第六十二話「翌朝の違和感」
頭痛で目を覚ましたメルベルは、昨夜の記憶を辿ろうとした。
酒場での祝杯、アザリアの涙、そして何かの儀式...しかし、記憶は酒の霧に包まれて曖昧だった。
「飲みすぎたな」
彼は呻きながら体を起こした。陽光が窓から差し込み、既に朝も遅い時刻を告げている。
*これからどうするか...*
メルベルは重い頭を抱えながら考えた。アザリアとの最初の契約—聖地巡礼の護衛—は、ある意味では達成されたと言える。五つの聖火を手に入れた彼女は、もはや立派な聖女だった。
彼女の動機だった「みんなを見返す」という目標も、ほぼ完遂されている。都での歓迎ぶりを見れば明らかだった。
*ここらで手打ちにするべきかもしれん*
残りの聖地—バビロンとエリドゥ—は、明らかに次元の違う危険が待っている。特にエリドゥは、アジョラ聖女以外に生還者のいない魔境だ。
無理な冒険を続けて命を落とすのは、無謀以外の何物でもない。
そして、予知夢のことだ。
メルベルは最近の悪夢について考えた。微睡の魔王の復活、アザリアの拷問...断片的な映像から、ある仮説が浮かんでいた。
*魔王が復活する条件は、アザリアが旅の途中で死ぬことなのかもしれない*
護衛に失敗し、彼女が命を落とせば、その聖火エネルギーが魔王復活の引き金になる。神殿関係者がアザリアを拷問する夢は理解に苦しむが、何らかの関連があるのかもしれない。
*だとすれば、冒険を終わりにするのが正解だ*
ここで旅を打ち切れば、アザリアは安全だ。そして魔王復活の危険も回避できる。
彼は桶に溜まった水で顔を洗おうと身をかがめた。しかし、首元に何かが引っかかる感覚があった。
昨夜もらった首飾りだった。金の鎖が首に巻きついている。
「邪魔だな」
メルベルは外そうとしたが、留め金が見つからない。鎖は彼の首に密着し、まるで一体化したかのように外れない。
「なんだ、これは...」
不思議に思いながらも、彼は諦めて顔を洗った。昨夜の酒で判断力が鈍っていたのだろう。きっと特殊な仕組みの留め金なのだ。
身支度を整えると、メルベルは神殿に向かった。アザリアに会って、これからのことを相談するつもりだった。
*偉大な友人*
彼は心の中でアザリアをそう呼んだ。確かに彼女は傲慢で気が強いが、共に困難を乗り越えてきた仲間でもある。自分の苦悩を聞いてもらっても、バチは当たらないだろう。
予知夢のこと、魔王復活の懸念、そして旅を終わりにする提案。すべてを正直に話そう。
神殿への道を歩きながら、メルベルは首の違和感を感じ続けていた。金の鎖が肌に食い込むような感覚。まるで、何かに縛られているような...




