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第六十話「凱旋と挫折」



都の城門をくぐった瞬間、歓声が沸き起こった。


「聖女アザリア様のお帰りだ!」


「五つの聖火を宿した方だ!」


大通りの両側に集まった群衆が、惜しみない拍手を送っている。アザリアは満面の笑みを浮かべ、優雅に手を振り返した。


「メルベル、一緒に」


彼女は嫌がるメルベルの腕を強引に引っ張り、観衆の前に連れ出した。


「やめろ、俺は裏方でいい」


「だめよ、あなたも立派な功労者なんだから」


アザリアは彼の抵抗を無視して、堂々と大通りを歩き始めた。簡素な旅装ではあったが、今は誇らしく感じられる。自分の成し遂げた偉業の証なのだから。


彼女はわざとゆっくりと歩いた。これみよがしに、しかし上品に。群衆の歓声を一つ一つ味わいながら。


*見なさい、私がどれほどになったかを*


最初に聖地巡礼を命じた神官たちは、この群衆の中にいるだろうか。自分たちを見下していた連中は、今の自分をどう思うだろうか。


神殿の正門前では、職員たちが整列して出迎えていた。神殿戦士、事務職員、そして巫女たち。皆、敬意に満ちた表情でアザリアを見つめている。


「聖女アザリア様、お帰りなさいませ」


年配の事務官が深々と頭を下げた。


「ご苦労様でした。素晴らしい成果をお聞きしております」


アザリアは誇らしげに頷いた。


「神のご加護のおかげです」


一行は神殿内部へと案内された。応接室は、アザリアがかつて見たことのない豪華な部屋だった。金糸で刺繍されたタペストリー、磨き上げられた大理石のテーブル、そして天井から下がる水晶のシャンデリア。


メルベルは再び居心地の悪そうな表情を浮かべている。旅の擦り切れた服では、この部屋があまりにも不釣り合いだった。


「メルベル、ここで待っていて」アザリアは振り返って言った。「報告が済んだらすぐに戻るから」


彼は無言で頷き、硬い椅子に腰を下ろした。


アザリアは事務官に案内され、報告のための別室へ向かった。


「それでは、詳細な報告をお聞かせください」


アザリアは誇らしげに語り始めた。シッパルでの聖火受領、キシュの森での困難、そして何よりルカヴィとの戦い。


「ルカヴィを?」事務官の目が見開かれた。「まさか、知性型アンデッドを?」


「はい。メルベル...私の護衛が命がけで戦ってくれました」


事務官は感嘆の声を上げながらメモを取った。


「素晴らしい。これほどの成果は前例がありません」


報告が一段落したところで、アザリアは切り出した。


「実は、一つお願いがあります」


「何なりと」


「私はここまで、正式なガードを定めていませんでした。同行している戦士を、私のガードに任命したいのです」


アザリアは澄ました顔で続けた。


「もちろん、戦士も私のガードとして契約を結ぶと誓っています」


それは真っ赤な嘘だった。メルベルにはまだ何も話していない。


事務官はルカヴィの報告でニコニコしていたが、この話を聞いて表情を曇らせた。


「それは...少々難しいかもしれません」


「なぜですか?」


「あの戦士ですが...調べたところ、犯罪歴があるようでして」


アザリアの表情が凍りついた。


「犯罪歴?」


「盗賊まがいの仕事をしていた記録があります。神殿の内規から申しましても、現実的ではありません」


事務官は申し訳なさそうに続けた。


「特に、五つの聖火を宿された聖女は、地方都市の監督をお任せすることがほとんどです。いわば神殿の顔、看板となる存在です。そのような方が犯罪歴のある異教徒をガードにするのは...申請が通らないでしょう」


アザリアは激怒した。しかし、表面上は冷静を装った。


「そうですか...残念です」


「申し訳ございません。もし他にご希望があれば、優秀な神殿戦士をご紹介いたします」


アザリアは曖昧に頷いたが、内心では全く違うことを考えていた。


*神殿の規則がだめなら...*


彼女の頭に、ある知識が浮かんだ。神殿発足前の古い時代、巫女たちが男性と契約を結ぶ古式ゆかしい方法。結婚指輪などが存在しなかった頃の、古代の婚約に準えたやり方。


*あの方法なら...*


アザリアの口元に、微かな笑みが浮かんだ。神殿の内規など関係ない、もっと根本的で、もっと拘束力の強い契約。


「承知いたしました」彼女は上品に微笑んだ。「お心遣いに感謝します」


事務官はホッとした表情を見せた。


「では、明日の正式な聖女認定式の準備を進めさせていただきます」


「よろしくお願いします」


アザリアは立ち上がり、応接室へ戻った。メルベルは相変わらず居心地悪そうに座っている。


「お疲れ様」彼女は明るく声をかけた。


メルベルは多少安心したような表情を見せた。一人でこの豪華な部屋にいるのは、やはり落ち着かなかったのだろう。


「俺は宿に戻るが」彼は立ち上がりながら言った。


「ええ」アザリアはニコニコと微笑んだ。「じゃあ、後でいつもの食堂で夕食頃に会いましょう」


「分かった」


メルベルは簡潔に答えて部屋を出て行った。彼は契約のことなど何も知らず、ただいつも通りの調子で別れただけだった。


一人になったアザリアの目に、再び何かを企む光が宿った。神殿の規則に阻まれたが、彼女には別の手段があった。もっと確実で、もっと永続的な方法が。


*今度こそ、この男を逃がさない*


彼女は心の中でそう誓った。メルベルは自分の運命がどう変わろうとしているのか、まだ知る由もなかった。

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