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第四十五話「有名人の待遇」



都市部の神殿に足を踏み入れた瞬間、アザリアは明らかに違いを感じ取った。受付の職員たちの態度が、以前とは比べものにならないほど丁寧になっている。


「アザリア様、お帰りなさいませ」


年配の神官が深々と頭を下げた。


「四つ目の聖火受領の成功、心よりお祝い申し上げます」


「ありがとうございます」


アザリアが満足げに答えた。四つの聖火を宿した上級巫女としての扱いを受けるのは、悪い気分ではなかった。


「特別応接室をご用意いたしました。ごゆっくりとご報告をお聞かせください」


「それは丁寧にどうも」


周囲の職員たちも、畏敬の念を込めた視線を向けている。アザリアとメルベルの世直しの旅は、既に都市部でも有名になっていた。変わった二人組の冒険譚として、人々の間で語り継がれている。


「では、詳細な報告をさせていただきますね」


アザリアが自慢げに歩いていく後ろ姿を見送りながら、メルベルは受付近くの椅子に腰を下ろした。神殿の中では、やはり居心地が悪い。


(またしばらく待ちか)


メルベルがため息をついていると、声をかけてくる者がいた。


「お疲れさまです」


振り返ると、見事な金髪と白い肌の青年が立っていた。身に着けている甲冑は最高級品で、その輝きからして相当な地位にあることがわかる。いかにもエリート神殿戦士といった風貌だった。


「私はエア・ナブと申します。ティアマト様の護衛長を務めております」


(ああ、あの女の護衛か)


メルベルは内心で苦い顔をした。雇い主のライバルの護衛ということは、自分にとってもあまり良い関係ではないだろう。


「メルベルだ」


素っ気なく答えたが、エア・ナブは気にした様子もなく親しげに話を続けた。


「まずは、シッパルの聖火回収の成功をお祝いさせてください」


「別に」


「いえいえ、素晴らしい偉業です」


エア・ナブが椅子を引いて隣に座った。


「実は、私たちも次の聖地攻略で苦戦しておりまして」


「ほう」


「キシュの大森林なのですが、思った以上に手強くて」


エア・ナブの表情に困惑の色が浮かんだ。


「アンデッドの数が予想を超えており、なかなか奥地まで進めずにいます」


メルベルは黙って聞いていた。大人数で整った装備を持つ彼らでも苦戦しているということは、確かに森の環境は厳しいのだろう。


「それで、よろしければご相談があるのですが」


エア・ナブが身を乗り出した。


「私たちと一緒に行動していただけませんでしょうか?」


「一緒に?」


「はい。キシュの大森林で、共同で聖火を目指すのです」


メルベルは眉をひそめた。表面上は悪くない提案だった。大人数で整った装備をした武闘集団と行動できれば、それなりに安全は確保できるだろう。


「大森林の環境は確かに手強いですが、バビロンやエリドゥのような強敵が出てくるわけではありません」


エア・ナブが続けた。


「数の暴力で押し切れる相手です。お互いにとって有益な提案だと思うのですが」


確かに、理屈としては筋が通っている。しかし、メルベルには別の懸念があった。


(この男、何を考えている?)


単純に協力を求めているようには見えない。何らかの意図があるのは明らかだった。


「俺が決めることじゃない」


メルベルが答えた。


「雇い主に相談しなければ」


「もちろんです」


エア・ナブが微笑んだ。


「ティアマト様からも、ぜひアザリア様にお話を通していただきたいと申しております」


「そうか」


メルベルは曖昧に答えた。この提案を、アザリアがどう受け取るかは見当がつかない。ティアマトとの競争意識を考えれば、素直に受け入れるとは思えなかった。


「では、ご検討いただけますでしょうか?」


「話は聞いた」


メルベルが立ち上がった。


「後は雇い主次第だ」


「承知いたしました」


エア・ナブも立ち上がると、丁寧に頭を下げた。


「お忙しい中、ありがとうございました」


その時、特別応接室からアザリアが出てきた。満足そうな表情を浮かべている。


「お疲れさま」


メルベルが声をかけると、アザリアはエア・ナブに気づいた。


「あら、あなたは…」


「ティアマト様の護衛長、エア・ナブです」


「そう」


アザリアの表情が僅かに変わった。


「実は、お二人にご相談があります」


エア・ナブが改まって言った。


「キシュの大森林で、共同行動をとっていただけないでしょうか?」


アザリアの目が鋭くなった。その提案の真意を測りかねているようだった。


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