しそうに話していらしたの?」


ナブは屈託なく答えた。


「メルベル殿と、これからのガードとしての活動について相談していたんです」


「そうですか」


「ええ、彼の契約に関していろいろと教えてもらっていました」ナブは続けた。「それで思ったのですが、そろそろあなた方も神殿で正式に契約されたほうがいいのではないでしょうか?」


メルベルは内心で冷や汗をかいた。今更神殿で契約など...


しかし、アザリアはニコニコと微笑みながら答えた。


「それは彼の意思にお任せします。無理強いは良くないですからね」


その言葉は表面的には配慮に満ちているが、メルベルには別の意味に聞こえた。まるで「もう遅い」と言っているかのような...


「聖女様は寛大でいらっしゃる」ナブは感心したように言った。


「当然のことです」アザリアは上品に答えた。「信頼関係が一番大切ですから」


メルベルは彼女の横顔を見つめた。昨夜の涙は演技だったのか?古式の契約についての説明は、計算されたものだったのか?


*いや、まだ確証はない*


彼は自分に言い聞かせた。疑い始めればきりがない。


「メルベル」アザリアが振り返った。「何か話があるんでしょう?」


「ああ...」


彼は立ち上がった。しかし、首の金の鎖が妙に重く感じられる。


「少し相談したいことがあるんだ」


「分かりました」アザリアは若い巫女に振り返った。「リア、先に部屋で待っていて」


「はい、聖女様」


見習いの巫女が頭を下げて去っていく。


「ナブ殿も、お疲れ様でした」アザリアが丁寧に挨拶した。


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


ナブは再び深々と頭を下げて立ち去った。


二人だけになると、アザリアは親しみやすい表情に戻った。


「さあ、何の相談?」


メルベルは彼女を見つめた。いつものアザリアだった。しかし、首元にちらりと見える金の鎖が、彼の疑念を掻き立てる。


まずは初志貫徹だ。昨夜のことは後にして、これからの冒険について話そう。


「これからの聖地巡礼のことだ」


「ああ、残りの聖地のこと?」


アザリアは興味深そうに身を乗り出した。


「そうだ。バビロンとエリドゥ...特にエリドゥについて、考え直したほうがいいんじゃないか」


メルベルは慎重に言葉を選んだ。


「あんたはもう十分すぎる成果を上げた。五つの聖火を宿した聖女として、誰もが認める地位にいる。ここで無理をして命を落とす必要はない」


アザリアの表情が微妙に変わった。


「あら、弱気になったの?」


「弱気じゃない。現実的に考えてるんだ」メルベルは続けた。「エリドゥは生還者がアジョラ聖女以外にいない。俺の護衛能力にも限界がある」


彼は首の違和感を感じながらも、真剣に話した。


「それに...俺には予知夢がある。最近の夢が、あまりよくない」

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