第五十四話「復讐の悪魔」
森の木陰から姿を現したのは、あの青白い顔の女だった。
しかし、今度は前回とは明らかに様子が違う。切断されたはずの手首は完全に再生されており、全身を覆うのは人の皮で作られた鎧と、無数の頭蓋骨で装飾された禍々しい装備だった。腰に下げた武器も、前回の単純な槌ではなく、骨と鉄を組み合わせた異形の剣だ。
女の口元に、憎悪に歪んだ笑みが浮かんでいる。
「ようやく見つけたわ、腐れ法力使い」
その声は前回よりも低く、より邪悪な響きを帯びていた。
「前回は油断した。今度はそうはいかない」女は骨の剣を抜き放つ。「その腐れ巫女の聖火エネルギーをいただいて、忌々しいお前を八つ裂きにしてやる。私が王に認められた存在になるためには、お前らを殺すしかないのよ」
アザリアの顔が青ざめた。聖火を受け取ったばかりで、体力も精神力も限界に近い。ここで大怪我を負えば、森からの脱出は絶望的になる。
「メルベル...」彼女の声に不安が滲む。
メルベルは剣を抜き、炎を纏わせた。今度は逃がすわけにはいかない。この強敵を完全に始末しなければ、生きて帰ることはできないだろう。
「今度こそ、決着をつける」
彼は低く呟くと、全力で法力を込めて女に躍りかかった。
「やあああっ!」
炎を纏った剣が空を切り裂く。しかし、女は前回とは比べ物にならない速さでそれを回避した。
「遅い!」
骨の剣が唸りを上げてメルベルの脇腹を狙う。彼は間一髪でそれを剣で受け止めたが、その衝撃で数歩後退させられた。
*なんだ、この力は...*
前回の戦いとは明らかに次元が違う。女の動きは人間の域を完全に超えている。
「どうしたの?前回はもう少しマシだったじゃない」
女が嘲笑いながら連続攻撃を仕掛けてくる。骨の剣が複雑な軌道を描き、メルベルを追い詰めていく。
彼は必死に剣を振るって防御したが、徐々に後退を余儀なくされる。女の攻撃には、単純な怪力だけでなく、奇妙な術が込められているようだった。
突然、女の左手から黒い霧が噴き出した。
「これでも食らいなさい!」
霧がメルベルを包み込む。瞬間、視界が真っ暗になり、同時に体が重くなった。まるで鉛でも飲まされたような感覚だ。
「ぐっ...」
その隙に、女の蹴りが彼の腹部を直撃した。メルベルは木に叩きつけられ、樹皮が砕け散る。
「メルベル!」
アザリアが一歩前に出ようとしたが、女の邪悪な視線が彼女を射抜いた。
「動けばその巫女から先に殺すわよ」
アザリアは足を止めざるを得なかった。メルベルは血を吐きながら立ち上がる。肋骨にひびが入ったかもしれない。だが、まだ戦える。
「近づくな、アザリア!」彼は鋭く叫んだ。「俺の邪魔をするな!」
女が再び攻撃を仕掛けてきた。今度は骨の剣から紫の炎が立ち上っている。
「死になさい!」
メルベルは横に転がってそれを避けたが、紫の炎が地面に触れると、そこの草木が一瞬で枯れ果てた。
*アンデッドの炎か...*
これは普通の戦いではない。相手は明らかに人間を超越した存在だ。しかも、前回の戦いから何らかの力を得て、大幅に強化されている。
「どうしたの?もう終わり?」
女が余裕の表情で近づいてくる。メルベルは剣を構え直したが、体のあちこちに痛みが走る。
アザリアは祠の陰で拳を握りしめていた。自分の力では戦闘の助けにはならない。聖火を使えば、さらに多くのアンデッドを引き寄せてしまう。今でさえ、遠くから複数の唸り声が聞こえ始めている。
*お願い、勝って...*
彼女はただ祈ることしかできなかった。
女が高笑いを上げた。
「そうよ、その巫女の力は私がいただくの。お前を殺した後でね」
メルベルは歯を食いしばった。午前中の太陽が頭上に昇っている。このままではまずい。夕暮れまでに森を脱出しなければ、二人とも命はない。
女が再び黒い霧を放った。今度はより濃く、より邪悪な気配を漂わせている。
メルベルは霧を避けながら、必死に反撃の機会を伺った。相手の動きを読み、弱点を見つけなければならない。
だが、女の攻撃は容赦なく続く。骨の剣、黒い霧、そして紫の炎。多彩な攻撃手段を駆使して、メルベルを追い詰めていく。
彼の服は破れ、体中に傷が増えていく。それでも、彼は剣を握り続けた。
*負けるわけにはいかない...*
アザリアの安全のため、そして自分の誇りのため。メルベルは歯を食いしばって戦い続けた。
しかし、状況は刻一刻と悪化していく。女の攻撃は激しさを増し、メルベルの体力は限界に近づいていた。
「もうすぐよ、法力使い。お前の最期がね」
女の勝利宣言が、森に不気味に響いた。




