第四十一話「門前の待ち伏せ」
急いで街を出ようと門に向かった時、二人は足を止めざるを得なかった。
街の出口に、奇妙な一団が立ち塞がっている。一見すると普通の人間のようだが、どこか異質な雰囲気を放っていた。特に、その中央に立つ女性の存在感は異様だった。
顔は青白く、まるで血が通っていないかのような蝋人形めいた肌。しかし、その目だけは異常に生き生きとしており、二人を見つめてニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。
「これが…」
メルベルが呟いた。父がかつて倒したことがあると自慢していた相手。ルカヴィと呼ばれる知恵ある個体、不老の悪魔たち。
「アザリア、俺の後ろに回れ」
メルベルが剣の柄に手をかけながら言った。
「何なの、あの人たち?」
アザリアが不安そうに尋ねた。
「人間じゃない」
メルベルの答えは簡潔だった。
青白い顔をした女が、甲高い声で笑った。
「あら、気づいたのね。流石は…」
女は二人を値踏みするような視線で見回した。
「特に、その強そうな聖火。久しぶりに見る上質な獲物だわ」
女が手を振ると、周囲にいた手下たちが一斉に動き出した。腐敗した肌、濁った眼球、ぎこちない動作。昨夜宿に侵入してきたのと同じ、ルカヴィに使役される腐敗系アンデッドたちだった。
「来るぞ」
メルベルが剣を抜いた。刃に炎の法力が宿り、赤い光が辺りを照らす。
最初に襲いかかってきたアンデッドに対し、メルベルは一気に踏み込んだ。
「うおおおっ!」
気合と共に放たれた一閃は、アンデッドの胴体を袈裟懸けに切り裂いた。炎を纏った刃は腐敗した肉体を一瞬で焼き尽くし、アンデッドは灰となって崩れ落ちる。
「すごい…」
アザリアがグッと拳を握った。メルベルの戦いぶりは、これまで見てきた中でも格段に激しく、荒々しい戦士の本能がむき出しになっていた。
二体目のアンデッドが横から迫る。メルベルは体を捻って攻撃を躱すと、返す刃で相手の首を刎ねた。
「やあっ!」
短い掛け声と共に、三体目も胴を断たれて倒れる。
立て続けに三体を斬り伏せたメルベルの動きは、まさに古式の剣技そのものだった。無駄のない足運び、的確な間合い、そして圧倒的な破壊力。法力使いの真骨頂がそこにあった。
「頑張って!」
アザリアが声援を送る。メルベルの勇姿に、心から感動していた。
青白い顔をした女は、その様子を興味深そうに眺めていた。
「なるほど、これは面白い」
女が手を叩いた。
「化石の生き残りがまだいたとはね」
メルベルが最後の手下を切り伏せると、女はゆっくりと立ち上がった。
「私が直接相手をしてあげましょう」
そう言うと、女は背中から奇妙な形の武器を取り出した。巨大な金属の槌のような形状で、女性には到底振り回せそうにない重量と大きさだった。
「まさか…」
アザリアが息を呑んだ。
あの華奢な体格の女性が、片手であの巨大な武器を軽々と持ち上げている。明らかに人間の域を超えた怪力だった。
「ようやくわかったの?」
女がにっこりと笑った。
「私はルカヴィ。あなたたちの聖火を頂戴しに参りました」
メルベルは剣を構え直した。手下とは次元の違う相手だということが、その存在感から伝わってきた。
「アザリア、絶対に俺の後ろから離れるな」
「わかったわ」
アザリアも聖火の力を準備した。直接戦闘はできないが、援護はできる。
ルカヴィの女は巨大な槌を軽やかに振り回しながら、にたにたと笑っていた。
「久しぶりに楽しめそうね」
真の戦いが、今始まろうとしていた。




