第四十六話「提案の真意」
アザリアはエア・ナブの話を最後まで聞いたが、その表情は困惑に満ちていた。提案の内容は理解できても、その真意が掴めずにいた。
「そちらの巫女様ともよく話し合う必要がありますわね」
アザリアが慎重に答えた。
「巡礼は基本的に巫女とガードの二人一組。そもそも伝統とは違いますし、私たちのやり方を大幅に変えなければなりません」
「ごもっともです」
エア・ナブが深く頷いた。
「我々ももう一度挑戦するまでに準備期間が必要になりますので、その間にじっくりとご検討ください」
彼は立ち上がると、最後に付け加えた。
「ただし、私たちと行動することで、より安全な旅になることをお約束いたします」
丁重に礼をして立ち去る彼の後ろ姿を見送りながら、アザリアは複雑な表情を浮かべていた。
神殿を出た二人は、賑やかな商業区画にある食堂に入った。昼下がりの店内には、商人や職人たちで賑わっている。隅の席に座ると、アザリアが口を開いた。
「一体どういうつもりかしら?」
「素直に捉えるなら、話の通りだろう」
メルベルが答えた。
「戦力を集約した方がいいという、ただの合理的提案に過ぎない」
「でも…」
「確かに人数が増えれば移動速度は劣る。だが、野営の安全性は格段に上がるし、襲われた時の対応も楽になる」
メルベルは実用的な観点から話を続けた。
「特に初回挑戦の俺たちにとっては、経験者の団体に紛れ込めるのは悪くない申し出だと思うが」
アザリアは不満そうに眉をひそめた。
「けど、あの巫女…なんか気に食わないのよ」
彼女がティアマトのことを思い浮かべながら言った。
「何か変なこと考えてないかしら」
「あれだけの正規の神殿戦士がいて、おかしなことは無理だろう」
メルベルが現実的に答えた。
「十数人の神殿戦士の前で、変な小細工をするわけにもいくまい」
その時、店の一角で竪琴を奏でていた詩人が、新しい歌を始めた。
「聞け、街道を行く人々よ。異教の戦士を伴いし金髪の巫女、各地のアンデッドを打ち払い、ルカヴィの手さえも切り落とせり」
アザリアの目が輝いた。自分たちの冒険が歌になっているのを聞くのは、やはり嬉しいものだった。
「私たちの歌ね!」
「山の聖火を手にし、今や上級巫女となりし美しき巫女は、次なる聖地への挑戦を誓えり」
詩人の歌声が店内に響く中、アザリアは手を叩いて調子を取り始めた。
「いいじゃない、この歌詞!」
酒も入って上機嫌になった彼女は、すっかり歌に夢中になってしまった。先ほどまでの真剣な相談は、どこかに飛んでしまったようだった。
メルベルは苦笑しながら、一人で考え続けていた。
(こっちは初挑戦だからな)
キシュの大森林は、彼にとっても未知の領域だった。シッパルのような地理的困難とは違い、アンデッドとの本格的な戦闘が予想される。
(経験者の団体に紛れ込めるなら、それはいい申し出なんじゃないか)
ティアマト一行の戦力は確かに魅力的だった。神殿戦士たちの装備と訓練は一流だし、補給体制も万全だろう。
しかし、一方で不安もあった。大人数での行動は、それなりに制約も多い。自分たちのペースで動けなくなる可能性もある。
「ねえ、聞いてる?」
アザリアが振り返った。
「この歌、私たちが有名になった証拠よ」
「ああ、そうだな」
メルベルが曖昧に答えた。
「でも、ティアマトの提案はどうする?」
「うーん…」
アザリアが再び考え込んだ。酒の酔いで思考がぼんやりしているのか、なかなか結論が出ないようだった。
「まあ、今日は考えるのはやめましょう」
彼女が手を振った。
「明日改めて話し合いましょう」
メルベルは頷いたが、心の中では既に答えが決まりつつあった。安全を優先するなら、共同行動は悪くない選択だろう。




